『性』を取り戻せ!

あかのゆりこ

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本編

12)ちっちゃいグレンは可愛くて、宰相なグレンは真面目です

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「こう……こうか?」

 分身魔法の仕組みを聞いたグレンは、早速魔法を試していた。魔力の塊を人間の形に整形し、自らの意思の一部をコピーして移植する……という、言葉にすれば短くとも、その具体的な理論があまりに高度すぎる無茶苦茶な魔法だ。

 そもそも、普通の人間は魔力の塊、というものを作れないし、自らの意思を具体的に物として扱う事もできない。人間とは全ての作りが異なる悪魔だからこそ、容易にできる魔法なのだ。……そのはず、なのだ。

「なんでお前はできちゃうかねえ」

 ドーヴィは思わず天を仰いでいた。またしても人間の文明の枠を超えたオーバーテクノロジーを伝授してしまったかもしれない。おかしい、ほんの少し仕組みを説明しただけで、人間にできるはずがなかったのに。雑談のつもりだったのに。

 グレンの手のひらには小さい小さいグレンが出来上がっていた。もちろん、どこかぼんやりとした輪郭で、どう見ても生き物とは思えないが。

「できた!! どうだドーヴィ!」
「お前が天才すぎて俺は本当に将来が恐ろしいよ」

 手のひらに乗せた小さなグレンを差し出されて、ドーヴィは唸った。確かに悪魔が扱う分身魔法に比べれば、稚拙すぎて実用性もないだろう。だが、人間という生き物の枠で、ここまで上手く分身体を作れるのは天才と言わざるを得なかった。ドーヴィは具体的な方法を教えたわけでもなく、おおまかな仕組みを雑談程度に話しただけだというのに。

 ドーヴィはそうっと指を差し出し、小さなグレンを突いた。途端、小さなグレンはこてんと尻もちを着く。指先に確かな感触があったことから、幻影の類ではなく確実に質量を持った存在という事がわかった。

 座り込んだ小さなグレンは片目をぱちぱちと瞬かせ、それから上へ顔を向けた。ドーヴィの顔をまじまじと見ている。そして両手をあげて、にこっと笑顔を浮かべた。

「お、おお? なんだ?」
「どーゔぃ、すき! だいすき!」

 小さな小さな手のひらサイズのグレンから、熱烈な告白。ドーヴィは目を丸くし、グレンは一瞬身を固めた。

「わ、わーーっ! 何言ってるんだお前!」

 顔を真っ赤にしたグレンが、慌てて自らの分身体を捕まえようとした瞬間、小さなグレンはフッとその姿を消した。魔法を行使した主である大きなグレンが動揺したことで、魔力操作が揺らいでしまったらしい。

「……なんというかあれだな、俺の契約主が本当に可愛すぎて困るな」
「なっ、何を言ってるんだドーヴィ! べっ、べっ、別に、僕がドーヴィのこと大好きなのはもう知ってるだろ!」
「グレン、落ち着け。お前どさくさに紛れて余計なこと口走ってるぞ」
「あっ!!!!!」

 言葉の後半について指摘されたグレンは、これでもかと顔を赤く染め上げて、ドーヴィの膝から降りると毛布を頭から被った。本人は隠れているつもりらしい。

 悪魔のドーヴィほど正確に分身体へ自らの意思をコピーしきれず、グレン本人の本能部分とも言える中核のみがコピーされてしまったようだ。その結果が、あのストレートな告白。魔力酔いしている時や、理性を失って本能だけで動いていたあの時のグレンそのものだった。

「なんだよ、俺はいつだって愛の告白大歓迎だぜ?」
「それとこれは話が違う!」

 こんもりと出来上がった毛布の小山からくぐもった声が響く。言うつもりがないタイミングで勝手に想いが暴露されてしまったことが恥ずかしくて仕方がないようだ。年頃の青少年はなかなか素直になれないらしい。

 ドーヴィは喉奥で笑いながら、頭があるらしい丸みを帯びた部分をぽんぽんと叩いた。

「グレン、俺もお前のこと大好きだぞー」
「っ! ……ド、ドーヴィのばかっ!!」
「はっはっは、照れんなよ本当の事なんだから」
「だからそういう問題じゃないって言ってるだろ!」

