召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

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25. コッコ鳥

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 今日はちょうど良い水場が見つからなかったので、目についた場所で野営の準備をすることにした。
 【気配察知】と【隠蔽】スキルを併用するのにも、もう慣れた。追加で【身体強化魔法】も発動して、拠点作りに勤しんだ。

 魔法の刃で邪魔な木々を切り倒し、収納していく。乾燥させて掘り出した切り株は手斧で細かくして薪の代わりに使うことにした。
 木々が密集していたので、三十本ほど撤去した。視界が開けて、ほっとする。
 山と同じく、間引いた方が日当たりも良く、木々も大きく育つ気がした。

「ポイントも美味しいし、たまに間引いてやるか」

 15万ポイントも一気に稼げると気持ち良い。鼻歌を口ずさみながら、テントを設置していく。タープの下にテーブルとチェアを並べて、少し離れた場所に土魔法で簡易かまどを作った。

「今日はカレー気分だから、レトルトにしよう」

 レトルト食品とパックご飯は加熱ヒートをレンジ代わりに使えばすぐに食べられる。
 カレーライスだけだと物足りないので、サラダを作り、アルミラージ肉を串焼きにした。
 サラダは昨日採取した水菜と100円ショップで召喚購入した、蒸しサラダ豆のパウチを添えたもの。和風ドレッシングで和えると、なかなか美味しい。

「新鮮な野菜は売ってないけど、ミックスベジタブルやヤングコーン、うずらの水煮なんかも売っているのか」

 組み合わせたら、色々と使えそうで嬉しい。他にもトマトのホール缶やコーン缶、マッシュルームの缶詰まであった。
 レトルト食品は特に豊富でカレーの種類だけでも三十種類はある。

「お子さま用の甘口系に糖質制限用カレー、キーマカレーにグリーンカレーまであるな。こっちはベジカレーか」

 まぁ、俺が選ぶのはごろっとデカい牛肉入りのメガカレーの一択だが。
 ステンレス製の深皿を取り出し、魔法で温めたライスとカレーを盛り付ける。
 アルミラージの串焼きは召喚した「やきとりのタレ」に漬け込んで焼いてみた。
 甘辛いタレとアルミラージの肉は相性が良かったようだ。ホーンラビットと違い、若鶏のふわふわのモモ肉に近い食感だ。
 頬張るとしっとりとした肉質でかなり柔らかい。

「皮のところに脂身? 脂肪かな。かなり分厚くあるから、これはじっくり焼き上げたら皮目がパリパリになって美味そう」

 鶏肉も皮をパリパリに焦がす寸前まで焼いて食べるのが好きです。
 唐揚げも皮のとこがいちばん旨いと思う。

 レトルトのカレーも美味しかった。
 とろみのあるルーは野菜や肉の旨味が凝縮されている。
 水菜と煮豆のサラダも意外とマッチしていた。森ではまだ豆を発見出来ていないので、しばらくは召喚魔法ネット通販に頼ることになりそうだ。

 食後のデザートはアケビをかじった。ねっとりとした甘さが癖になる。
 ベリー系ならともかく、アケビの加工は思いつかないので、大量に採取した物はそのまま食べることになりそうだった。



 食後はのんびりと緑茶を堪能してから、採取と狩猟に出掛けた。
 もう、拠点の目印は付けていない。
 森に生きるハイエルフ族の特性なのか、意識すると方向がはっきりと認識出来たのだ。

(ここを拠点にする)

 そう強く念じれば、頭の中のマップに拠点の場所や方向が刻まれていく。
 多少、離れた場所であっても「拠点に戻りたい」と念じれば、マップの地図の一箇所が点滅するイメージに近い。
 犬の帰巣本能に似ている気がした。
 何にせよ、便利な本能だと思う。

 本日の採取も順調。日本でも馴染みのあったキノコ類はもちろん、異世界産の鮮やかな色柄のキノコも手に入った。
 鑑定では食用とあったが、毒々しい色合いの物を食べる勇気はあまりない。

