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5話
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しばらくするとおばあさんは再びお盆を運んできた。
お盆の上には、ガラス食器と金色のフォークが乗っている。
「今日の水菓子はデコポン。知り合いの果物園を営んでる人に頂いたものだよ」
「え? デコポン?」
「おや、デコポンは初めてかい?」
「いや、あの、水菓子って羊羹とかのことじゃ……」
おばあさんはそれを聞いてまたケラケラと笑った。
「ふふっ、まぁ間違ってはいないかもねぇ。最近の人は水分の多いお菓子のこともそう呼ぶみたいだけど、基本的には水菓子っていうのは果物のこと。まぁ良い機会だから覚えときなさいな」
かちゃりと謙吾の目の前にガラス食器に乗ったきれいな橙色のデコポンが現れる。
「へー、知らなかったです。でもなんでお店の名前も水菓子にされたんですか?」
「それは秘密」
おばあさんはお茶目にウインクをした。
「えっ?」
謙吾は驚いてフォークを取り損ねてしまった。
「そうねぇ…あなたがまたここに来られたら、教えてあげようかねぇ」
「それはどういう……」
おばあさんは微笑んだまま首をふって、何も答えてくれなかい。
謙吾はかみしめたデコポンの甘酸っぱさがなんだか心に沁みた。
…
水菓子を食べ終えた謙吾は席を立つ。
「本当に美味しかったです。絶対にまた来ますから。その時には店名のこと教えてくださいね」
レジの前で待っていたおばあさんに言う。
「ええ。私もあなたにまた会えることを楽しみにしてますよ」
頷いた謙吾は財布からランチ代の650円をちょうど取り出す。
そして扉のほうを振り向いて取っ手に手を掛ける。
「またのお越しを心よりお待ちしております」
振り向くとおばあさんがゆっくりとお辞儀をした。
謙吾も慌ててお辞儀をして言った。
「はい、ありがとうございました」
…
扉を開けて店から一歩、外に出る。
日差しが目に刺さる。
キィという音を立てて扉が閉まった。
謙吾は自分の止めた自転車のそばに行き鍵を外し、スタンドを払って自転車に跨った。
地面を蹴り、来た道と同じ砂利道を抜ける。
緑の中を抜けて舗装された道を右に曲がり、グングンこいでいく。
するとまっすぐたい焼き屋に繋がる道に出た。
後ろを振り返ると、あの小道はもう見えなかった。
お盆の上には、ガラス食器と金色のフォークが乗っている。
「今日の水菓子はデコポン。知り合いの果物園を営んでる人に頂いたものだよ」
「え? デコポン?」
「おや、デコポンは初めてかい?」
「いや、あの、水菓子って羊羹とかのことじゃ……」
おばあさんはそれを聞いてまたケラケラと笑った。
「ふふっ、まぁ間違ってはいないかもねぇ。最近の人は水分の多いお菓子のこともそう呼ぶみたいだけど、基本的には水菓子っていうのは果物のこと。まぁ良い機会だから覚えときなさいな」
かちゃりと謙吾の目の前にガラス食器に乗ったきれいな橙色のデコポンが現れる。
「へー、知らなかったです。でもなんでお店の名前も水菓子にされたんですか?」
「それは秘密」
おばあさんはお茶目にウインクをした。
「えっ?」
謙吾は驚いてフォークを取り損ねてしまった。
「そうねぇ…あなたがまたここに来られたら、教えてあげようかねぇ」
「それはどういう……」
おばあさんは微笑んだまま首をふって、何も答えてくれなかい。
謙吾はかみしめたデコポンの甘酸っぱさがなんだか心に沁みた。
…
水菓子を食べ終えた謙吾は席を立つ。
「本当に美味しかったです。絶対にまた来ますから。その時には店名のこと教えてくださいね」
レジの前で待っていたおばあさんに言う。
「ええ。私もあなたにまた会えることを楽しみにしてますよ」
頷いた謙吾は財布からランチ代の650円をちょうど取り出す。
そして扉のほうを振り向いて取っ手に手を掛ける。
「またのお越しを心よりお待ちしております」
振り向くとおばあさんがゆっくりとお辞儀をした。
謙吾も慌ててお辞儀をして言った。
「はい、ありがとうございました」
…
扉を開けて店から一歩、外に出る。
日差しが目に刺さる。
キィという音を立てて扉が閉まった。
謙吾は自分の止めた自転車のそばに行き鍵を外し、スタンドを払って自転車に跨った。
地面を蹴り、来た道と同じ砂利道を抜ける。
緑の中を抜けて舗装された道を右に曲がり、グングンこいでいく。
するとまっすぐたい焼き屋に繋がる道に出た。
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