召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
25 / 203

24. 効率よく

しおりを挟む

 本日のお買い物リストが『勇者メッセ』アプリに届いていた。
 ステータスボードはいちいち呼び出して確認しなければならないので、最近はもっぱらこのアプリで連絡を取り合っている。
 写真や動画も送れるし、手軽にやり取り出来るのが良い。

 相変わらず、三人とも食品や調味料のリクエストが多いが、内容は少し変化が見られた。
 特にハルは初日、調味料以外ではポテチなどのスナック菓子ばかり頼んできたが、今日は缶詰やカップ麺、カロリーバーと菓子パンが占めている。

「まぁ、菓子じゃ腹は膨らまないからなぁ。さすがにヤバいと気付いたか?」

 ナツはカップ麺とパックご飯、缶詰を中心に、あとは蜂蜜やジャム、チョコレートが十個ずつのリクエスト。

「そんなに甘い物が好きだったか?」

 不思議に思ったが、早く就寝したかったので、疑問は後回しにした。
 アキのリクエストを確認する。
 コンソメ、出汁の素にインスタントの味噌汁。パスタとソースの他には、前回と同じく紅茶のティーパックが多めにリクエストされていた。砂糖も二十個ほど注文済みだ。

「100均の商品だから、砂糖の量は少なめだけど、こんなには使わないだろうし。やっぱり、異世界あるあるで売っているのか?」

 疑問のままにメッセで質問すると、あっさりと肯定された。特に隠し立てするつもりはなかったようだ。

『砂糖と紅茶を国王夫妻に売り付けている。ナツは王女にチョコと蜂蜜、ジャムを売っているようだ。結構稼げたぞ?』

 さすがアキ、しっかり国王夫妻に取り入って、さらに金儲けまで。
 ナツも王女と仲良しか。チョコや蜂蜜、ジャムの行き先に納得だ。その内、クッキーや飴なども解禁するのだろうか。

「ハルは転売なんて思い付きもしないだろうな……。自分の欲しい物だけを心のままに買っているのが良く分かるリストだ」

 脳筋とナツにバカにされているが、裏表のないさっぱりした性格の持ち主なので、そのままでいて欲しいと思う。

「ま、金は稼いでおいた方が安心だからな。不審に思われない程度に売り付けたら良いさ」

 あまり大量に物を売ってしまうと、変わったスキルがあるのではないかと疑われたり、食い物にされる可能性もあるのだ。創造神が自ら招いた勇者だから大丈夫だとは思うが。
 今のところは【アイテムボックス】にたくさん保管してある、で誤魔化しているようだった。

「今夜はもう寝るか」

 頼まれていた買い物も済ませ、それぞれのアイテムボックスに送っておいた。
 


 朝食はおにぎりとホーンラビットの唐揚げ、インスタントの味噌汁で済ませた。
 おにぎりはパックご飯を温めて、鮭フレークを混ぜて握ったのだが、結構美味しい。
 味付け海苔や鮭フレーク、ふりかけも100円ショップは充実しているので、おにぎりは色々な種類を楽しめそうだ。

「それにしても、加熱ヒートがこんなに使える生活魔法だったとは……」

 パックご飯をこれまでずっと湯煎して使っていたが、ナツが「生活魔法の加熱ヒートが電子レンジ代わりになるよ?」と教えてくれたのだ。

「なんで思い至らなかった、俺……」

 地味に湯煎は手間暇と時間が掛かっていたのだ。魔法を使えば、三十秒でほかほか炊き立てご飯が食べられた。
 インスタントのわかめ入り味噌汁が沁みるほど美味しい。ホーンラビットの唐揚げも【アイテムボックス】のおかげで、揚げたての状態が保たれている。
 さくさくの衣に噛み締めると少しだけ弾力のある肉とたっぷりの肉汁が溢れてきて、思わず声が出るほどだ。
 相変わらず、魔獣肉は美味しいので、今日もたくさん狩ろうと思う。

「午後二時頃には進行をストップして、仮の拠点作り。一日六時間進むペースを維持して、残りの時間は周辺で狩猟と採取に当ててポイント稼ぎと食材集めだな」

 拠点作りの際に二十本ほど周辺の木を倒せば、十万ポイントは稼げる。木材は優秀な素材だと、しみじみ思った。
 狩猟はなるべく積極的に行い、地道にレベル上げを狙う。あと、美味しい肉の確保は最優先だ。ウサギ以外の肉も食べたい。
 昨日も少し見付けることが出来たが、野菜類も積極的に探すつもりだ。
 少なくとも、玉ねぎとニンニク、ニンジンに水菜はこの世界にもあったのだ。
 他の野菜も期待できる。

