召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
113 / 203

112. 採取は楽しい 1

しおりを挟む

 行列の出来ていた屋台のスープはなかなか美味しかった。
 味はシンプルな塩味だったが、魚のアラを大量にぶち込んで作っているため、良い出汁が出ていたように思う。
 漁師が作る潮汁うしおじるに近い料理なのかもしれない。
 香辛料は乾燥させた唐辛子を使っており、これがまた味を引き締める役割を担っていたようで、後を引いた。

「美味しいけど、口の中がヒリヒリします……」
「あー…慣れてないと痛いよな。無理して食べなくても良いぞ?」
「平気ですっ! 色んなお魚が入っていて、面白いスープですね」
「捨てる部分のアラで出汁を取ってるけど、ちゃんと食える身の魚も入っているから、ありがたいよな」

 海鮮市場でもアラ部分は手に入れることが出来るのだろうか。
 屋台のスープも旨かったが、やはりアラ汁は味噌で堪能したい。

「私は串焼きが気に入りました!」
「じゃあ、また食いに来よう。宿からも近いし、滞在中に何度か寄れば、全メニューが制覇できるかも」
「うーん、それも楽しそうですけど、どうせならトーマさんのご飯が食べたいです」
「ニャン!」
「お、どうした? 屋台は飽きたとか?」
「いえ、お肉料理があれだけ美味しく作れるんですもん。きっと、お魚料理もトーマさんが作った方が美味しいと思って!」

 笑顔で断言するシェラの肩に座るコテツもこくこくと頷いている。
 魚は美味いが、基本的に塩味オンリーなので、色んな調味料を使い、多彩な調理法で仕上げる俺の料理に軍配が上がったのか。
 出会ったばかりの頃は、とにかくお腹を満たしたい一心だったシェラの成長に感心する。
 どうせなら美味しい物を食べたい、は人の欲としては正しい。

「そうだな。じゃあ、これから行く海で採取できたら、魚料理を作るよ」

 ポケットに突っ込んでおいた依頼書を取り出して、シェラとコテツに見せてやる。
 商業ギルドオリヴェート支店出張所、冒険者ギルドからの常設依頼だ。

「岩場で食用の貝の採取と魚の捕獲依頼ですね。分かりました。貝という生き物は見たことがないですが、魚だったら弓で射れるので大丈夫です!」

 魚は捕獲依頼なのだが。
 初めての海での依頼に張り切っているようなので、水を差すのはやめておくことにした。

「まぁ、仕留めた魚は俺たちが食えば良いか……」

 商業ギルドの受付嬢に教えてもらった岩場を目指して、二人はのんびりと歩いて行った。


◆◇◆


 さくさくとした白い砂を踏み締めながら歩く。
 足が沈む独特の感触が物珍しかったようで、シェラはおっかなびっくり地面を踏み締めていた。
 時折、キュッと音が立つと生き物を踏んだのかと、慌てて飛び退く様が面白い。

「それは砂が擦れて立った音だから。生き物じゃないから。コテツも砂を掘らない! 何も出てこないから」
「ニャッ」

 真剣な表情で、シェラが踏み締めた場所を掘っていくコテツを叱ったのだが、タイミング悪く、小さなカニが這い出してきた。

「ニョウ~?」
「いたじゃん、って。いたけど! それは、たまたま!」
「これが貝です?」
「あっ、手を出したら……」
「いたっ! 痛いです! 貝に咬まれましたっ」

 小さなカニのハサミに指先を挟まれたシェラが、驚いて手を振り回した。
 カニはそのまま海に落ち、波に流されていく。

「今のはカニな」
「カニ……とは、まさか。あの美味しいカニカマと関係が?」

 自炊が面倒な時に、コンビニショップで召喚購入したサラダを食べたことがあるシェラが、かっと目を見開いた。こわい。

「あー…カニカマは魚のすり身だから、正確にはカニじゃないけど。カニの肉はめちゃくちゃ旨いぞ? 食用の大きいのが採れるといいな」
「めちゃくちゃ美味しいお肉なんですね、さっきのアレ」
「小さいのは食えねーぞ? 大きいやつな。まぁ、こんな岩場にはいないと思うけど……」

