最推しと結婚できました!

葉嶋ナノハ

文字の大きさ
17 / 61

17 一生の宝物

しおりを挟む

 部屋に戻った夕美は、用意していたクリスマスプレゼントを千影に渡した。

 自分の服を買いに行った際、彼に似合いそうなネクタイを購入したのだ。
 千影からもらった指輪には足元も及ばない値段だが、ありがとうありがとう本当にありがとうと彼は喜び、目には涙が浮かぶほどだった。

 大げさだよと夕美が笑っても、彼はしばらくネクタイを離そうとはせず、愛おしげにずっと眺めていた。

 互いのプレゼントを堪能したあとでサウナ着に着替え、プライベートサウナへ一緒に入って整う。それから交代で露天風呂に入ってゆったり過ごした。
 素晴らしく気持ちが良く、極上の心地でいた一方で、夕美は急に訪れた眠気との戦いに何度も負けそうになりながら耐えた。

 ――風呂上がりの彼の浴衣姿や、濡れた髪でいる姿を写真に収めたい。

 その必死な思いが眠気を覚ましてくれ、彼の了承も得て(怪しくならないように気を付けて)、無事に写真をゲットできた自分を褒めてあげたい。

 その後、宿のレストランで地元の食材を使った料理をいただく。素晴らしい美味しさに驚いて、しっかり目が覚めたのだが、そのあとがいけない。
 下田の地酒がとても美味しく、ひとくち、またひとくちと飲んでしまったのだ。それほど多い量ではないが、結局眠気が舞い戻ってくることに。

 食事を終えたふたりは、腹ごなしに館内を散歩する。
 エントランス横の部屋に入ると、大きな窓をしつらえたライブラリーが現われた。話題の書籍から文豪の文庫、洋書や雑誌もあり、ふたりでおしゃべりしながら写真集を手に取る。ゆったりしたソファに腰掛け、ふたりで一冊の本を眺めて、楽しい時を過ごした。

 ライブラリーを出たあとは、セレクトショップに入り、伊豆の特産品やリネン類、宿オリジナルのスキンケアグッズを眺める。

「これ、お部屋にあって使ったの。すごく良かったから、帰りにもう一度寄って買ってもいい?」

「どれを買うの?」

 そう問われて、夕美が「これとこれ」と指さしたスキンケアグッズを、千影が手にした。

「他には? 好きなの選んでいいよ」

「え、まさか千影さんが買うの? 自分で買うから大丈夫よ」

「買ってあげたいんだよ。僕のワガママだから、いいんだ。ほら、こっちも良さそうだよ」

「ありがとう、千影さん。でもこれだけで十分。すごく嬉しい」

 お礼を言ったとたん、千影は夕美の肩を抱き、自分に引き寄せた。

「ち、千影さん?」

「可愛すぎる。この店の物、全部買ってあげたいくらいだ」

 ぎゅーっとしながら耳元で囁かれ、彼の香りでいっぱいになる。恥ずかしさと照れくささで目の前がチカチカするほどだ。

(千影さん、というか神原社長のイメージが……! こんなに甘々な人だったなんて知らなかった……)

 周りに他の客はいなかったが、人目を憚ろうとしない千影の行動にドギマギする。スタッフは離れているところにいるので、たぶん見えていなりだろうとわかっていても。
 
 スキンケアグッズと伊豆の特産品を買い、部屋に戻る。
 千影は畳敷きの和室でノートPCを取り出し、仕事の確認を始めた。
 夕美はベッドに座ってSNSを見たり、メッセージなどをチェックする。そしてこっそり女性向けの「初体験」に関する情報を検索した。 昨日から何度も見過ぎていて、文章を覚えてしまっているくらいだ。

 そうしてスマホを眺めているうちに、また眠気が戻ってくる。

「よし、終わった。ちょっと酔い覚ましにテラスに出てくるね」

「えっ、あ、はい!」

「どうしたの?」

「ううん、なんでもないの。お仕事お疲れさまでした」

 ありがと、と微笑んだ千影は立ち上がり、テラスへ行く。しかし十秒も経たないうちに、彼は身を縮めながら部屋に戻ってきた。

「ダメだ、やっぱり夜は寒いね。一瞬で目が覚めたよ。ああ、ほんとに寒かった~」

 子どものようにはしゃぐ彼の貴重な姿も写真や動画に収めたかった夕美だが、先ほどとは違って、それどころではない。

「私もテラスに出てみようかな……」

「すごく寒いよ? ……もしかして眠いの?」

 ベッドに腰掛けていた夕美のとなりに、千影が座った。

「お酒のせいもあるんだけど、昨夜あんまり眠れなかったの。それで眠気がきちゃったから、目を覚ましてこようかなって」

「もしかして旅行に緊張してた?」

「それもあるし、嬉しかったから興奮しちゃったみたい。遠足前の子どもみたいな感じ」

 えへへと笑ってごまかす。
 緊張と楽しみ以上に、千影に抱かれてもいいという話しをどう切り出そうか悩んでいたことが、眠りを妨げていた一番の要因だったから。

「僕も嬉しくて寝られなかったから、一緒だね」

 クスッと笑った千影は立ち上がり、自分の荷物を探った。そして、先ほどドラッグストアで購入した箱をこちらへ見せる。

「そろそろ横になろうか」

「っ、はい!」

「これを見て、少しは目が覚めたんじゃない? でもね、夕美」

 箱の中を探りながら、彼がこちらへ近づいてくる。そして部屋の明かりを消し、間接照明だけを灯した。

「今夜、これは使わない」

 再び夕美の隣に座った千影は、包装されているゴムをこちらに見せて、口の端を上げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない

如月 そら
恋愛
「二度目は偶然だが、三度目は必然だ。三度目がないことを願っているよ」 (三度目はないからっ!) ──そう心で叫んだはずなのに目の前のエリート役員から逃げられない! 「俺と君が出会ったのはつまり必然だ」 倉木莉桜(くらきりお)は大手エアラインで日々奮闘する客室乗務員だ。 ある日、自社の機体を製造している五十里重工の重役がトラブルから莉桜を救ってくれる。 それで彼との関係は終わったと思っていたのに!? エリート役員からの溺れそうな溺愛に戸惑うばかり。 客室乗務員(CA)倉木莉桜 × 五十里重工(取締役部長)五十里武尊 『空が好き』という共通点を持つ二人の恋の行方は……

恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の 元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳  ×  敏腕だけど冷徹と噂されている 俺様部長 木沢彰吾34歳  ある朝、花梨が出社すると  異動の辞令が張り出されていた。  異動先は木沢部長率いる 〝ブランディング戦略部〟    なんでこんな時期に……  あまりの〝異例〟の辞令に  戸惑いを隠せない花梨。  しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!  花梨の前途多難な日々が、今始まる…… *** 元気いっぱい、はりきりガール花梨と ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。

私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜

みかん桜
恋愛
身長172センチ。 高身長であること以外ごく普通のアラサーOL、佐伯花音。 婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。 「名前からしてもっと可愛らしい人かと……」ってどういうこと? そんな男、こっちから願い下げ! ——でもだからって、イケメンで仕事もできる副社長……こんなハイスペ男子も求めてないっ! って思ってたんだけどな。気が付いた時には既に副社長の手の内にいた。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

処理中です...