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第五章
第六十九話 ドルミールの偽心臓
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地下宝物庫でドルミールの偽心臓が爆発を起こす。
偽心臓の魔力は百年以上に渡り貯めこまれたものであり、その爆発の威力はブルームトの国を滅ぼして余りあるものがある。
偽心臓を握っていたクロはもちろん、二人の襲撃者、そしてこの国の姫であるポーラもただでは済まない位置にいた。しかし、爆発はいまだ届いていない。爆発は止まっているのかと見間違うほどにゆっくりと広がっている最中だった。
クロは偽心臓に魔法を使いながら、懐から箱状の魔道具を取り出す。そして激しく発光している偽心臓をその箱の中に入れると宙へと放り投げる。
次にクロはすぐさま転がっている三人を抱え、部屋の隅に移動すると新たに魔法を発動させた。使用したのはシールド系の魔法であり、その数は十三。箱の全面を二重で囲み、残りの一枚は自らの前に配置している。
箱が膨張し、軽い音とともに弾け飛ぶ。
爆発は止まっていない。いまだにゆっくりと広がっている。
奇妙なほど遅い爆発はクロが囲んだ二重のシールド、その内側に到達した。シールドは爆発を抑え込む。ただシールドの中で充満したエネルギーは大きく、すぐにひび割れを起こす。そして微かな時間で内側のシールドは壊れてしまった。
二重に展開された外側のシールドも爆発を抑え込んでいく。今度は先ほどより長く持ち、抑え込みに成功したかに思われた。だがしかし、小さなひびが入ってしまう。ほどなくしてシールドは壊れ、二重だったシールドはその二つとも消失するのであった。
シールドが無くなり、爆発は一気に本来の速度に戻る。
閃光が奔り、轟音が響く。衝撃と爆炎が今度こそクロたちに襲い掛かった。
クロの前面に展開されたシールドは爆発の衝撃でひびが入る。シールドがあるというのにローブは損傷し、大きくはためいていた。
ひびを確認したクロはすぐに展開しているシールドへ追加で魔法をかける。その直後、広がりをみせていたひびはピタリと止まり、それ以降はひびが広がるようすは見られない。
ドルミールの偽心臓の爆発。本来なら国ごと吹き飛ばしていた爆発を、城が大きく揺れる程度に抑え込んだのはクロの魔法だ。
クロは爆発、そしてその衝撃の速度を減速して時間を稼ぐと、強力な魔道具とシールド魔法でその威力を殺したのである。
全滅の危機を乗りこたところで、クロは再び紫の光を放つ魔法を作成した。狙いはポーラだ。二人の襲撃者の洗脳を解いたが、ポーラは解かれていない。ただ気絶しているだけである。そのため、クロはポーラの洗脳を解こうとしていた。
わざわざ洗脳を解くのはクロが長居する気がないためだ。三人をこの場に置いていくつもりであり、介抱も現状の説明する気もなかった。そのうえで権力者なら何とか場を治めるだろうとの判断し、ポーラの洗脳を解くことにしたのである。
クロは魔法はポーラに命中し、その体を微かに輝かせていく。そのようすを横目で見ながらも、クロの意識はドルミールの偽心臓に注がれていた。
爆発し、その力を解放してしまったドルミールの偽心臓は、大きくひび割れ床に転がっている。クロは偽心臓を回収し、一通り観察すると大きく息を吐いた。
「……魔力は少しは残ったか。しかし、これは直るのか?」
思わず口から疑問が出ると、かぶりを振って偽心臓を懐へとしまう。
結果としては散々だったが、この地での目的は一応果たした。あとは脱出するだけだが、正面から出るか、ゼルランディスのあとを追うかで少し悩む。
さすがに騒ぎを起こしたという自覚がある。城の兵士はこちらに向かって来るだろう。もしらしたら城壁周りにも住民が集まっているかもしれない。それを考えると多少面倒でもゼルランディスのあとを追う方が楽だと考える。
ゼルランディスを追う。その決断をしたとき、勢いよく扉が開いた。
