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18 ファーストキス
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「え……?」
一気に不安が押し寄せた夕美に、千影は安心させるような声で続ける。
「着けないでする、という意味じゃなくて、今夜は最後までしない。ここへ誘った時の、夕美との約束を守りたいから」
「……じゃあどうして、わざわざドラッグストアへ買いに行ったの?」
彼の言う意味がわからず、混乱する思考のままに尋ねる。
宿に向かっていた車を引き返してまで街に戻り、避妊具を買いに行ったというのに。
それとも、その時は今とは違う気持ちだったのだろうか。
千影はゴムを横に置き、小さくため息をついた。
「意地悪したくなったんだ。最初はね、ふたりの関係はゆっくりでいいって言った僕のことを、夕美が信用していないのかと思って、ちょっと腹が立った」
「信用してないなんて、そんなこと……!」
誤解を否定する夕美に、千影が「うん」とうなずいた。
「だけど、そんな単純な話しじゃなかった。夕美は僕のことを思って、覚悟を決めてくれたんだよね。子どもっぽいことして、ごめん」
彼の手が夕美の頬に触れる。
「ただ、そんな夕美を見て、意地悪がしたくなったんだ。本当に今夜、僕に抱かれていいの? って。けなげな夕美を見ているのが嬉しくてさ。性格悪いね、僕」
「……そんなことない」
首を横に振って否定する。夕美が誤解されるようなことを口走ったのも良くなかったのだから。
「今夜はしない。その代わり、夕美を抱きしめてキスさせてほしい。キスしたあとは同じベッドで眠りたい。イヤなら拒否して」
夕美の頬に当てていた千影の指は、ゆっくりと下に降りていき、首筋に到達した。そこから伝わる彼の熱が、夕美の肌に浸透していくように感じて、めまいが起こりそうになる。
「車の中でも言ったけど、私は覚悟を決めてここにいる。だから千影さんを拒否することはないの」
「ありがとう。本音を言えば、君を抱きたいのはやまやまなんだよ。でも約束を守りたいし、君を怖がらせたくないんだ」
「千影さんは怖くない」
「そう。怖くないから……信じてね」
「あっ」
千影の手で、ベッドに押し倒される。気づけば、すぐ目の前に彼の端整な顔があった。
「好きだよ、夕美」
優しげに目を細めた彼の告白に、夕美の心臓がドクンと大きく鼓動した。こんなにも甘美な言葉を耳に入れられて、正気を保てというほうが無理だ。
「ん……」
返事をする間もなく、目を閉じた瞬間に唇が重なる。それは一瞬で、離れたと同時に千影が問うた。
「夕美、震えてるの?」
「……初めてだから」
「え……?」
夕美に覆い被さっている千影から戸惑う声が聞こえ、恥ずかしくなって顔を逸らした。
「キ、キスするのも全部、初めてで……。彼氏とかいたことなくて、男の人と恋人つなぎしたのも、抱きしめられたのも、全部……初めてなの」
「そうだったのか」
「……この歳で手もつないだことがないなんて、引いたよね?」
千影はそんな非モテ女性に遭遇したことなどないだろうと思うと、情けなくて涙が出そうになる。
いただいたその日に婚約指輪を返すことになるかもしれない、などという不安が頭をよぎった。
「夕美、こっち向いて」
夕美の頬に手を添えた千影は、自分のほうへ向かせる。
「引くだなんてとんでもない。夕美の告白を聞いて最高に興奮した。嬉しくて震えるほどだよ、ほら」
千影が夕美の前に自分の手を差し出した。確かめようとしてそちらを見た夕美に、彼の唇が襲いかかる。
「んっ、んうう……っ!」
押しつけられた唇から、ぬるりとした感触が入り込んだ。それが千影の舌だと気づいた瞬間、羞恥でどうにかなりそうになる。
夕美は両手首を押さえ込まれただけでなく、口中まで彼の舌に支配された。何度も舌が絡まり、頬の裏まで舐められる。
