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11.朝チュン
しおりを挟む朝起きると硬い肉体に包まれていた。疲れているのに、身体の火照りと熱は治まりスッキリとした目覚め。こんな良い気分で起きたのは久しぶりだった。
「おはよう、イーリス」
「し、神官長……、おはようございます」
「リアムと呼んでください。もう恋人なのですから」
髪に、耳に口づけを落としながらリアムが甘く囁く。朝日の中で改めてリアムを見ると、艶やかな黒髪と琥珀色の瞳を持った凛々しい青年だった。
いつもフードに隠れていたけど、こんなにイケメンだったんだ。
まじまじと自分の顔を見つめる私を見て、リアムが微笑む。
「どうしました?私とは恋人ですよね?もう逃げられませんよ」
「……いや……リアムってカッコいいなーって見惚れてて……。本当に私と恋人になってくれるんですか?」
昨夜の痴態。
初めてなのに、すごく感じて何回も絶頂を味わった。顔とか、声とか、きっと慎ましさの欠片もない、あられもない姿だったと思う。
「もちろん。イーリスも綺麗ですよ。昨夜の蕩けた顔も良いですけど、今の照れた顔も可愛い……」
そう言いながらリアムは赤くなった私の頬に手を当てて、唇をそっと触れ合わせた。
リアムの態度が甘くて……照れちゃう……。
「辛いところは無いですか?」
そうだ……。魔力が暴走しそうだったんだ。
パーティーでの出来事を思い出す。婚約破棄を叫んで会場から出てきちゃった事も……。
「ど、どうしましょう……殿下相手にあんな事……不敬で死刑にならないですか?」
小説にはちょっと気に入らないだけで家来を死刑にする暴君だっているもの。
焦る私に、リアムはクスリと微笑んで優しく髪を撫でてくれた。
「イーリスは救国の聖女です。そんな心配はありません。」
まだ眠かったのかも……。優しく髪を梳かされると瞼が自然に下りてくる。昨夜の余韻で心地よい疲れが残っていた。
「私が守って差し上げますからゆっくりお休みください。」
眠りに落ちる前、リアムの静かな声が聞こえた。
☆
リアム視点
女神アイトネ様が遣わせた聖女は、世間知らずで怖がりなごく普通の少女だった。
神々しいほどの美貌でありながら、遠慮がちで自己主張をせず全てを受け入れてしまう。
彼女は巨大な結界を張った後、救国の聖女と言われ名声を得た。けれど、全く驕る素振りは無く、国に金品も地位の要求も行わない。部屋も服も食事も、提供する物は文句を言わず受け入れた。
そんな彼女は王太子殿下の婚約者になった。王宮の貴族は高慢で、彼女が断るなんて思いもしないのだろう。彼女が魔力が枯渇し倒れている間に婚約の手続きを済ませてしまった。
王宮侍女に混じり、イーリスの世話係をする事になったハナは
「イーリス様はケンドリック殿下との婚約を本気で嫌がっているようなんです」
と言って心配していた。
確かに王宮から聞こえてくるイーリスの噂は芳しいものでは無かった。
「次期王太子妃として相応しくない」
「マナーを覚えない」
「貴族との交流に消極的」
「殿下の愛情を試すかまってちゃん」
などだ。
そしてとうとうイーリスは婚約披露の場ではっきりと殿下を拒絶した。
駆け付けた時には既に魔力の揺らぎが酷くなっていた。暴走の一歩手前だ。
ハナの話によると、恥ずかしがり屋らしい彼女は性具を使った自慰も最小限に抑えているらしい。
私はイーリスをその場から連れ出し、これからは神殿でその身を預かると宣言した。
こんなに彼女を追い詰めた王宮に、イーリスを任せてはおけない。
自分の意見を言えない彼女に王宮生活は厳し過ぎる。
そしてその夜、彼女はそのまま私の恋人になった。
丁度いい。恋人ならば彼女の魔力をちゃんと気を配ってやることが出来る。
昨夜の疲れで再び眠ってしまったイーリスを見下ろす。すーすーと規則的な呼吸をし、安心したように身を寄せる彼女が愛おしい。
もう二度とケンドリック殿下と会うことが無いよう守らなければ。
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