開いた扉はゼルランディスが逃げて行ったほうではない。この部屋に入る正規の入り口だと思われる扉だ。そして、その扉を開けた人物に、クロは見覚えがあるのであった
「クロ!? 何があったんだ!」
エクレールが扉を開け、目にした光景はクロと倒れ込んでいる三人の男女だった。そのうち一人は見覚えがある。この国の姫であるポーラだ。あとの二人は初めて見る顔だが、二人ともよく知る服装、装備をしており、偵察部隊の人間だとわかる。
明かり代わりの雷の球を片手にエクレールは倒れた三人へと近寄っていく。
三人とも息がある。フルールだと思われる女性も気絶こそしているものの、目立った怪我は見られない。どうやらクロは手加減してくれたようだ。
礼を言うために顔を向けると、クロは奥の扉へと歩き出していた。先の質問にも答えるようすは見られず、完全に無視された形だ。その振る舞いに、ふと城壁へと投げられたこと思い出し、走り寄って強引に肩を掴む。
「待て待て、いきなり投げ飛ばして今度は無視か? せめて一言ぐらいは――」
肩を掴み、無理やり振り向かせたところでエクレールは言葉を失った。
先ほどまでは気づいていなかったが、クロのローブはところどころちぎれ、その顔が見えるようになっていたのだ。エクレールはその顔を、正確には魔族しか持っていない赤い目を見て驚いていた。
「……クロ、おまえは……魔族だったんだな?」
「ああ、そうだ」
「そうか……でも、クロが悪い奴じゃないのは分かってるつもりだ。そこの三人も生きている。手加減してくれたんだろう? 悪いようにはしない。あたしが保証する。だから、大人しく捕まってくれないか?」
「断る」
分かってはいた。クロのなら断る。それは分かってはいたのだが、断ってほしくなかった。
クロがどこかにひっそりと隠れ住んでいる魔族なら別に捕らえる必要はない。しかし、わざわざこんなところに単身で忍び込んでいるのだ。その強さといい、下手すれば魔族側の幹部という可能性すらある。
このまま逃がすことはできない。そう思いながらも、エクレールは内心ため息をつきたい気持ちでいっぱいであった。
「俺と戦う気か? おまえなら、それが無駄なことぐらいわかるだろう?」
そうなのだ。エクレールにも分かってはいる。正直、クロと戦っても勝ち目は薄い。もちろん負けるつもりはないが、勝つなら全力を出す必要がある。手加減などする余裕はないだろう。それでエクレールが勝てた場合、それはすなわちクロの死を意味することになる。
クロはこちらの頼みを聞いてくれた。敵なら殺したほうが簡単なのに手加減して生かしておいてくれたのだ。だというのに、全力で殺しにかかるというのはさすがのエクレールも気が引けてしまう。
一瞬の逡巡。
その隙にクロは身を翻し、扉の奥へと消えていく。
エクレールは自らの決断力のなさに苛立ちながらも、すぐに緊急連絡用の送言の魔晶石を起動させ、あとを追う。
「教皇! フルールを含む偵察部隊と姫さんは地下宝物庫で気絶中だ! ゼルランディスは確認してない。あたしは一緒に侵入した魔族を追う。あとは任せた!」
走りながらも言葉を吹き込み、魔晶石を砕く。
念のためにと持たされた連絡用の魔道具だったが、エクレールとしては使う羽目になるとは思っていなかった。ともあれ、これで連絡は届くだろう。ドボルゲイツからは事前に回収だけなら手はあると聞かされている。きっとあの三人を回収してくれるはずだ。
扉の先は暗がりのせいもあるが、すでにクロの姿は見えない。エクレールは持っていた明かり用の雷の球を投げると、そのあとを駆けていく。
まだ迷いはある。しかしここでクロを逃がした場合のことを考え、強引に迷いを切り捨てた。
クロをここで逃がせば当然敵としていつか戦うことになるだろう。そのときの相手が自分ならいい。問題は違った場合だ。味方の誰かがクロと戦うことになる。勝てるとは思えなかった。バルドレッドだとしても厳しいだろう。むしろ相性の悪さから戦いとして成立するかも怪しいところだ。だからこそエクレールは決断した。ここでクロを倒すということを。