 ベッドの上でぷるぷる震えている毛布の小山のなんと可愛らしいことか。気に入った契約者にはどこまでも愛を捧げるドーヴィだが、こんなにも可愛い生き物は初めて見る。自分にもそういった感性があったことに改めて驚くドーヴィだ。

「……っと、アンドリューが戻ってきたみたいだぞ」

 同じフロアに入ってきた生命反応を検知し、魔力の波長からアンドリューだと判定したドーヴィは腰を上げた。可愛いグレンをいつまでも可愛がっていたいが、その姿は誰にも見せたくない。

 荷解きを済ませ、コートハンガーに掛けてあった室内用のジャケットを手にしてドーヴィはベッドへと戻ってきた。籠城を終えて毛布から顔を出したグレンがベッド端に座っている。

 頭まで毛布を被ったせいでぼさぼさになった髪をとかして整えてやり、ジャケットを着せて乱れていた服装をきっちり直す。そして今まで視察の内容について相談していました、と言わんばかりに書類を持たせて室内のテーブルに着席させれば、あっという間にクランストン宰相の出来上がりだ。

 同時に、部屋の扉がノックされる。アンドリューの声を聞き、ドーヴィが扉を開けて室内へと招き入れた。

「ご苦労だった」

 そう労うグレンの姿は、すっかり仕事モードだ。その言葉に一礼をしてから、アンドリューはグレンの向かい側へと座る。

「タバフ男爵との面会はどうだ?」
「無事に話はまとまりました。閣下が従来の上位貴族とは違う事、重い罰を与えるつもりはない事、どちらも理解して頂けました」
「そうか……それは良かった」
「今は落ち着いて、ご家族と使用人へ説明なさっているかと思います」

 うむ、とグレンはアンドリューの言葉に満足気に頷いた。アンドリューとグレン用のお茶を用意していたドーヴィもやれやれ、と心の中で嘆息する。

「……聞けば、やはり前公爵は訪問の度にタバフ男爵へ過度なもてなしを要求していたようで。詳細は明日、我々の班が調べますが、それなりの補償が必要になってきそうです」

 アンドリューはタバフ男爵から聞いた前公爵の横暴を最大限オブラートに包んでグレンへと伝えた。とてもではないが、変態ジジイの悪趣味をこのクランストン宰相閣下の耳には入れたくない。

 ……グレンも成人はしているのだが。成人はしているのだが、やはりサンタクロースを信じているような宰相閣下のピュアはまだまだ守られるべきだろう。グレン信者過激派のアンドリューはそう信じている。

 ちなみにドーヴィもアンドリューの考えには全面的に賛成だったりする。グレン信者過激派はグレンのことを何だと思っているのだろうか。

「なるほど……他の班から人員異動は必要になりそうか?」
「そうですね、できれば……」

 グレンは考えを巡らせた。明日の視察は、3つの班に分かれて実施する予定だ。

 前公爵含め上位貴族や王族の行いを確認するのがアンドリュー班の役割。タバフ男爵が代官として悪事を働いていないか、また、男爵から子爵へ位を上げても問題ない人物か、代官ではなく領主としてアルチェロ王が任命して問題ないか……などのタバフ男爵について調べ上げるのがマリアンヌ班の仕事だ。

 そして、グレン班は文字通りにこの領地の視察を行う事になっている。困っている事はないか、土地の開墾はどうなっているか、商業発展の規模はどうなっているか、家畜や農業は問題なく行われているか、などなど。全体を見渡して必要であれば、国全体の発展を考えながら領地への予算を割り振る、非常に大切な仕事になっている。

 ……アルチェロとしてはグレンに休暇を、というつもりで命じた視察だが、グレンの真面目に真面目過ぎる性格のおかげでがっつりとした視察になってしまっていたりする。計画を聞いたアルチェロがわざわざドーヴィを呼び出して「グレン君には適度に息抜きさせてあげてね」とお願いするほどに真面目極まっていたりする。

