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7.アウラの成長
しおりを挟む「リリア!急にどうしたんだ?」
「ユースティア、もしかしてその子、『黒き魔女』なの?」
リリアは俺が深淵の森に入る前に会った情報屋に行って話を聞いてきたそうだ。
リリアはアウラを警戒して視線を外さない。
俺の顔を見ずに、アウラへ魔法を放てるように構えを取った。
「……ああ。そうだ。リリア、止めろ。その手を下ろせ!」
俺はアウラを庇うように前に出た。
魔女だとバレた事でアウラは真っ青になっていた。とても攻撃魔法を避けられる状態じゃない。
俺が『黒き魔女』を探していたと知って、公園で俺と一緒にいた少女の正体に思い当たりリリアはここまで引き返してきたのだろう。
彼女の大きな声に、アイスクリーム屋の店主も他の客たちも動きを止めて俺達を見ていた。ここは公園の休憩スペースになっていて、人通りも多い。これだけ多くの人々にアウラが魔女だと知られたんだ。明日には街中に噂が広まっているだろう。
「ユースティアに魅了の魔法でも掛けたの?」
リリアの問いかけにアウラはふるふると首を振った。怖くて声も出ないらしい。
「違うんだ。リリア!」
アウラは俺が守るって言ったんだーー
俺はアウラの肩に回した手に力を込めた。
だがーー
「お姉ちゃん、アウラちゃんは優しい子だよ。魅了の魔法を使うような魔女じゃないよ!」
「そうさ。しょっちゅう来てるけど、悪い事は出来ない子だ。魔女だとしても『良い魔女』だと思うよ。」
「こんなに震えてる少女に攻撃するなんて良くないわっ!!」
遠巻きに見ていた店主も周りにいた他の客も、わらわらと集まってきてアウラを庇った。
そんな反応が返ってくるとは思わなかったのだろう。周囲の反応にリリアは戸惑っているようだった。
「リリア、俺は魅了になんて掛かってない。アウラは人間に怯えて暮らしてきた孤独な魔女だ。お前がアウラを傷つけるなら、俺が相手になる。」
周囲を見回したリリアは、自分が不利だと悟ったのか、突き出していた手を下ろした。
「い、いいえ……。ユースティアが魅了の術に掛かって無いならいいわ。ただ、心配しただけよ。」
「ああ、分かってる。心配してくれてありがとう。この通り心配ないからもう帰ってくれ。アウラが怯える。彼女は人が怖いんだ。」
「ごめんなさい。怖がらせて。」
リリアは小さな声で謝った。少し思い込みが激しいところがあるが、根が悪い奴じゃない。
リリアが帰ると、俺達の周りにみんなが集まってきた。その目には好意的な色が浮かんでいる。
「大丈夫よ。あのお姉ちゃんは帰ったわよ。」
「アウラちゃんは魔女だったのか?」
「なんだぁ!黒の魔女が魔王の復活を目論むなんて噂だったのね。こんなに可愛い魔女があの薄暗い森で怯えて暮らしていたなんて……。」
魔女だとバレても誰も彼女に対しての態度を変えることは無かった。むしろアウラを心配してくれている。
アウラは安心したのか、涙ぐみながらみんなの顔を見回した。
「わ、私は魔女なのに……誰も石を投げないんですかぁ?」
「悪い事をしていないのに、石を投げるなんて奴はこの街にはいないさ!だから安心して、これからもアイスを食べに来てくれ!」
街の人々の反応は俺にとっても意外だった。冒険者の間では、魔女は悪の根源のように伝えられていた。その存在は人々に忌み嫌われていると思い込んでいた。
アウラはもう魔女である事を隠す必要が無くなったんだ。
☆
俺はアウラが孤独にならないようにと、この深淵の森に滞在してきた。けれど、彼女はもう魔女として街の人々に受け入れられた。
前に赤い丸薬をあげたお爺さんの紹介で、アウラは薬屋に『魔女の丸薬』を売ることになった。自分でお金を手に入られるようになった彼女にもう自分は必要ないかもしれない。
俺は彼女が自立していくことに寂しさを感じていた。
そして、俺達の関係は変わらないまま、数ヶ月が過ぎていった……。
☆
「リリア様からもう少しでユースティア様のお誕生日だって聞きました。プレゼントは何が良いですかぁ?」
アウラはリリアとすっかり仲良くなった。無邪気で可愛いアウラの事をリリアは気に入っていて、今では妹のように面倒を見ている。
「プレゼント?」
「はいっ!!ユースティア様にはいつも貰ってばかりなので、私も何かあげたいです~~。」
俺は少し考えて、それからアウラに話をした。
「アウラ……前に俺が伴侶になって欲しいって言った事覚えてる?」
「はいっ!」
アウラは元気に答える。
俺の気持ちになんて、気が付いていないのだろうか?
「俺、この家に大きな二人のベッドが欲しい。」
「……二人の……?」
アウラは僅かに首を傾げる。
「あれ?私のベッドはユースティア様が直してくれましたよ?」
「……分からない?」
「……?」
じっとアウラの目を見つめると、彼女はみるみる赤くなっていった。
「あ、あぅ、あぅ……ああ、……今、……分かりました。」
俺が深淵の森にきたばかりの頃とは違う。街に出て色んなものを見聞きしたアウラはもう男女の事を分かっている筈だ。
「いつから……分かってた?」
「あ、あの……リリア様が……そうじゃないかって……。でも、私は……ユースティア様が優しいから同情かも……って……。」
自信が無いのは俺も同じだ。男としてアウラに好かれている自信なんて無かった。だから俺はずっと確認しなかったんだ。
「俺はアウラが好きだよ。アウラはどう?俺の事好き?」
真っ赤な顔のままアウラは頷く。その反応で、彼女の気持ちが分かるようだ。初々しくて小刻みに震えるアウラをこのまま俺のものにしてしまいたい。
「はい。ユースティア様のことが好きです。」
アウラの頬に手を添えてそっと顔を近づける。
「ずっとこうしたかった。」
「ユ……。」
俺の名を呼ぼうと開いた、彼女の唇を塞いだ。
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