地下の道はは分岐点などは見当たらなかった。エクレールはまっすぐな道を全力疾走している。けれども一向に追いつく気配はない。クロが本当にこの道を進んでいるのか疑いたくなるほど、姿やその足音すら確認できなかった。
走る。
どれだけ走ったかはわからない。少なくとも城の範囲は出ているはずだ。もしかしたら街すら出ているかもしれない。
ただひたすら走り続ける。
エクレールの足は速い。魔法を使ってなくてもだ。体力もあるほうだろう。しかし、さすがのエクレールも息が上がり、疲れてきていた。
長い長い時間を走り続け、道の先に光が見えてくる。エクレールは直感的にその光が出口だと悟った。終わりが見えたことで、力を振り絞って速度を上げていく。
地上に出ると、そこは城でも街でもない場所だった。いつの間にか朝になっており、日の光がエクレールの目に染みる。
出口は森の中だった。ただし、すぐ目の前には荒野が広がっている。荒野にはずっと見えなかったクロの姿があり、そのすぐ傍には見知らぬ男が倒れていた。
「ようやく追いついたぞ! で、そいつは誰だ? 聞きたいことはいろいろあるんだ。再開するなり疑問を増やさないてほしいんだがな」
「……なぜ来た?」
「あんたが強いからだよ。クロ、あんたが魔族なら、いつかあたしたちの誰かと戦うことになるだろう? あんたは悪い奴じゃない。でも戦いになったら殺すのも躊躇しないはずだ。誰かが殺される可能性があるなら、その前にあたしがあんたを倒しとかないと安心して眠れもしないだろ?」
「悪いが、持ち帰るものが増えてな。戦うならすぐに終わらせるぞ?」
「上等だ! やれるもんなら――なんだ!?」
突如、エクレールのすぐ横の空間が歪みはじめ、慌てて距離をとる。クロのほうには動きはない。ただ、よく見れば苦汁を嘗めたような表情をしている。この歪みの正体を知っているのかも知れない。
歪みは渦のようになり、異質な空間が出来上がる。渦になると同時に、露草色に輝く杖らしき先端が見え、続けて手が現れた。時間をおかずに顔も出てくると、その正体が判明する。
「教皇?!」
「ほっほっほ。間に合ったようじゃな?」
歪み、渦となった空間から出てきたのは聖カルミナ教会の教皇、ドボルゲイツ・レーベリンその人であった。
偽心臓の魔力は百年以上に渡り貯めこまれたものであり、その爆発の威力はブルームトの国を滅ぼして余りあるものがある。
偽心臓を握っていたクロはもちろん、二人の襲撃者、そしてこの国の姫であるポーラもただでは済まない位置にいた。しかし、爆発はいまだ届いていない。爆発は止まっているのかと見間違うほどにゆっくりと広がっている最中だった。
クロは偽心臓に魔法を使いながら、懐から箱状の魔道具を取り出す。そして激しく発光している偽心臓をその箱の中に入れると宙へと放り投げる。
次にクロはすぐさま転がっている三人を抱え、部屋の隅に移動すると新たに魔法を発動させた。使用したのはシールド系の魔法であり、その数は十三。箱の全面を二重で囲み、残りの一枚は自らの前に配置している。
箱が膨張し、軽い音とともに弾け飛ぶ。
爆発は止まっていない。いまだにゆっくりと広がっている。
奇妙なほど遅い爆発はクロが囲んだ二重のシールド、その内側に到達した。シールドは爆発を抑え込む。ただシールドの中で充満したエネルギーは大きく、すぐにひび割れを起こす。そして微かな時間で内側のシールドは壊れてしまった。
二重に展開された外側のシールドも爆発を抑え込んでいく。今度は先ほどより長く持ち、抑え込みに成功したかに思われた。だがしかし、小さなひびが入ってしまう。ほどなくしてシールドは壊れ、二重だったシールドはその二つとも消失するのであった。
シールドが無くなり、爆発は一気に本来の速度に戻る。
閃光が奔り、轟音が響く。衝撃と爆炎が今度こそクロたちに襲い掛かった。
クロの前面に展開されたシールドは爆発の衝撃でひびが入る。シールドがあるというのにローブは損傷し、大きくはためいていた。
ひびを確認したクロはすぐに展開しているシールドへ追加で魔法をかける。その直後、広がりをみせていたひびはピタリと止まり、それ以降はひびが広がるようすは見られない。
