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113. 採取は楽しい 2
しおりを挟む「たくさん獲れましたね!」
笑顔で迎えてくれたシェラに苦笑する。
そう言う彼女の足元には、バケツ二杯分の貝がみっしり詰まっていた。
「シェラも頑張ったな。アサリにハマグリまで見つけたのか。これは買取額が楽しみだ」
「買取り金額がどうなるかは私も楽しみですが、こっちのバケツの貝は売らずに食べたいです……」
遠慮がちな上目遣いで訴えてくる。
バケツが足りない、と二つ目のバケツをねだった時から、これを狙っていたのだろう。
「ん、いいんじゃないか? 俺も久しぶりに貝が食いたかったし」
海水を入れたバケツに放り込んでいたため、砂抜きも少しは出来ているようだし。
「本当ですか? やったぁ! 貝料理が食べられる……!」
バケツの中を覗き込んでいたコテツを抱き上げると、シェラはその場でくるくると舞い踊る。
足元はいつの間にか、ショートブーツを脱ぎ捨てて裸足になっていた。
波打ち際で海水を蹴り上げながら歓声を上げる様は幼い少女のようだ。
十七歳にしては子供っぽいかもしれないが、閉鎖的な集落で暮らしていたシェラはそんな風に無邪気に遊んだことはなかったのだろう。
屈託なく笑う姿が眩しい。
「遊ぶのはいいけど、服は濡らすなよ?」
「はーい!」
良い返事だ。
コテツも楽しそうなので、遊び相手を頼んでおく。
「さて、釣果はこんなものかな」
生物は【アイテムボックス】には収納できないため、生きたまま捕獲した魚や貝類はバケツやクーラーボックスに入れて砂浜まで運んできた。
シェラが器用に弓で射た魚や俺が短槍で突いた魚は【アイテムボックス】に仕舞ってある。
ちなみに採取と捕獲作業に勤しんでいる間、サハギンには何度も襲撃された。
サハギンとは半魚人の魔物だ。四肢が付いた巨大な魚類で、見た目はかなりグロテスク。人魚のような優雅な存在なら歓迎だが、半魚人は勘弁して欲しい。
人の気配を感じると、沖合から泳いできて、問答無用で襲ってくる魔物だと聞いた。
こっそりと岩場から上がってきたところをシェラが見事に撃ち抜いてくれた。
「サハギンからは魔石が手に入る。肉は食えない、あとはエラの部分が錬金素材になるんだったかな……?」
自力で解体するのは絶対に嫌だったので【アイテムボックス】に収納し、素材化のスキルを使う。
ポイントに変換ができれば、価値があると分かるのだが、あいにく自分で倒した獲物でないとポイント化が不可能。
なので、依頼書を見返して、サハギンの買取り部位を確認する。
「うん、魔石とエラで当たりだな。稀に宝箱をドロップするらしいが……今回はなかったみたいで残念」
ダンジョン外でも宝箱をドロップする魔物がいるのには驚きだ。
魔獣は滅多に落とさないが、人型の魔物は宝箱や珍しい武器などをドロップすることがあるのだと云う。
「多分、収納スキル持ちの魔物なんだろうな。そいつらが大事に隠し持っていたお宝が、倒されると、残されるのかも」
海に棲む魔物の宝物とは何なのか、好奇心が刺激されたので、採取依頼は何度か受けてみようと思う。
久しぶりの釣りや魚突きはとても楽しかったので。
「生きたまま捕獲できた魚は商業ギルドで全部買い取ってもらうか」
百円ショップで召喚した釣竿でも魚はちゃんと釣ることが出来た。
ちなみに餌は魚肉ソーセージを小さく千切った物を使ってみたのだが、意外と食い付きは良かった。
サキイカやイカの塩辛を餌にすると良く釣れると、以前に釣り仲間の友人から聞いたことがあったが、魚肉ソーセージもそれなりに優秀だったようだ。
「まぁ、途中で面倒になって、水魔法で生け捕りにしたんだけどな」
釣り糸が届く範囲で釣れるのは、小振りな魚ばかりだったので、焦れて水魔法を使ってしまったのだ。
試しに1メートル四方大の水球を海水で作り出し、中を泳いでいた魚をそのままクーラーボックスに移すだけの簡単な作業です。
海水の巨大なボールを2メートルサイズまで大きくして、さらに【気配察知】スキルを駆使すると、面白いほどに魚を生け捕りに出来た。
やはり岩場近くよりも沖に近い方が魚も大きく、また色々な種類の魚を捕まえることが出来たので、結果的には大満足だ。
(ちょっとだけズルをしたけど、魚獲りの方法は指定されていなかったし、別にいいよな?)
釣りも少しは楽しめたし、銛ではなく短槍だが、魚突きも堪能出来たので良しとする。
何より、岩島にびっしりと張り付いていた牡蠣を大量にゲット出来たので、達成感は凄まじい。
(シェラも予想よりたくさん貝を手に入れてくれたし、これは夕食が楽しみだな)
大収穫のバケツを抱えて、ほくほくとした気持ちで二人と一匹は岩場を後にした。
◆◇◆
商業ギルド内の冒険者ギルド出張所での買取りを終え、二人はそのまま宿に戻った。
採取依頼であったので、二人分の達成報酬と魚介類の現物を査定の後に買い取って貰ったのだが。
「手間が掛かる割に、買取額はそう高くはなかったな」
「魔獣や魔物とは違いますから、仕方がないのかもです」
「まぁ、魚や貝だもんな。その点、サハギンの素材は稼げたな」
「ビックリでしたよね! 水の魔石があんなに高く売れるなんて」
サハギンから取れる魔石は水属性。
水の魔石は必需品だ。人は水がなければ生きていけない。
水の魔道具である水甕に使うため、この街では特に需要が高かった。
「海の側の街だが、水源が少ない上に、雨もあまり降らない地域みたいだからな。そりゃあ水の魔石は渇望される」
使える井戸の数が少ないので、街の連中は水甕の魔道具を愛用している。
水の魔石を取り付けると、水道の蛇口のように水が溢れてくるのだ。
小さな水の魔石ひとつあれば、四人家族が三ヶ月は暮らせるほどの水を出すことが出来る。
「宿でも、体を拭く用の水は有料みたいだからな。今日は生活魔法で汚れを落としておくか」
「そうですね。桶一杯の水だと銅貨一枚って聞きました。ここではお水は贅沢品です」
シェラが暮らしていた集落では水場が豊かだったらしく、この街の水の値段には驚いていた。
(まぁ、桶一杯で千円は高いよなー)
文字通り、湯水のごとく水を浴びてきた元日本人的にも驚きの価格だ。
生活用水はもちろんだが、この街は果樹園農家もあったので、水の魔石は良い稼ぎになるだろう。
「釣りや魚突きは楽しかったし、しばらくは岩場の採取で稼ぐか……」
基本は水の魔石持ちのサハギン狙いで、魚介類は自分たちで食べる分を獲れば良い。
コテツもシェラも海での採取活動が気に入ったようなので、明日からも続けることにした。
だが、今はとりあえず──
「宿の庭を借りて、魚料理を作って食おう」
厳かな口調で宣言すると、シェラとコテツから歓声が上がった。
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