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12.それから(終)

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 神殿で本を読んだり、魔法の勉強をしてゆっくりと過ごしている間にケンドリック殿下との婚約は正式に解消されていた。
 ケンドリック殿下と友人たちは公の場で聖女を貶めたとして、それぞれに謹慎や降格を言い渡されたのだとリアムが教えてくれた。

 特にケンドリック殿下は王太子としての資質を問われることになった。けれど第2王子はまだ若いため、弟殿下の成長を待ってから、どちらを後継者にするか協議されるそうだ。私としてはそこまで?とも思うが、陛下の決定したことだ。皆粛々と従うのだろう。

 神官長が『今後聖女は王宮行事には参加せず、魔力の安定に努める』と王宮に伝達してくれたおかげで、私は今ゆったりとした日々を送っている。

 ケンドリック殿下は今でも私に謝罪したいと面会を申し込んでいるらしいが神殿の主である神官長は許可しない。

 だからなのか、未だに手紙が届く。その内容は、ほとんどがもう一度会えば誤解が解けるというものだった。中には、私にマナーや王太子妃らしい振る舞いを求め過ぎた事への謝罪もあったが、その謝罪の言葉も一方的なもので、彼という人柄は変わらないのだと感じた。







「イーリス、お茶でも飲みませんか?」

「はい。」

 陽当たりの良い中庭で本を読んでいたら、リアムがティーセットを乗せたワゴンを運んできてくれた。

 リアムは神官長として神殿行事や各教会への視察など忙しいはずなのに、こうして私との時間を大切にしてくれる。

 そして夜、性欲の強い私たちはお互いを貪るように身体を重ねていた。そのお蔭か、体調は安定し、最近は魔法の勉強を初めている。
 ここでの生活は限られた人としか会わなくて済むし、私の好きな本も沢山ある。今の目標は回復魔法を覚える事。少しでもリアムの役に立ちたいと思うようになっていた。

「今度、大きな湖の畔にある教会に行くんですが、イーリスも行きませんか?視察の日に丁度花火大会があるんです。綺麗ですよ」

「行きたいです」

 この世界にも花火なんてあるんだ。ちょっとワクワクしちゃう。

 この中庭には季節の花々が美しさを競うように咲いていた。日本では見たことの無い花も多い。大好きな花の成長を見守れるここは、私のお気に入りの場所。

 リアムの淹れてくれた紅茶を飲みながら私はこの世界で初めて見る花火大会に想いを馳せていた。


ーー(完)ーー


おまけ


 ケンドリック殿下視点

 
 女神アイトネ様の遣わせた聖女は、目も眩むような美しい少女だった。

 彼女は国を守るための結界を張り、圧倒的な魔力をこの国の人々に見せつけた。

「父上、私は聖女イーリスを娶ることに決めました。貴族ではない彼女が王太子妃となるのを快く思わない人間も多いでしょう。ですから、彼女の婚約者としての立場を磐石にするため手続きを済ませてしまいたいのです」

 私は迅速に国王である父上の許可を得てイーリスを婚約者にした。

 私の婚約者候補と言われていた令嬢たちは、それが気に入らないようだったが、既にイーリスは正式な婚約者。立場が揺らぐことは無い。

 私は彼女が早く立派な淑女となれるよう姉上の助けを借り、教育環境を整えた。姉上などは「こんなにも甘やかして……。」と呆れるほどだった。

 私が方々に手を回しこんなにも手を尽くしていると言うのに、彼女は王太子妃になるための努力をしない。そのことに次第に苛立ちが募る。

 どうしてこんなにもしてやっているのに努力をしないんだ?

 それは私にとっては想定外。

 私の周囲に居る女性たちは立派な淑女となるべく努力を惜しまなかった。だから、イーリスがこんなに怠惰であることは意外だった。

 イーリスは淑女としての振る舞いも、社交術も全く身に付けようとはしない。何かにつけて、「王太子妃になりたくない」と言う始末。

  けれど、私は全て間違っていたようだった。

 婚約披露のパーティーでイーリスは私に向けて怒りを爆発させ、神殿に引き籠った。

「ケンドリック、何と言うことをしてくれたんだ。今後聖女は王宮行事に出席しないと連絡があった。国の危機は必ず助けに向かうから、それ意外では王宮とは交流をもたない意向だそうだ」
 
「陛下、私にチャンスをください。イーリス……聖女様は私に好意が無いために結婚が嫌で、あんなに怒ってしまったのでしょう。女性は恋人としての期間を大切にすると聞きました。これからゆっくりと聖女様との恋愛感情を育んでいけば、彼女の気持ちも変わるでしょう。私は淑女教育を急ぎ過ぎました」

 それから何回も神殿に赴いたが、聖女様との面会は叶わなかった。

 彼女に会って、私を好きになってもらうところから始めれば全て上手くいくのに……。

 