ドルミールの偽心臓の爆発。本来なら国ごと吹き飛ばしていた爆発を、城が大きく揺れる程度に抑え込んだのはクロの魔法だ。
クロは爆発、そしてその衝撃の速度を減速して時間を稼ぐと、強力な魔道具とシールド魔法でその威力を殺したのである。
全滅の危機を乗りこたところで、クロは再び紫の光を放つ魔法を作成した。狙いはポーラだ。二人の襲撃者の洗脳を解いたが、ポーラは解かれていない。ただ気絶しているだけである。そのため、クロはポーラの洗脳を解こうとしていた。
わざわざ洗脳を解くのはクロが長居する気がないためだ。三人をこの場に置いていくつもりであり、介抱も現状の説明する気もなかった。そのうえで権力者なら何とか場を治めるだろうとの判断し、ポーラの洗脳を解くことにしたのである。
クロは魔法はポーラに命中し、その体を微かに輝かせていく。そのようすを横目で見ながらも、クロの意識はドルミールの偽心臓に注がれていた。
爆発し、その力を解放してしまったドルミールの偽心臓は、大きくひび割れ床に転がっている。クロは偽心臓を回収し、一通り観察すると大きく息を吐いた。
「……魔力は少しは残ったか。しかし、これは直るのか?」
思わず口から疑問が出ると、かぶりを振って偽心臓を懐へとしまう。
結果としては散々だったが、この地での目的は一応果たした。あとは脱出するだけだが、正面から出るか、ゼルランディスのあとを追うかで少し悩む。
さすがに騒ぎを起こしたという自覚がある。城の兵士はこちらに向かって来るだろう。もしらしたら城壁周りにも住民が集まっているかもしれない。それを考えると多少面倒でもゼルランディスのあとを追う方が楽だと考える。
ゼルランディスを追う。その決断をしたとき、勢いよく扉が開いた。
開いた扉はゼルランディスが逃げて行ったほうではない。この部屋に入る正規の入り口だと思われる扉だ。そして、その扉を開けた人物に、クロは見覚えがあるのであった
「クロ!? 何があったんだ!」
エクレールが扉を開け、目にした光景はクロと倒れ込んでいる三人の男女だった。そのうち一人は見覚えがある。この国の姫であるポーラだ。あとの二人は初めて見る顔だが、二人ともよく知る服装、装備をしており、偵察部隊の人間だとわかる。
明かり代わりの雷の球を片手にエクレールは倒れた三人へと近寄っていく。
三人とも息がある。フルールだと思われる女性も気絶こそしているものの、目立った怪我は見られない。どうやらクロは手加減してくれたようだ。
礼を言うために顔を向けると、クロは奥の扉へと歩き出していた。先の質問にも答えるようすは見られず、完全に無視された形だ。その振る舞いに、ふと城壁へと投げられたこと思い出し、走り寄って強引に肩を掴む。
「待て待て、いきなり投げ飛ばして今度は無視か? せめて一言ぐらいは――」
肩を掴み、無理やり振り向かせたところでエクレールは言葉を失った。
先ほどまでは気づいていなかったが、クロのローブはところどころちぎれ、その顔が見えるようになっていたのだ。エクレールはその顔を、正確には魔族しか持っていない赤い目を見て驚いていた。
「……クロ、おまえは……魔族だったんだな?」
「ああ、そうだ」
「そうか……でも、クロが悪い奴じゃないのは分かってるつもりだ。そこの三人も生きている。手加減してくれたんだろう? 悪いようにはしない。あたしが保証する。だから、大人しく捕まってくれないか?」
「断る」
分かってはいた。クロのなら断る。それは分かってはいたのだが、断ってほしくなかった。
クロがどこかにひっそりと隠れ住んでいる魔族なら別に捕らえる必要はない。しかし、わざわざこんなところに単身で忍び込んでいるのだ。その強さといい、下手すれば魔族側の幹部という可能性すらある。
このまま逃がすことはできない。そう思いながらも、エクレールは内心ため息をつきたい気持ちでいっぱいであった。
「俺と戦う気か? おまえなら、それが無駄なことぐらいわかるだろう?」
そうなのだ。エクレールにも分かってはいる。正直、クロと戦っても勝ち目は薄い。もちろん負けるつもりはないが、勝つなら全力を出す必要がある。手加減などする余裕はないだろう。それでエクレールが勝てた場合、それはすなわちクロの死を意味することになる。
