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番外編 千影視点 君のためなら
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※完結後の、ほのぼのなお話です。
「君のどんなわがままも全力で、叶えてあげるからね」
お風呂上がりにソファの上で夕美を膝に乗せた千影は、彼女を愛でながらささやいた。
「ほんとに?」
上目遣いで尋ねる夕美が可愛くて、その頬にキスをする。
「本当だよ。僕が嘘ついたことある?」
ありまくりなのだが、そこは雰囲気で流すことにする。
「じゃあ、わがまま言うね」
「どうぞ。何をしてほしいのかな?」
「今すぐラーメン食べに行きたい」
「ラ、ラーメン!? 今から?」
千影は思わず大きな声を上げてしまった。
リビングの壁にかかった時計の針は夜の十時過ぎを指している。もちろん夕飯はふたりでしっかり済ませているのだが……。
戸惑う千影にはかまわず、夕美は目を輝かせて説明を始めた。
「ここから歩いて二十分くらいのところにできたラーメン屋さんなの。前から食べてみたいと思ってた家系ラーメンでね、こってりでね、すっっごく美味しそうなの!」
「お、おう、そうなんだ」
「でも夕方から深夜までしか営業してないらしいの。しかも平日のみなんだって。仕事が終わってからひとりで向かうのは、ちょっと怖いなって……」
「ああ、ダメだ。会社帰りとはいえ、ひとりで夜に出歩くのはやめたほうがいい。僕も心配だから――」
「そうじゃないの。そこの本店はカウンターしかなくて、お客さんがほぼサラリーマンの男性か、スポーツやってる学生ばっかりなんだって。たぶん新しくできたお店もそう。で、そういうお店は暗黙の了解とかあるんだよ」
「暗黙の了解?」
「そう。注文の仕方とか、無駄話はせずにさっさと食べるとか、途中で水は飲むなとか」
「え、ええ……」
「そんな場所に、素人の私がひとりで乗り込むのは無謀というもの……」
夕美は熱く語った後、顎に指を当てて難しい顔をしている。
彼女の望みならなんでも叶えてあげたい。たとえ千影の腹が十分満たされていたとしても……!
「わかった、行こう」
「ほんとに!? やった~!! 千影さん、大好きっ!!」
「っ!」
抱きついてきた夕美にチュッとキスをされて、千影はたちまち舞い上がった。
その後、こってりな家系ラーメンを食べた千影は苦しさのあまり、深夜まで眠れなかったのは言うまでもないが……。
ちなみに夕美は満足げに、千影の隣ですやすやと眠っていた。
そして翌日。
久しぶりに千影は午後休を取れることになっている。夕美は普通に定時上がりなので、千影が家事全般を請け負う予定だ。
「ビーフシチューが食べたい」
夕飯は何がいいかと千影が尋ねる前に、夕美が言った。それなら、と提案してみる。
「いいね。美味い店を知ってるから予約を入れておくよ。夕美の仕事が終わる時間に待ち合わせして――」
「そうじゃなくて、お家で作ったのが食べたいの。箱に入ったルーを入れるだけの、あのビーフシチューが……、すごく食べたいっ」
夕美は両手を握りしめ、頬を紅潮させて訴える。
さすがの千影もビーフシチューは作ったことがない。どうしようかと考えていると、夕美がハッとした顔をする。
「あっ、ごめんなさい、わがまま言って。えっと、ビーフシチューじゃなくていいので、よろしくお願いします……。お仕事行ってくるね」
バッグを手にした夕美は、しょんぼりした肩にそれを掛けた。
「いーや、夕美。僕を舐めてもらっちゃ困るな。君が帰ってくるまでに最高に美味しいビーフシチューを作っておくよ。だから楽しみにしてて、ね?」
「本当に!? ありがとう千影さんっ!」
「っ!」
抱きついてきた夕美にチュッとキスをされて、千影はたちまち舞い上がった。
そうして、昼前に仕事を終えた千影はその足で圧力鍋と食材を購入し、初めて作るビーフシチューと格闘し、どうにか夕美に喜んでもらえるものを作ることができた。
さらに翌日の土曜日。今日はふたりとも休日である。
「今すぐ、ナノハーストップのソフトクリームが食べたい……!」
そう言いながら、ソファに腰掛けていた夕美は足をバタバタさせた。
「ナ、ナノハーストップってコンビニの?」
「うん。食べたいのに、このへんにはお店がないの……。だからさすがにこれは無理だよね……」
残念そうな声が千影の胸に突き刺さる。
自分は彼女の願いを叶えると誓ったのではないか。ならば、行動あるのみ……!
