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6.光属性は苦手です。
しおりを挟む今、私は身支度を整えられ、王宮のダイニングで殿下とランチを共にしている。
「イーリス、君のお蔭で国は助かった。ありがとう。」
「は、は、は、はい。」
光り輝き爽やかな笑顔を浮かべるケンドリック殿下とは目を合わせられない。ハッキリ言って苦手。さっき神官長の話す時には緊張しなくて楽だったのに……不思議。
「それと、君がこの結婚を望んでいないと、侍女たちに聞いた。やはり不安なのだろうか?」
勿論不安だし、嫌だ。だけど王族相手に『嫌だ』なんてハッキリは言えないから、言葉を濁した。
「は、は、は、は、はいっ。ふ、ふ、不安です。あ、ああ、あ、あの……婚約の話は、お断りを……させていただきたく……§&$З#%Φ。」
最後の方はモニョモニョと口籠ってしまう。
殿下と目を合わせて会話出来ない私を見て、察して欲しい。
私に王太子妃なんて無理。神殿の奥深くに閉じ籠って、次の出番を待つ人生を選びます。
「そうか……私はこれからもっとイーリスに好かれるよう努力しよう。不安に対しても善処する」
ん?
断ったはずなのに、おかしいな?話が通じない……。
「そ、そ、そ、そもそも……け、け、け、結婚は……気が進まなくて……ま、ましてや……王族の方が相手なんてとんでもない……。」
「それは当然だと思う。誰しも戸惑うものだ。それでは、イーリスの味方となれる人間を紹介しよう。彼女から王太子妃としての心得を学べば不安も少し減るだろう」
ん?
やっぱり断れてない?
ハッキリ言わなくちゃ駄目なのかな?
「わ、わ、わ、わたしはき、き、貴族のマナーなんてわ、分からないですから……やっぱり、け、結婚のは、話はお、お、お、お、断りを……」
「ふむ、そうだな。」
ケンドリック殿下は顎に手を当てて考えるような素振りを見せた。
漸く結婚の件を考え直してくれるのかと思ったけれど、彼は予想外の事を私に言ってきた。
「確かにマナーは大切だ。イーリスには聖女として、また、王太子の婚約者として美しい所作を身に付けて欲しいと思っていたんだ。マナー講師をつけるからレッスンに励んで欲しい。」
「えええ??マ、マ、ママナー?」
結婚を断ろうとしただけで、王太子妃の心得とマナーを学ぶように話を持っていかれた!
結局、ケンドリック結婚を断れないままその日のランチは終わった。
☆
また、結婚を断れなかった…。
けれど、その事についてゆっくり考える時間は無かった。
「ねぇ、ハナさん、これが……例の(発情)?」
さっきからめまいがする。ぐぁんぐぁんと脳が揺さぶられるみたいで、身体の感覚もいつもと違う……。
「前兆ですね。魔力の揺らぎが強くなっております。もうお部屋に籠られた方が宜しいかと……。」
ハナさんのアドバイスに従って部屋に籠った私は、本当に神官長の予告した通り発情した。身体が熱くて疼く。肌がジンジンして誰かに触れて欲しい。
息も上がるし、眠れないし……。
神官長が媚薬を使ったようになるって言ってたけど、こういうことなんだ……。
我慢してベッドの中で散々悶え苦しんだ挙げ句、本当に初めて……性具を使って自慰をした。
さすがに張り型みたいに挿入するものは使えなくて……ローターだけを使う。
初めてだったけど、発情した身体にローターは効果的で……。
本当にびっくりした。今まで味わったことが無い感覚。
自慰で身体の疼きを鎮めた後は熱がすっと引いて、その夜は泥のようにぐっすり眠った。
☆
そして翌日、今度はオデュッセイ侯爵夫人に会うことになった。
聖女業、忙しすぎるっ!
偉い人と次々会って、発情して、こんな生活続けてられない。
オデュッセイ侯爵夫人のアデライン様は殿下に頼まれて私の友人となるべく来たみたい。殿下のお姉さまで元王女。流石の気品を備えていた。
「イーリス様、はじめまして。」
アデライン様は私に王家の歴史や伝統について話をしてくれた。優しくて丁寧な説明で分かりやすい。こんな私に時間を使ってもらって申し訳なかった。
「ア、ア、アデライン様、せ、せ、せっかく足を運んでいただいたのですが、わ、わ、私は王太子妃になるつもりはありません。」
私が殿下と結婚するつもりが無いことを伝えると、アデライン様は厳しい顔で唇に指を当てた。
「イーリス様、いけません。迂闊な事を仰ると言質をとられますわ。本当に結婚出来なくなったらどうなさるおつもり?」
「え?」
「駆け引きもほどほどになさいませ……」
「い、いえ、わ、私は駆け引きじゃなくて……」
「王太子妃の座を狙う令嬢は大勢います。そんなことを仰っていると本当に結婚出来なくなってしまいますわよ。」
なに?この流れ?
私はその後も婚約解消の話をしようとすると止められて……。アデライン様は恋愛の駆け引きだと思ったのかその話をすると不機嫌になるし……。私は居心地悪いまま、アデライン様との時間を過ごした。
婚約解消したいのに、その話をすると構ってちゃんなイタい女みたいに扱われる。
元々コミュ障の私のライフはどんどん削られていった。
そんな中聖女の功績を讃えるセレモニーが開かれた。
殿下は私をエスコートしながら
「もっと民衆に笑顔を見せてくれ」
とか、
「王太子の婚約者として、貴族との交流を大切にして欲しい」
とか、私には無理な要求を続ける。
私にとっては逃げずにこの場に立っていることが奇蹟なのに……。
そして私はアデライン様に連れられて何人もの令嬢を紹介された。王太子妃として派閥をつくれって。
令嬢たちは口元を扇で隠したまま、値踏みするように私を見る。そして上手く喋れない私を庇う素振りを見せながらも嘲るように笑う。
私は救国の聖女だから誰も表立って馬鹿にしたりしないけど、私の野暮ったい仕草や話し方が嘲笑されていることを感じて居心地が悪かった。
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