 まあとにかく。そういうわけで、明日の視察は視察団全員ぎっしりと仕事がつまっているわけだ。

「その話からするとマリアンヌ班の調査にも影響が出そうだな……。とすれば、私の班から人を動かすか」
「ありがとうございます」

 アンドリューは深く頭を下げた。どこぞの前宰相であれば、このような配慮もなく「人手が足りなければお前がもっと働けば良いだろう愚か者め」と言うに違いなかった。そして本人は酒池肉林の豪遊だ、そんな宰相に忠誠を誓うやつがどこにいる。

「アンドリュー、人材の希望はあるか? 男爵家や使用人への聞き取りが多くなるだろうから、そういったコミュニケーションに明るい人間が良いのではないかと思うのだが……」

 それに比べてこの若き宰相閣下の何と素晴らしいことか! 自身が率先して仕事をするどころか部下の負担も考えて人員配置を検討し、さらに適材適所を真っ先に考えてくれる。

(クランストン宰相閣下最高です!!!! 一生ついていきます!!!!)

 アンドリューは改めてそう思った。なぜか後ろでドーヴィが腕組みをしてうんうん、と頷いている。

 そうしてアンドリューとグレンが明日の班の再編成を検討しているところにマリアンヌも戻ってくる。マリアンヌからの報告を受け、そこから三人で明日の最終確認を進めた。

「お話し中失礼します。閣下、そろそろ晩餐の準備を……」

 黙って三人を見守っていたドーヴィが声を掛けた。すっかり視察スケジュールの調整に夢中になっていたグレンはハッ! と顔を上げる。

「そうか、もうそんな時間か。すまないが細部はそれぞれで詰めて貰えるか。就寝前に時間を作るから、その時に確認させてくれ」
「わかりました。それまでに調整しておきます」
「すまんな」

 アンドリューとマリアンヌは新しい人員配置のメモとスケジュールメモを片手に退室して行った。

「……よし、さっと着替えるぞ。ドーヴィ頼む」

 政務官の二人と違い、グレンは貴族としての晩餐に臨まなければならない。故に、魔術師としての服ではなく、貴族として、辺境伯当主としての正装に着替えなければならなかった。

 宰相に就任した際に新しく誂えた、華美な服に手足を通す。今やアルチェロ王の次に偉い立場にあるグレンが着用する正装は、王族と並び立っても遜色がないほどに美しく仕上がっていた。

 ……が、当のグレン本人はやはりこういった正装に良い思い出がないために渋い顔をしている。辺境にいた頃は常に魔術師としてのラフな格好にローブを羽織っただけで済んでいたのだが……宰相になってからは、正装を着用する機会も大幅に増えた。

「そんな不味い顔すんなって。よく似合ってるぞ」
「わかってる。だが、どうも息苦しくて……」

 きっちり閉められた襟元を気にしながらグレンはため息を吐く。

「晩餐が終わればゆっくりできるだろ。……俺も姿を隠して晩餐室には潜り込んでやるから」

 ぐるりとグレンの全身を見渡して完璧な仕上がりを確認したドーヴィはすっかり顔を曇らせている宰相殿の頭を撫でた。普通ならばもてなされる側として喜びそうなものだが、例え位が下の貴族相手でも、やはり堅苦しい食事の場は嫌らしい。

「なんだかんだ言ってお前がちゃんと宰相やってんのもわかってる。自信持って行けよ」
「……うん」

 はぁーと大きなため息をついたグレンは、自身の頬を何度かむにむにと揉んだ後に顔を上げた。

 そこへタイミングよく、ノックの音が響く。使用人がグレンを呼びに来たようだ。ドーヴィは扉を開けて、使用人と一言二言交わしている。

「……よし。ドーヴィもそばにいてくれるって言うんだ、頑張るぞ」

 そう小さく呟いたグレンは、背筋を伸ばして男爵家の使用人へと向き直った。


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手のひらサイズのグレンくん可愛いですね!
スケベ早く見たいですね!!
温泉でめっちゃイチャイチャエチエチして欲しいですね!!!!!!はよ!!!(無計画に書くから……
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