「いや、大丈夫だよ、夕美。一時間くらいで戻るから待ってて……!」
ソファから立ち上がった千影は、ジャケットを着て車のキーを片手に玄関を飛び出した。
駐車場に停めてある車に乗り込み、ナビを睨むように見つめながら、この後の計画を口にする。
「まずはアウトドアショップに行って、クーラーボックス買って、強力な保冷剤を用意して、コンビニを探して……よしイケる!」
ルートをナビにぶちこみ、車を走らせる。そしてアウトドアショップで買い物をした後、車に乗った瞬間、千影はふと思いついた。
「……待てよ? もしかして……」
よく考えてみれば、ここ数日の夕美の言動と食欲は、いつもとだいぶ違うのではないか。
つい勢いに乗って夜遅くにラーメンを食べに行ったり、ビーフシチューと格闘したり、こうしてソフトクリームを買いに来てしまったが、これはもしかすると……。
「妊娠、してる……?」
つわりの一種で食欲が増すというのを、以前ネットで見たことがある。これは今の夕美に当てはまっているのでは……?
「そうだったのか! 夕美、すぐに帰るから待ってるんだよー!」
その後、ソフトクリームを獲得した千影は慎重にクーラーボックスへそれを入れ、車を走らせた。もちろん安全運転で。
「ただいまっ! 夕美、これ……っ!」
自宅に戻ってリビングに入り、待っていた夕美にクーラーボックスを差し出す。
「あっ、お帰りなさい、千影さん。なんかあの、いろいろごめんね。毎日食べたいもの、たくさんせがんじゃって。実は――」
「じ、実は?」
思わず身を乗り出して、期待している言葉を待つ。
「生理前で食欲が暴走しちゃってたみたい。今さっき生理が来たの。そしたら急に食欲が落ち着いちゃって」
夕美は、えへへと笑って、自分の頭に手を置いた。
「あ、ああ、そうなんだ。うん、いいんだ、そうか。ソフトクリームは食べられる? 冷えるならやめておこうか」
その場にへたりこみそうになるが、どうにか正気を保ちながら、夕美に笑いかける。
「ううん、大丈夫。千影さんと半分こして食べたいな。本当にありがとう……!」
抱きついてきた夕美にチュッとキスをされて、千影はたちまち舞い上が(以下略)。
この可愛い笑顔に弱いのだ。
この笑顔を見れるのなら、どんなに振り回されようと、夕美のために尽くしまくることを誓う千影だった。
「君のどんなわがままも全力で、叶えてあげるからね」
お風呂上がりにソファの上で夕美を膝に乗せた千影は、彼女を愛でながらささやいた。
「ほんとに?」
上目遣いで尋ねる夕美が可愛くて、その頬にキスをする。
「本当だよ。僕が嘘ついたことある?」
ありまくりなのだが、そこは雰囲気で流すことにする。
「じゃあ、わがまま言うね」
「どうぞ。何をしてほしいのかな?」
「今すぐラーメン食べに行きたい」
「ラ、ラーメン!? 今から?」
千影は思わず大きな声を上げてしまった。
リビングの壁にかかった時計の針は夜の十時過ぎを指している。もちろん夕飯はふたりでしっかり済ませているのだが……。
戸惑う千影にはかまわず、夕美は目を輝かせて説明を始めた。
「ここから歩いて二十分くらいのところにできたラーメン屋さんなの。前から食べてみたいと思ってた家系ラーメンでね、こってりでね、すっっごく美味しそうなの!」
「お、おう、そうなんだ」
「でも夕方から深夜までしか営業してないらしいの。しかも平日のみなんだって。仕事が終わってからひとりで向かうのは、ちょっと怖いなって……」
「ああ、ダメだ。会社帰りとはいえ、ひとりで夜に出歩くのはやめたほうがいい。僕も心配だから――」
「そうじゃないの。そこの本店はカウンターしかなくて、お客さんがほぼサラリーマンの男性か、スポーツやってる学生ばっかりなんだって。たぶん新しくできたお店もそう。で、そういうお店は暗黙の了解とかあるんだよ」
「暗黙の了解?」
「そう。注文の仕方とか、無駄話はせずにさっさと食べるとか、途中で水は飲むなとか」
「え、ええ……」
「そんな場所に、素人の私がひとりで乗り込むのは無謀というもの……」
夕美は熱く語った後、顎に指を当てて難しい顔をしている。
彼女の望みならなんでも叶えてあげたい。たとえ千影の腹が十分満たされていたとしても……!