「ケンドリック、お主は自分が何故悪かったのか分かっておるのか?」

 父上に呼び出された。弟が成長してきたため、王太子にどちらが相応しいか見極めるつもりなのだろう。

「はい。聖女様の気持ちを蔑ろにしていました。聖女様が私に好意を持っていないにも関わらず強引に婚姻を進めようとしたことが間違いでした。」

「だから未だに聖女様に手紙を出しているのか?」

「はい。もう一度会えば必ず口説き落とす自信があります。そうすれば聖女様も……」

「ケンドリック、お主が聖女様に強要したマナー教育や貴族との付き合いは問題無かったと?」

「はい。もちろん順序が間違っていたとは思いますが、王太子妃にはマナーや振る舞い、貴族との交流など、求められるものは多いでしょう。現に以前私の婚約者候補だった令嬢方は競うように淑女教育に励んでおりました。彼女に求めたマナーや振る舞いは当然のものだと思っております」

「では、アデラインやサンシャル伯爵令嬢たちの言動も問題無かったと申すか?」

「はい。本当に王太子妃となるならば、会話の中でのあの程度の嫌味は自ら対処出来ねばなりません」

「そうか……」

 父上は大きくタメ息を吐いた。だが間違ったことは言っていないはずだ。

 その後、王太子には弟がなることが正式に発表された。私は未だにどこが悪いのか分からないでいる。


ーーー



 これにて一旦完結です。ワケわからんお話にお付き合いいただきありがとうございました。

 
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みんなの感想(31件)

なぁ恋
2021.12.07 なぁ恋

はぁあああ。
一気読みです。
最終の作者の一言に大笑いしてしまいました笑

魔力持ちの性欲が強い
面白かった。
最初の出だしからわらってしまった_:(´ `」 ∠):_

神殿はピンクが当然の世界なのですね。
恥ずかしくない!
当たり前!
よし笑

リアムさんはとっても美丈夫。ケンドリックよりも絶対良い男でしょう( *´艸`)❤

イーリスにはリアムみたいな男性がお似合い❤
これからを爽やかにエロく楽しく過ごしてください
(*´ω`人)✧︎

そしてケンドリック。
彼は元々の素質が高飛車で傲慢で俺様だったのですね。
ずっと、最後までそれを分かってなくて、周りに集まる者たちも似たり寄ったり。
彼の鼻っ柱をぽっきり折ってくれるような人物出てきて貰いたいなぁ。
彼を腹の底から折ってくれる人.......

どうでしょう?
それが女性であれ男性であれ。
その後のその後のケンドリックを読んでみたいです
✨(´。✪ω✪。 ` )


面白かった!!

鍋
2021.12.07

なぁ恋様〜🌟
感想ありがとうございます
(ㅅ•᎑•)♡*.+゜

へ、変なお話かな?と。
エロを書く練習を未だにしてます
(´ᴗ ·̫ ᴗก̀)
道具登場させても、無理やりにしてみても、何かモノ足りずに書き続けてます*(ू•ω•ू❁)**

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セライア(seraia)

一気に読了❗ ご馳走さまでした😆

ケンドリック、あんなんじゃ王太子失格ですね、廃太子されて国民ラッキー😁
伯爵とかの周りは同類なのかイエスマンばかりなのか……😓 どちらでもない臣下にとっても、アレの廃太子は僥倖ですね⭐

神官長、主人公を自分好みに調教する宣言を何気に2回……大切なことだから2度言いました❓😂 S要素以上にヤンデレ要素が強そう😅

コミュ障な引きこもりちゃんなら、ヤンデレ神官長でも相性合うでしょうから2人ともよかったですね😄
神様から遣わされた聖女の意志を聞きもしない王侯貴族なんて “ 丸ごと ” 、こっちから無視しちゃえ❗😁 いっそのこと、膨大な魔力活かした魔法で お仕置きしちゃう❓😂

おかわり、楽しみに待ってま~す😆
ペイトン殿下は、おかわりか 新作のための顔出しだったのかな、とか予想してみたり⭐

鍋
2021.09.07

セライア様~❤️
感想ありがとうございます🎵

一気に読んでいただいてありがとうございます(’-’*)♪
浮気の男へのざまぁが多い中、ちょっとモラハラ男を目指しました(。・ω・。)ゞ
この二人はイベントエロが書けるかと思ってまーす😆💖

解除
東堂明美
2021.08.26 東堂明美

完結おめでとうございます⁉️この王子は馬鹿ですか?自分勝手な意見と言うことが分からないような人では国民の上に立って導くことなど絶対無理ですよね🎵聖女の魔力は暴走するって面白いですね❗しかも、それを押さえるのは自慰だなんて中々ないですよね🎵最後は神官長とハッピーエンドは良いですね‼️楽しかったです。これからも良いものを期待しています‼️頑張って下さいね🎵応援してます‼️

鍋
2021.08.26

東堂明美様~❤️
感想ありがとうございます🎵

そして応援嬉しいです😆
大体ハッピーエンドなのですが、微妙なお話もあります(´▽`;)ゞ
エロを書きたい気持ちと、話題のモラハラ男を書きたい気持ちが鬩ぎ合い、こんなワケわからんお話になりました😅
こんなポンコツですが、よろしくお願いします🎵

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