そのキスは永遠と思われるほど、長く深いものだった。
一気に不安が押し寄せた夕美に、千影は安心させるような声で続ける。
「着けないでする、という意味じゃなくて、今夜は最後までしない。ここへ誘った時の、夕美との約束を守りたいから」
「……じゃあどうして、わざわざドラッグストアへ買いに行ったの?」
彼の言う意味がわからず、混乱する思考のままに尋ねる。
宿に向かっていた車を引き返してまで街に戻り、避妊具を買いに行ったというのに。
それとも、その時は今とは違う気持ちだったのだろうか。
千影はゴムを横に置き、小さくため息をついた。
「意地悪したくなったんだ。最初はね、ふたりの関係はゆっくりでいいって言った僕のことを、夕美が信用していないのかと思って、ちょっと腹が立った」
「信用してないなんて、そんなこと……!」
誤解を否定する夕美に、千影が「うん」とうなずいた。
「だけど、そんな単純な話しじゃなかった。夕美は僕のことを思って、覚悟を決めてくれたんだよね。子どもっぽいことして、ごめん」
彼の手が夕美の頬に触れる。
「ただ、そんな夕美を見て、意地悪がしたくなったんだ。本当に今夜、僕に抱かれていいの? って。けなげな夕美を見ているのが嬉しくてさ。性格悪いね、僕」
「……そんなことない」
首を横に振って否定する。夕美が誤解されるようなことを口走ったのも良くなかったのだから。
「今夜はしない。その代わり、夕美を抱きしめてキスさせてほしい。キスしたあとは同じベッドで眠りたい。イヤなら拒否して」
夕美の頬に当てていた千影の指は、ゆっくりと下に降りていき、首筋に到達した。そこから伝わる彼の熱が、夕美の肌に浸透していくように感じて、めまいが起こりそうになる。
「車の中でも言ったけど、私は覚悟を決めてここにいる。だから千影さんを拒否することはないの」
「ありがとう。本音を言えば、君を抱きたいのはやまやまなんだよ。でも約束を守りたいし、君を怖がらせたくないんだ」
「千影さんは怖くない」
「そう。怖くないから……信じてね」
「あっ」
千影の手で、ベッドに押し倒される。気づけば、すぐ目の前に彼の端整な顔があった。
「好きだよ、夕美」
優しげに目を細めた彼の告白に、夕美の心臓がドクンと大きく鼓動した。こんなにも甘美な言葉を耳に入れられて、正気を保てというほうが無理だ。
「ん……」
返事をする間もなく、目を閉じた瞬間に唇が重なる。それは一瞬で、離れたと同時に千影が問うた。
「夕美、震えてるの?」
「……初めてだから」
「え……?」
夕美に覆い被さっている千影から戸惑う声が聞こえ、恥ずかしくなって顔を逸らした。
「キ、キスするのも全部、初めてで……。彼氏とかいたことなくて、男の人と恋人つなぎしたのも、抱きしめられたのも、全部……初めてなの」
「そうだったのか」
「……この歳で手もつないだことがないなんて、引いたよね?」
千影はそんな非モテ女性に遭遇したことなどないだろうと思うと、情けなくて涙が出そうになる。
いただいたその日に婚約指輪を返すことになるかもしれない、などという不安が頭をよぎった。
「夕美、こっち向いて」
夕美の頬に手を添えた千影は、自分のほうへ向かせる。
「引くだなんてとんでもない。夕美の告白を聞いて最高に興奮した。嬉しくて震えるほどだよ、ほら」
千影が夕美の前に自分の手を差し出した。確かめようとしてそちらを見た夕美に、彼の唇が襲いかかる。
「んっ、んうう……っ!」
押しつけられた唇から、ぬるりとした感触が入り込んだ。それが千影の舌だと気づいた瞬間、羞恥でどうにかなりそうになる。
夕美は両手首を押さえ込まれただけでなく、口中まで彼の舌に支配された。何度も舌が絡まり、頬の裏まで舐められる。
そのキスは永遠と思われるほど、長く深いものだった。
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