Noble Оrdre‐白と黒の騎士団‐

宿理漣緒

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第一章 導かれた少女

9 その魔法師、変幻自在

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 大人数を引き連れて戻ってきた第一部隊を見て、三人は狙い通りに事が進んだことを察した。しかし、万場部隊長の姿はない。代わりに部隊を率いている灰髪の騎士に視線を注ぎ、ピアスで情報を共有した。
 仁樹からあらかじめ渡されていた帳面に目を通す。そこには第一部隊所属騎士たちの年齢、序列や用いる武器、身長、趣味、好きなお酒、恋愛事情など変なところも記録されてある。

『あの人は聖騎士アルティザ階級の相原あいはら貴理きりさんですね。剣序列3位、弓序列5位、魔法使い序列11位……正真正銘のトップ騎士です』
『今日いる騎士たちの中でただ一人の第一部隊中心メンバー。僕たちの相手は彼だけで十分とみたのから、引っ込んじゃったのかな?』
『……千歳に意地悪した人もいない。じゃあ、倒して倒して引きずり出すだけ。
 ……最初はこっちの出方を見てくるはず。チャンスだと思う』
『そうだね!』

 丸形緑オパールのピアスから離れた手はモノクルの位置を整える。レンズ越しに覗いたエメラルドの瞳はいつもどおり知的な輝きをたたえて真っ直ぐ前を見つめていた。

「西館の先鋒せんぽうは僕だよ!そっちは誰から来る?」

 緑の宝珠をつけた金のロッドを左手に携える魔法師、离愛リント・オルディアが初戦の相手であることを確認し、長い灰の前髪から覗く目がわずかに細められた。
 魔法使いには魔法使いを当てるのが定石。基本に忠実な第一部隊の皆の意見はそれで固まっていた。

『西館なんて所詮は一発屋……神呂木阿朱羅かむろぎあしゅら以外は、雑魚同然だ』

 部隊長の言葉に乗せられた彼らにはその定石が相手の想定通りの動きだということに気がつかない。
 だが、それでいい。と相原は思っていた。自分より遥かに年下の彼らがどんな戦術で、どう勝つつもりなのか、それが単純に気になったからだ。
 血気盛んな魔術士を一人、バトルフィールドへ寄越した。フィールド外へ影響が及ばないように、結界を展開しすべての準備が終わる。

「それでは、勝負開始です」

 紫月の声が3対100の長い戦いの始まりを告げた。
 瞬間、第一部隊の魔術師は五つの魔方陣を展開し、五色ごしきの光はリントめがけて飛んでいく。水、火、地、雷、風……中程度の威力といえど全属性トット・エレメントが束になって命中したこの攻撃は熟練の魔術師でも痛手となる。
 爆発音が轟き、砂埃が巻き起こったその直後……バトルフィールドに光が走る。
 電気が駆け巡り、火花が舞い、草が生い茂り、風が水の匂いとともに吹き抜ける。
 砂埃が止み、姿を現したリントはあの攻撃の後なのに平気な顔してニッと笑った。ならば次だと新たな魔方陣を展開する魔術士をよそにリントは杖を掲げ、何らかの魔法をかける。
 その行動に紫月、左茲、藍原以外の誰もが目を疑った。魔法使い同士の戦いは魔力の持久力勝負になる。どちらが高威力の術を先に命中させるか、どちらの魔力が先に尽きるかの単純な勝負。そのはずだったのだ。
 魔術士の放つ巨大な火球が再びリントめがけて飛んで行く……だが、見る見るうちに火は勢いを失い、見上げるほど大きな球は顔程度の大きさまでしぼみ、よけるのは容易だった。

「いつ見てもすごいですね。リントの魔術封じは」
「あの人はもう……勝てない……」

 ありえない光景を見せつけられ相手の魔術師は焦ったのだろう。次に描いた魔方陣は先ほどまでのものと違い、細やかな文字が隙間なく敷き詰められたものだった。知恵ある魔法師はそれが極大魔術を放つためのものだと見破っている。

「≪クヴァール・シルト≫」

 展開された幾何学模様の結界に、容赦なく蛇のような稲妻が絡みつく。威力がだいぶ落ちてはいるものの、上級魔法程度の貫通力はあるはずだったのだが

「≪ベフライユング≫」

 リントが呪文を唱え、杖を一振りした瞬間、結界が光り、稲妻は跳ね返されたように進行方向を変え、周辺に走る電気を取り込みながら巨大化し、術を放ったはずの魔術士に命中した。
 推定、極大魔術以上の威力の術を結界なしで被弾したその結果どうなるか……誰にでも予想がつく。魔術士は膝をつき肩で荒く息をして動かない。魔力切れにより戦闘不能の証拠であった。これ以上は命に係わる。

「よーし!まずは僕の勝ち!」

 僅かな時間で勝利を収めた西館の魔法師に第一部隊は絶句するばかりだった。この場にあの神呂木阿朱羅はいないのに、初戦は黒星。
 当然のことだった。万場部隊長の言葉を現実のものにできるのは、第一部隊の中でも上澄みの騎士、中心メンバーだけだ。

使

 相原貴理は呟いた。何人かの目の色が変わる。三人もそれを聞いてわずかながら反応を見せた。予想が確信に変わる。

「やはり君の事でしたか。噂には聞いていたのですが、素晴らしい技の数々ですね」

 変幻自在の魔法使い。その二つ名を持つ者は魔術を使用せずに戦うことが可能であり、主な戦術は魔術封じである。
 セイヴァー内に広まる噂話の一つだった。戦闘に適した魔術を使わない魔法使いなどいないと、ほとんどの人間は信じていなかったが、例外もいる。

「魔術封じ。相手から放たれた術を利用して特殊なバトルフィールドを作り上げたのでしょう。
 恐らくですが……今起こったことは属性エレメントの吸収ですね。
 敵陣から放たれた術に対してはその威力をそぐように吸収の力が働き、味方陣営から放たれた術に対しては逆に威力を強めるように力が働く。
 この解釈で合っていると仮定した場合、わざわざフィールドを引き継ぐというルールを設定したわけが頷けます。なにやら結界そのものにも術をかけたみたいですし、仕掛けはまだまだありそうですね。
 早く答え合わせがしたいのですがどうでしょう」
「いいよ。僕たちの作戦見せてあげる!破れるものならやってみてよ」

 西館は交代を宣言した。リントに変わってフィールドに入ったのは白服に緑のサシェを纏う槍術師。

「菊地原左茲くん。君は第二部隊にいましたね。よく覚えていますよ。と評されるその槍さばき、ありがたく拝見させていただきます」

 長い白のハチマキを結びなおし、対戦相手を見据える表情は、いつもと違い冷たい心地がするポーカーフェイスだった。

「俺……怒ってるから、絶対負けない」

 勝負開始の合図を受け、結界にかかっていたリントの魔法が発動する。その影響を受け、より速く、より強くなった妖精の一閃が対戦相手にさく裂した。

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