Noble Оrdre‐白と黒の騎士団‐

宿理漣緒

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第一章 導かれた少女

8 嵐の前の静けさ

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 遠くで足が地面に擦れる音がする、何かが空を切る音も。

 カンッ

 これは木と木が激しくぶつかる音。
 ぼんやりとしているけれどわかる手に伝わる重い衝撃。

「ここまでにしましょう」

 その声を聴いた瞬間に感覚がクリアになった。暖かい朝の陽ざしに体が目覚める。

「お疲れさまでした。さすがの太刀筋ですね」

 息を切らすあたしとは対照的に阿朱羅は余裕がある。それは今日の朝稽古の相手が国の誇るトップ騎士だという事実を確かに実感させるものであり、あたしの上、この人こそが剣士序列1位だと理解するのに充分なものだった。

「今日から無理せず頑張りましょう」
「あたしって今日から何をすればいいの?」
「今日は……」

 あれ……?あたし、今日が初めてなんだっけ。どういうわけか自分の言葉に違和感を覚える。

「俺と過ごしてもらいます。二人で出かけましょうか」




 ────────────────────



 現在の時刻は昼過ぎを回ったところだ。千歳の身に何があったのか、そのすべてを西館メンバーと仁樹が知った翌日、左茲、紫月、リント三人の姿は曇天の下、本館の裏庭『屋外闘技場』にあった……100人ほどの武器を帯びた赤服の騎士と向かい合いながら。
 三人それぞれ、デザインの違うピアスに中指で触れ、そこから伝わる声に耳を傾ける。頭の中にくぐもった声が響いた。

『仁樹でーす。これより作戦開始ってことで、始めちゃっていいよ』

 リントの発明品の一つであるこのピアスは遠く離れた任意の相手と声を発さずに通信することができ、西館特有の横一列のフォーメーションを成立させる鍵となるものでもある。

「仁樹さんから連絡あり。では、行きましょうか。二人とも」

 進み出て、一礼する。その動きは何を言わずともそろっていた。

「こんにちは本館第一部隊さん。僕は西館特殊部隊リント」
「左茲……」
「周防です。ご足労いただき誠にありがとうございます」

 ざわめき止まぬ本館第一部隊から、がたいのいい男が一人、前に進み出た。
 赤みがかった茶色の短髪が全て後ろに撫で上げられているが故、鋭い視線が何物にも隠されず対峙した者に浴びせられる。

「本館第一部隊長、万場絢斗ばんばあやとだ。急な誘いだったが、貴重な機会であることには変わりない。相手をしてやろう」

 今ここで何が始まろうとしているのか、この場にいる全員に聞こえるように紫月は朗々とした声で宣言した。

「では、ルールを説明します。
 この西館、本館第一部隊の対人戦合同演習は一対一、一騎討形式で進めさせていただきます。勝ち抜きではなく交代自由。バトルフィールドはリセットせず引継ぎ。
 そして、本来であれば5人だけが勝負の場に出ることになっていますが……そちらは何人でもどうぞ。お相手させていただきます」

 そう聞かされ、ざわめきはますます大きくなるが、部隊長の号令一つで本館第一部隊は静まり返った。

「今一度聞きたい……なぜこのルールで戦うのかを。まるで潰しあいの決闘がしたいと言っているようなもんだぞ、西館」

 ざわめきの理由はそれがすべてだった。一騎討という形式そのものが前向きな意味合いのものではない。そして今、対峙している三人から感じる殺気に気がつかないほど鈍感な部隊ではない。

「…………どのように受け取っていただいても構いませんが、我々は全力を尽くします。覚悟はしておいてくださいね」

 事実上の宣戦布告に震えあがる者、いかる者、反応は様々であったが、第一部隊は準備を整えるために一旦本館へ引っ込んでいった。
 残された3人は準備ができているので西館には帰らず、その場で丸くなって座る。

「すーさん、どす黒いオーラ出てるよ」
「そういうリントも笑いながら睨みつけてましたよ」
「……まぁ、あんなこと聞かされたらそうなる」
「そーだよ!試験を受けさせないようにするなんて!それに、僕がずっとついてれば千歳は怖い思いをしないで済んだのに……」
「悪いのはリントではなく、あちらでしょう。負けを認めない姿勢なぞ、国一番の部隊の騎士足り得ない」
「……どっちが一番か見てもらう。想定通り。ギャラリーもにぎやか」

 裏庭は本館の南に位置し、全フロアの窓からよく見える。騒ぎを聞きつけた騎士たちが見物に集まりつつある様子がここからでもわかった。

「では、打ち合わせした戦術通りに」
「頑張ってこー!!」

 リントの言葉を合図に3人とも拳をつき合わせ、先陣を切る者がバトルフィールドの白線の内に入る。戦いの始まりを今か今かと待っていた。


 ────────────────────



 本館に戻り、別部屋に集められた正騎士ルギド以上の階級の騎士達は、怖気づく者と頭に血が上った者で方針が割れていた。
 これ以上西館の機嫌を損ねないように本来の一騎打の形式で進めるか、あちらが望む潰しあいを行うか。
 最終決定権を持つ者、部隊長万場絢斗はしばらくの間、沈黙を貫いていたが、ため息を吐いた後、冷酷な光を宿した眼差しを浴びせた。

「静まれ皆。西館なんて所詮は一発屋……神呂木阿朱羅かむろぎあしゅら以外は、雑魚同然だ」

 鶴の一声でこの戦いの方針が決まった。おのが身に感じた怒りのままに男たちは敵を討たんと吠え、己と仲間を鼓舞する。
 熱狂の中、終始冷静な男が一人いた。万場のそばに控えていた初老の騎士だ。

「万場様には彼らの怒りの理由がわかっておいでと見えます」
「なんとなくだがな……だが、ちょうどいい機会だ。私は用があるので外す。はお前に任せる。相原あいはら、できるな?」
ですか……かしこまりました」

 全てを言わずともおさの思惑を察したその人、相原は深々と一礼し、去っていく万場を見送った。

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