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八、飲み仲間

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「おーい!ルディさん!」

「おお、来たかアル中!」

 いい年したベテラン冒険者が、私に向かって陽気に手を振っていた。私は「セイシュ」好きの冒険者ルディさんと飲み仲間になった。

 日焼けした顔はイケメンでも不細工でも無いけれど、不思議と健康的な色気がある。

 気前も良いし、博識で話も面白い。前世なら、上司になって欲しいタイプだわ。

「腹は減ってるか?」
「俺はあんまり……。ツマミだけで充分ッスよ」
「じゃあ、酒の揃ってる店行くか」
「やった!ルディさんの勧めてくれる酒、全部旨いんスよね」

 今日は、ルディさんオススメのお洒落なバーに行く事になった。その店では、知り合いがオリジナルカクテルを作ってくれるらしい。

 ちょっと飲み屋街から離れたそこは、一見バーと分からないようなお店。隠れ家的な感じかもしれない。

 カウンターの奥にズラリと並んだお酒と蝶ネクタイのマスター。薄暗い店内と落ち着いた音楽。大きな声で話す客は居ない。
 ますます前世のカクテルバー的な雰囲気だ。

「お、お洒落ッスね。ここに俺、場違いじゃ無いっスか?」
 
「なに気にしてやがる。らしくもねーな。ここは知り合いの店だ。遠慮はいらねー。何でも好きなもん注文しろよ」

 そう言われても、何を注文して良いか分からず、マスターのオススメを飲むことになった。

「はい」
「わっ、ありがとうございます」

 私は今男性に変装中。
 なのに、強面の男に出すには可愛すぎるピンクのカクテルが出てきた。

「随分女の子っぽいカクテルッスね」
「まあな。だが、キツイから気をつけろよ」

 ショートグラスに入ったピンクの液体はほんのり甘くてまろやか。ジンのアルコールをきっちり感じるあたりは大人な飲み物。前世のピンクレディに似てるかな?

「美味しい……」

 久しぶりの本格的なカクテル。
 美味しすぎて自然と頬が緩んじゃう。
 ウヘヘヘと気持ち悪い笑い方をする私を、ルディさんは呆れて見ている。

「もっと飲むか?」
「もちろんっ」

 ルディさんと酒談義を交わしながら、嬉しくて何杯も色んなカクテルを頼んだ。全部本格的で、居酒屋に出てくるような、うっすいカクテルじゃ無い。
 いやー、美味しいなー。マジで。
 
「ローガン、大丈夫か?」
「はーい!大丈夫ッス!」

 私はルディさんにローガンと名乗っていた。
 偽名だから、外見に合うようなごっつい名前。

「ちょっとお花摘み……じゃない、トイレへ」

 立ち上がると足がうまく前に出ない。
 視界がそろそろヤバい。
 もちろん飲み過ぎは分かってる。

「おいっ、いくら何でも飲み過ぎじゃねぇか?」

「はい!気をつけまーす」

 ルディさんに敬礼!
 あー、確実に酔ってる。
 気持ちは悪いのに、気分はいいー。

 トイレで深く反省して席に戻る。
 そろそろお水をガブガブ飲んで帰ろう。

「すみません、お水ください」
「はい。かしこましました」

 マスターは、氷のたくさん入った水を出してくれる。
 んー、水まで美味しいぞ。
 私はお水だと言うのに、隣に座る厳つい冒険者はまだショートグラスに入った薄い水色の液体を喉に流し込んでいた。

 あれも美味そうだなー。

 今度のもー。





「足がフラフラじゃねぇか、送ってくぜ?」

「だ、大丈夫ッスよー」

 ちょっと公園で休憩してから王宮に戻ろう。

 私は覚束ない足取りで歩きだした。


 

 

 ルディ視点ーー



 今日はロゼッタに飲ませ過ぎた。 
 反省してこっそり彼女を追いかけるとーー

「あいつ……。警戒心無いのか?」
 
 ベンチに腰掛けたままウトウトしてる。
 家と間違えてんのか?仮にも外だぞ?

 ロゼッタが意識を失うと変装が解けるはずだ。

 全く危機感が無いのか、ロゼッタは俺が近づいても気付かず、クゥクゥと眠っている。

 こんな間抜けなスパイ、いるわけないな。

「ハァ、まったく幸せそうに寝てやがる」

 とうとうロゼッタはベンチで座ったまま寝落ちして変装が解けてしまった。その表情はデヘへとだらしなく緩んでいる。
 いい夢、見てんだろうな。

 こんな街中の公園で、令嬢が無防備に眠っているのを放置するのはあまりにも危険だ。
 
 俺は小さく舌打ちをし、ロゼッタを抱えた。

「このまま戻るか」

 俺はロゼッタを王宮にある彼女の部屋へと運び込んだ。







 

 頭がガンガンするーー
 そうだ、私……ルディさんに連れられて……
 確か公園までは歩いたけど……
 あれ?公園から先の記憶がないぞ? 

 焦って目を開けると見慣れた天井だった。
 
「なんだ……ちゃんと帰れてたんだ」

 さすが私!

「いったーーい」

 起きようとすると、激しい頭痛がして頭を押さえた。

 二日酔いだ。

 あー、久しぶりの二日酔い。この感じが懐かしい。

 前世は二日酔いになる度に、飲む量を減らすって誓ってたよなー。

 ガンガンする、頭を押さえながら状況を確認するため部屋を見回す。
 うん。
 忘れ物は無いし、服もそのまま。
 部屋の鍵も閉めてあるし……。

 記憶が無いにも関わらず、結構しっかりしていた自分に驚く。

 あー、この頭痛、早く治まんないかなー。




 
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