最推しと結婚できました!

葉嶋ナノハ

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35 ふたりの未来

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 いや、聞き間違いだろう。
 名簿に千影の名前が載っていたのは「六年前の夏」なのだから。

「七年前じゃなくて、六年前だよね……? 」

 夕美の問いに、千影は首をかしげて、当時を思い出す仕草をした。

「六年前……、夕美はいなくて会えてないんだよね、確か。その夏はここに帰らなかったのかな?」

「高三の夏だったの。ここからだと予備校に通うのが大変だから寮に残って、お盆の数日だけこっちに帰ってた」

 千影の質問に答えつつ、心に生まれた違和感の理由を探る。

「ああ、そういうことだったのか。夏がかなり混んでいたから、その後はオフシーズンに予約をすることにしたんだ。名簿にも載ってたでしょ?」

「うん」

 千影の話は、夕美が見た名簿の日付と相違なく、嘘ではない。
 たぶん、夕美の問いかけた「七年前」を否定せずに話を進められたことが、引っかかっただけだろう。

「寒いな……。もう戻らないか?」

 千影が両腕を組み、肩を縮ませた。

「あっ、ごめんなさい。せっかくお風呂に入ったのに冷えちゃうよね」

 夕美は急いで名簿を棚にしまい、ヒーターを消した。


 ふたりで両親に挨拶をして、夕美の部屋に入る。
 自分の荷物は東京のアパートに送っているので、ここには来客用の布団と暖房器具しか置いていなかった。

 明かりを消して、枕元に置いてある小さなランプを点ける。
 二枚並べて敷かれた布団に入って、「おやすみ」の挨拶をした。

 目をつぶろうか迷っていると、千影が小声で夕美に語りかけてくる。

「夕美と家族になれるの、嬉しいなぁ。僕は兄弟もいないし、両親とも連絡は途絶えてるから、家族が出来るのは本当に嬉しいんだ」

「千影さん……」

 以前も聞いた彼の寂しい環境に、夕美の胸が小さく痛む。

 体勢を変えて千影のほうへ横向きになると、彼も夕美のほうを向き、微笑んだ。

「子どもも欲しいと思ってる。もちろん夕美の気持ちが優先だけどね」

「私も……千影さんの赤ちゃん、欲しい」

 自然にそんな言葉を返していた。
 夕美は千影を幸せにしたいのだ。彼が望む幸せな家庭を、夕美も作りたいと心から思う。

 すると、眉をしかめた千影の顔が、みるみるうちに赤く染まっていった。

「夕美……あのねぇ」

「え?」

「そんな可愛い顔してストレートに言われたら、今すぐ作りたくなるだろ。ご両親が下にいるここでは、絶対にできないって、我慢してるんだから」

 千影は夕美の手を取り、握ってきた。
 ぎゅっと口を引き結んでいる顔が可愛くて、思わず笑みがこぼれてしまう。

「そんなつもりはなかったんだけど……でも、私の言葉でそうなってくれるのは、なんか嬉しい」

「……一緒に住んだらたくさん抱かせてもらうから」

「うん。いっぱい抱いてね」

 むくれたような顔をしている千影に返事をすると、彼はさらに手を強く握ってくる。そして、自分の布団に顔を押しつけて、小さく唸った。

「夕美~……」

 どうやらまたも、夕美の言葉が刺さったようだ。

「あっ、ごめんね。でも、それしか答えようがないじゃない?」

「寝よう、うん。寝る、おやすみ!」

「おやすみなさい、千影さん」

 布団にもぐった彼が愛おしくて、夕美はクスクス笑いながら彼の手を強く握り返した。

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