「異世界産の素材は高く買い取ってくれるし、まあ食わないでおこう」

 野草探し中にパクチーをたくさん見つけた時には歓声を上げてしまった。香菜系はわりと好きなので、パクチーはサラダ代わりにもりもり食べられる。
 あとはパセリも腰くらいまでの高さに育ったのを発見したので、ありがたく採取した。
 こちらも好物だ。塩とマヨネーズがあれば延々食える。独特の苦味がたまらない。

「よーく注意して【鑑定】したら、野生の根菜類はそこそこに生えてるな?」

 昨日はニンジンを見つけたが、今日発見したのは、じゃがいもだ。あまり日当たりの良くない森の中産なためか、小ぶりのじゃがいもだが、引き抜いたら大量に実っていた。

「これは皮ごと揚げれば美味いやつ」

 塩を振ってフライドポテトで食うも良し、じゃがバタにするのも良さそうだ。
 嬉しくて、片端から収穫した。ニンジンと玉ねぎも昨日採取した物があるので、じゃがいもと合わせて肉じゃがが作れそうだ。

「お、あそこにあるのはアスパラか?」

 野生のアスパラガスは、かなりデカい。
 鑑定では食用可、美味とあったので、ウキウキと採取していく。
 親指よりも太く立派なアスパラだ。
 さすがに、ここまで育ったものは皮を剥いて調理しなくてはいけないだろうが、焼くだけでも美味いので多少の手間暇は厭わない。

「ベーコンがあったら良いんだが、100円ショップじゃソーセージしかないな……」

 豚肉に近い魔獣肉を狩れたら、アスパラの肉巻きが食えるのに。
 そんな妄想をしていたからか、【気配察知】スキルに反応があった。魔素は少なめだが、数が多い。何かの群れなのか?

「とりあえず行って確認してみよう」


 木々の隙間から確認する。
 気配の主は鶏に良く似た魔獣だった。色は白ではなく、濃い赤茶色の羽毛をしており、地鶏に近い外見だ。
 ただ、成鳥が日本で見かけたことのあるニワトリよりもかなりデカい。倍近くある。

「鑑定では、コッコ鳥か。肉と卵は食用可、美味。狩らない理由がないな」

 群れで生活しているらしく、二十羽近くで固まっている。木の枝を集めた巣のような物がいくつか見えた。卵を温めているらしい。
 こくり、と喉が鳴る。
 キャンプ用に持参した玉子は2パック。大事に使っているが、残りは心許ない。

「鶏肉はもちろんだが、卵も手に入れないとな」

 ここは慎重にいこう。
 こつこつと地道に訓練した土魔法を使うことにして、そっとしゃがみ込んだ。
 片手を地面に付けて、土を弾丸の形に固めていく。なるべく小さく、けれど鋭く、たくさんのつぶてを。
 コッコ鳥はこちらに気付いていない。のんびりと地面を突いたり、草を啄んでいる。
 意識を集中させて、つぶてをコッコ鳥に放った。

「ストーンバレット」

 土礫が次々とコッコ鳥を貫いていく。
 狙ったのは頭部だ。幾つかは外してしまったが、ほとんどを狩ることが出来た。
 まだ毛がぽわぽわのヒヨコは狩らずに見逃してやった。彼らが丸々と肥え太って数を増やしてくれることを期待して。

「十三羽か。なかなか良い成果じゃないか? それに何と言っても卵が採れる!」

 コッコ鳥を回収した後は、卵を拾っていく。こちらもかなり大きい。ダチョウほどはないが、日本で食べていた卵の倍はある。
 食い出がありそうで嬉しいかぎりだ。
 コッコ鳥の卵は三十二個もあった。
 ほくほくしながら、そうっと【アイテムボックス】に収納する。

「鶏肉と卵か。これはもう作るしかないな。親子丼」

 めんつゆも砂糖もみりんもある。
 玉ねぎと三つ葉の代わりになりそうなハーブもあるので、夕食はコッコ鳥の親子丼にしようと思う。

「唐揚げに焼き鳥、照り焼き、クリーム煮もいいな……」

 先程、ランチを堪能したというのに、想像しただけで口の中に涎が溢れそうになる。
 今から夕食が楽しみで仕方なかった。
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