「よし、行くか」

 拠点の撤収を素早く済ませて、装備を確認する。とは言え、いつも通りだ。
 パーカーにネルシャツ、防水ジャケット。手斧だけを突っ込んだリュックを背負い、採取用のナイフはポケットの中。
 身軽に動けるので、今のところはこれがベストか。
 
 魔獣を倒す際に魔法をがんがん使っているので、地味にレベルが上がっていた。
 アイテムボックスも既にレベル4なので、展開したままのテントとタイニーハウスも余裕で収納できる広さだ。

 魔力操作が細かく調整できるようになったので、魔法書にあったスキル取得の方法を試してみようと思う。目を閉じて体内に流れる魔力を意識し、全身に行き渡らせる。
 五感が更に鋭敏になった気がした。
 ゆっくりと目蓋を押し上げ、周囲を観察する。ハイエルフは目が良い。少しだけ先の尖った耳も小さな音を拾うことが出来る。
 握り込んでいた拳を開き、トンと身軽に地を蹴ってみた。
 特に力を込めたわけでもないのに、その身は二メートル上の太い枝の上にある。
 指先に至るまで力が満ち溢れてくるような全能感に戸惑うが、気分は悪くない。
 
「ん、成功したな。身体強化」

 体内の魔力を操作し、肉体の力を数倍に押し上げる【身体強化】スキル。
 身軽で素早いハイエルフだが、膂力りょりょくには自信がない。ひょろりとした肢体でもこのスキルがあれば、魔獣を殴り倒すことも可能らしい。異世界すごい。

「さて、進むか」

 身軽く地面に飛び降りる。
 森を早足で駆け抜けて行くが、全く疲れを感じない。いつもの倍速で景色が変わっていく様が面白い。
 地面を蹴り、倒木を飛び越え、ぬかるんだ場所は木々を足掛かりに移動していく。
 魔獣の気配にも、更に敏感になった。
 【気配察知】のスキルが【身体強化】スキルの相乗効果で成長したようだ。
 数十メール範囲で察知していた魔獣の気配を、今は百メートル先でも把握できる。

風刃ウインドカッター

 水魔法以外にも、風魔法を併用できるようになった。血を流すことに消却的だったが、窒息魔法は時間が掛かる。
 綺麗に首を落とせば、それほど悲惨な死骸にもならない。今では心を無にして、倒した魔獣を【アイテムボックス】にさくさく収納できるようになった。

「何となく、血抜きしておいた方が肉も旨い気がするし」

 解体は素材買取りの際に自動で行なってくれるので、気が楽だ。
 狐や狼系の肉食の魔獣は食えないので、素材は全部ポイント化する。
 ホーンラビットより大型のウサギ魔獣、アルミラージは食い出がありそうで、見つけた際には小躍りしそうになった。
 
「デカいな。ホーンラビットの倍以上ある」

 ずっしりと重い肉の感触に、にんまりする。あまり動かない魔獣なのか、ホーンラビットに比べても肉は柔らかそうだ。
 筋肉というより脂肪に近い。毛皮は長毛っぽい。アンゴラのような手触りから、買取りポイントが期待できそうだ。
 
「肉はステーキかな。ローストにしても良さそうだ」

 肉に合うハーブをたくさん採取しておこう。ウキウキしながら、森を駆け抜ける。
 ふと、鼻をかすめた甘い匂い。覚えがある。田舎の山でたまに見かけては、おやつ代わりにいで食べたことがある。

「アケビか」

 秋の味覚のはずだが、初夏の今、完熟状態で鈴なりだ。深く考えることは放棄して、本日のデザートとして採取することにした。
 楕円形の果実で熟すと、縦に割れる。白っぽい果肉はゼリーに似た食感。かじると濃厚な甘さがある。種は苦いのでその場で吐き出した。

「肉厚の果皮も食えるって聞いた覚えがあるんだよな。ひき肉を詰めて油で揚げるんだったか」

 山菜として若芽を摘んだり、葉を乾燥してアケビ茶にするらしいが、そこまで食には困っていないので、甘い果肉だけを堪能することにした。

「日本で食ったアケビより美味い。ちょうど完熟期みたいだし、ありがたく頂いていこう」

 遠慮なく採取していく。
 種はきちんと地面に落としながら食べるつもりなので、根こそぎいでしまったのは許してほしい。
 そのうち、エルフ特有の植物魔法を覚えて貢献するつもりだ。

「魔法書によると、成長を促進したり、植物を操れるらしいし、ちょっと楽しみだな」

 無邪気に笑いながら、群れで襲ってくる森林狼フォレストウルフを風魔法で蹴散らした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

処理中です...