 依頼書に記された地図を頼りに歩き、到着した場所には大小の岩が海中から顔を出しており、飛び石のように沖へ向かうと十メートルサイズの小さな岩島があった。
 この岩場で牡蠣やアワビが生息しているらしい。
 足場はかなり悪いので、シェラには砂浜から援護してもらうことにした。
 猫の妖精ケット・シーのコテツはさすが、猫の王様と称される身のこなしで、あっという間に岩島に辿り着いている。
 岩の隙間から見下ろしてみたが、大小の魚の影があり、獲物は豊富にいそうだ。

「景色も良いし、のんびり釣りを楽しむのも良さそうだけど……」

 あいにく、今回はギルドの依頼なので、真面目にお仕事をしなければならない。
 周囲を見渡しても、自分たち以外誰もいなかったので、遠慮なくスキルが使える。

「魚獲りに使える道具はあるか……?」

 コンビニショップには残念ながら、なし。大型家具のショップも言わずもがな。
 結局、いつもの百円ショップで道具を手に入れることにした。

「まずは収穫物を入れるバケツをいくつか。お、釣竿があるな。んんん? 結構、充実していないか……? 侮れないな、百均」

 玩具としか思えない物も多いが、投げ釣り用の仕掛けなど多彩なラインナップだ。
 千円の釣竿など、そこそこ良い物に見えてきた。釣り道具用のストレージボックスもあり、釣り糸や錘、狙う魚ごとの針まで売られている。

「とりあえずは千円の釣竿と魚獲り用の網を買っておくか。さすがに銛は売ってないよなー……」

 貝の殻剥き用のナイフがあったので、これもカートに放り込む。ついでに貝掘りに使えそうなミニ熊手とスコップも見つけたので買うことにした。
 豊かな海なので、波打ち際で貝掘りが出来るかもしれない。
 銛の代わりにダンジョンでドロップした短槍を使えば、魚も突けるだろう。たぶん。

(低階層で見つけた、鉄製の槍。ポイントに交換しないで持っておいて良かった……)

 たぶん、銘入りだったり、魔道武器であったら、きっと突いた瞬間に魚は爆散すると思うので。
 威力がありすぎる武器は、人里で使うのは危なすぎる。

「採取中にサハギンが襲ってくる可能性があるから、シェラは見張りを頼む」
「分かりました。見つけ次第、射落としますね!」
「ん、頼む。あと、暇だったら、この道具であそ…じゃなくて! これで砂を掘って、貝を見つけてくれるか?」
「貝掘り……! やってみたいです!」

 ためしに砂浜を【気配察知】スキルで確認してみたが、やはり大量に生息している。
 ミニ熊手でしばらく濡れた砂場を掘っていくと、さっそく第一貝類発見。

「ほら、これが貝。アサリだな」
「これが貝……! 石みたいですけど、生き物なんですね」
「ちなみに食用。スープにしたら良い出汁が出るし、バター焼きにしても美味い」
「バケツいっぱい採ります!」

 シェラの目の色が変わる。
 やる気が出たなら良いことだが、見張りは忘れないように。
 休憩用に折り畳み用のチェアを出しておく。陽射しが強いので、麦わら帽子をかぶせてやり、ペットボトル入りのクーラーボックスも近くに置いておいた。

「じゃあ、俺は岩島に行ってくる」
「行ってらっしゃい! 気を付けてくださいね!」
「おー」

 ひらりと手を振って、身軽く岩を飛び越えていく。
 ゴツゴツした岩は足場としては最悪だが、レベルアップしたハイエルフの身体能力に取っては何てことない。
 目当ての気配を感じ取り、足を止めて海を覗き込んでみた。

「お、いるいる。結構デカいな。これは期待が出来そうだ」

 岩に張り付いて擬態しているのは、牡蠣だ。久しぶりの好物を前にして、自然と喉が鳴った。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

処理中です...