「わかった、行こう」
「ほんとに!? やった~!! 千影さん、大好きっ!!」
「っ!」
抱きついてきた夕美にチュッとキスをされて、千影はたちまち舞い上がった。
その後、こってりな家系ラーメンを食べた千影は苦しさのあまり、深夜まで眠れなかったのは言うまでもないが……。
ちなみに夕美は満足げに、千影の隣ですやすやと眠っていた。
そして翌日。
久しぶりに千影は午後休を取れることになっている。夕美は普通に定時上がりなので、千影が家事全般を請け負う予定だ。
「ビーフシチューが食べたい」
夕飯は何がいいかと千影が尋ねる前に、夕美が言った。それなら、と提案してみる。
「いいね。美味い店を知ってるから予約を入れておくよ。夕美の仕事が終わる時間に待ち合わせして――」
「そうじゃなくて、お家で作ったのが食べたいの。箱に入ったルーを入れるだけの、あのビーフシチューが……、すごく食べたいっ」
夕美は両手を握りしめ、頬を紅潮させて訴える。
さすがの千影もビーフシチューは作ったことがない。どうしようかと考えていると、夕美がハッとした顔をする。
「あっ、ごめんなさい、わがまま言って。えっと、ビーフシチューじゃなくていいので、よろしくお願いします……。お仕事行ってくるね」
バッグを手にした夕美は、しょんぼりした肩にそれを掛けた。
「いーや、夕美。僕を舐めてもらっちゃ困るな。君が帰ってくるまでに最高に美味しいビーフシチューを作っておくよ。だから楽しみにしてて、ね?」
「本当に!? ありがとう千影さんっ!」
「っ!」
抱きついてきた夕美にチュッとキスをされて、千影はたちまち舞い上がった。
そうして、昼前に仕事を終えた千影はその足で圧力鍋と食材を購入し、初めて作るビーフシチューと格闘し、どうにか夕美に喜んでもらえるものを作ることができた。
さらに翌日の土曜日。今日はふたりとも休日である。
「今すぐ、ナノハーストップのソフトクリームが食べたい……!」
そう言いながら、ソファに腰掛けていた夕美は足をバタバタさせた。
「ナ、ナノハーストップってコンビニの?」
「うん。食べたいのに、このへんにはお店がないの……。だからさすがにこれは無理だよね……」
残念そうな声が千影の胸に突き刺さる。
自分は彼女の願いを叶えると誓ったのではないか。ならば、行動あるのみ……!
「いや、大丈夫だよ、夕美。一時間くらいで戻るから待ってて……!」
ソファから立ち上がった千影は、ジャケットを着て車のキーを片手に玄関を飛び出した。
駐車場に停めてある車に乗り込み、ナビを睨むように見つめながら、この後の計画を口にする。
「まずはアウトドアショップに行って、クーラーボックス買って、強力な保冷剤を用意して、コンビニを探して……よしイケる!」
ルートをナビにぶちこみ、車を走らせる。そしてアウトドアショップで買い物をした後、車に乗った瞬間、千影はふと思いついた。
「……待てよ? もしかして……」
よく考えてみれば、ここ数日の夕美の言動と食欲は、いつもとだいぶ違うのではないか。
つい勢いに乗って夜遅くにラーメンを食べに行ったり、ビーフシチューと格闘したり、こうしてソフトクリームを買いに来てしまったが、これはもしかすると……。
「妊娠、してる……?」
つわりの一種で食欲が増すというのを、以前ネットで見たことがある。これは今の夕美に当てはまっているのでは……?
「そうだったのか! 夕美、すぐに帰るから待ってるんだよー!」
その後、ソフトクリームを獲得した千影は慎重にクーラーボックスへそれを入れ、車を走らせた。もちろん安全運転で。
「ただいまっ! 夕美、これ……っ!」
自宅に戻ってリビングに入り、待っていた夕美にクーラーボックスを差し出す。
「あっ、お帰りなさい、千影さん。なんかあの、いろいろごめんね。毎日食べたいもの、たくさんせがんじゃって。実は――」
「じ、実は?」
思わず身を乗り出して、期待している言葉を待つ。
「生理前で食欲が暴走しちゃってたみたい。今さっき生理が来たの。そしたら急に食欲が落ち着いちゃって」
夕美は、えへへと笑って、自分の頭に手を置いた。
「あ、ああ、そうなんだ。うん、いいんだ、そうか。ソフトクリームは食べられる? 冷えるならやめておこうか」
その場にへたりこみそうになるが、どうにか正気を保ちながら、夕美に笑いかける。
「ううん、大丈夫。千影さんと半分こして食べたいな。本当にありがとう……!」
抱きついてきた夕美にチュッとキスをされて、千影はたちまち舞い上が(以下略)。
この可愛い笑顔に弱いのだ。
この笑顔を見れるのなら、どんなに振り回されようと、夕美のために尽くしまくることを誓う千影だった。
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