クロはこちらの頼みを聞いてくれた。敵なら殺したほうが簡単なのに手加減して生かしておいてくれたのだ。だというのに、全力で殺しにかかるというのはさすがのエクレールも気が引けてしまう。
一瞬の逡巡。
その隙にクロは身を翻し、扉の奥へと消えていく。
エクレールは自らの決断力のなさに苛立ちながらも、すぐに緊急連絡用の送言の魔晶石を起動させ、あとを追う。
「教皇! フルールを含む偵察部隊と姫さんは地下宝物庫で気絶中だ! ゼルランディスは確認してない。あたしは一緒に侵入した魔族を追う。あとは任せた!」
走りながらも言葉を吹き込み、魔晶石を砕く。
念のためにと持たされた連絡用の魔道具だったが、エクレールとしては使う羽目になるとは思っていなかった。ともあれ、これで連絡は届くだろう。ドボルゲイツからは事前に回収だけなら手はあると聞かされている。きっとあの三人を回収してくれるはずだ。
扉の先は暗がりのせいもあるが、すでにクロの姿は見えない。エクレールは持っていた明かり用の雷の球を投げると、そのあとを駆けていく。
まだ迷いはある。しかしここでクロを逃がした場合のことを考え、強引に迷いを切り捨てた。
クロをここで逃がせば当然敵としていつか戦うことになるだろう。そのときの相手が自分ならいい。問題は違った場合だ。味方の誰かがクロと戦うことになる。勝てるとは思えなかった。バルドレッドだとしても厳しいだろう。むしろ相性の悪さから戦いとして成立するかも怪しいところだ。だからこそエクレールは決断した。ここでクロを倒すということを。
地下の道はは分岐点などは見当たらなかった。エクレールはまっすぐな道を全力疾走している。けれども一向に追いつく気配はない。クロが本当にこの道を進んでいるのか疑いたくなるほど、姿やその足音すら確認できなかった。
走る。
どれだけ走ったかはわからない。少なくとも城の範囲は出ているはずだ。もしかしたら街すら出ているかもしれない。
ただひたすら走り続ける。
エクレールの足は速い。魔法を使ってなくてもだ。体力もあるほうだろう。しかし、さすがのエクレールも息が上がり、疲れてきていた。
長い長い時間を走り続け、道の先に光が見えてくる。エクレールは直感的にその光が出口だと悟った。終わりが見えたことで、力を振り絞って速度を上げていく。
地上に出ると、そこは城でも街でもない場所だった。いつの間にか朝になっており、日の光がエクレールの目に染みる。
出口は森の中だった。ただし、すぐ目の前には荒野が広がっている。荒野にはずっと見えなかったクロの姿があり、そのすぐ傍には見知らぬ男が倒れていた。
「ようやく追いついたぞ! で、そいつは誰だ? 聞きたいことはいろいろあるんだ。再開するなり疑問を増やさないてほしいんだがな」
「……なぜ来た?」
「あんたが強いからだよ。クロ、あんたが魔族なら、いつかあたしたちの誰かと戦うことになるだろう? あんたは悪い奴じゃない。でも戦いになったら殺すのも躊躇しないはずだ。誰かが殺される可能性があるなら、その前にあたしがあんたを倒しとかないと安心して眠れもしないだろ?」
「悪いが、持ち帰るものが増えてな。戦うならすぐに終わらせるぞ?」
「上等だ! やれるもんなら――なんだ!?」
突如、エクレールのすぐ横の空間が歪みはじめ、慌てて距離をとる。クロのほうには動きはない。ただ、よく見れば苦汁を嘗めたような表情をしている。この歪みの正体を知っているのかも知れない。
歪みは渦のようになり、異質な空間が出来上がる。渦になると同時に、露草色に輝く杖らしき先端が見え、続けて手が現れた。時間をおかずに顔も出てくると、その正体が判明する。
「教皇?!」
「ほっほっほ。間に合ったようじゃな?」
歪み、渦となった空間から出てきたのは聖カルミナ教会の教皇、ドボルゲイツ・レーベリンその人であった。
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