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第32話 即位記念晩餐会と舞踏会
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列は広場をぐるりと一周し、一度広場を離れて大通りに出ると、もう一度広場に戻り、パレードは終わる。
しばらくして広場へもう一度アダン様が戻って来た。やはり馬に跨る姿は王太子らしく気品があり、美しい。
「もう終わりそうですね、皆さん宮廷へ戻りましょう」
ハイダの号令でまだパレードは途中ではあるが、一足早くに宮廷へと戻る事になった。これは混雑を防ぐためである。
「はい、医薬師長」
「ジャスミンさん。宮廷についたらドレスルームへ」
「はい」
ハイダは私が今晩の舞踏会に出る事はアダン様から聞いて知っているはずなのでドレスルームへというのも、舞踏会への準備の事だろうと理解した。
とりあえず宮廷に戻った後は残っている仕事をさっくりと片付けて、昼食を軽く頂くとハイダと共にドレスルームへと向かった。
「こちらです」
医務室から遠く離れた場所にあるのがドレスルーム、木造りの重厚な扉を開くと、そこには大量のドレスがラックにかけられて並んでいた。
「うわ……」
あまりの量の多さに、私は思わず圧倒されてしまう。するとドレスルームの中にいた中年くらいの女性メイド2人が私の元へと現れ、頭を下げた。
「お化粧と髪型のセットは私共にお任せくださいませ」
「リクエストがあればお気軽に」
「わ、わかりました……」
(特にリクエストは無いかなあ)
ぐるっとドレスルームにあるドレスを見て、目に留まったのは真っ青なドレス。胸元が大きく開いたデザインで空のように青い色の布が美しい。白いレースも細やかで、腰にあるリボンにも細かいレースが付いている。
「じゃあ、ドレスはこれで」
「かしこまりました」
早速ドレスに着替え、化粧と髪型を整えていく。ドレスのサイズはぴったりで、少しだけ余裕があるのは個人的にとても助かる。ハイダも手伝ってくれながら、化粧と髪型のセットが終わった。
「似合っていますよ、ジャスミンさん」
「医薬師長、ありがとうございます」
鏡に映る私の顔。特に目元部分は過去最高に派手にしてもらった。これくらい派手ならすぐにジャスミンだとはバレなさそうだ。
この上から更に仮面をつける。すると自分で言うのもなんだが、妖しい雰囲気が更に増した。
(これなら、いけそうだ)
この姿を見た両親とジュナ、ジョージがはたしてどんな反応をするだろうか、少しだけ気になったが、胸の奥にしまっておく事にする。
その後ドレスルームにて夕食、晩餐会で出された食事の一部をメイドとハイダらと共にこっそりと頂き、ついに舞踏会が行われる場所へと足を運ぶ。
「ジャスミンさん、お気をつけて」
「行ってきます、医薬師長」
舞踏会の会場の手前まで同行してくれたハイダから見送られ、メイド1人と共に扉を開けて会場に入った。
会場の中はまるできらびやかな黄金の光で覆われているかのように、明るくて華やかな空間となっている。
「来たね」
メイドがアダン様を呼びに行き、アダン様がこちらへとやってくる。私は無言のまま、ドレスの裾を持ち上げて令嬢らしく礼をした。
「綺麗だ」
「……こくり」
(声は出さないでおこう)
アダン様が一度私の方から離れ、ホールの中央付近に移動した。オーケストラの演奏が一瞬で切り替わる。いよいよダンスが始まるという訳か。会場には多くの貴族達が華やかな衣装を身にまとい、歓談したり辺りを眺めていたりしている。その中には両親とジュナ、ジョージ様もいた。
(気づいていない)
当然ながら4人とも、私の存在には気が付いていないようだ。すると早速ジュナがアダン様の元へと近づく。一緒に踊ろうと誘っているのだろう。ジョージもジュナについていく。
「王太子殿下。ジュナ・ヨージスと申します。どうか一緒に踊ってくださいませんか」
「すまないが、お断りしたい。君には伴侶がいるそうだし、彼と踊ってくれたまえ」
速攻で断られたジュナ。だが、ジュナも引き下がらない。目と眉ををきっと吊り上げてアダン様へ食らいつくようにして話しかける。
「お願いします! 私、一度だけでもいいですから王太子殿下と踊ってみたいんです!」
「……」
アダン様はジュナを無視している。そんなジュナをジョージはじっと見ているだけで何もしない。するとアダン様は私へと手招きをした。
「踊ろう、アンゼリカ」
アンゼリカは、私の偽名。アダン様の右手を無言で頷きながら、手に取った。
「何よ、その女!」
ジュナがそう不服そうに叫んだ瞬間、ホールにいた貴族の令嬢が、全員こちらに刃のごとく殺気溢れた目線を向けてきた。貴族の男達も興味ありげに目線を向ける。
(殺されそう)
「王太子殿下、その女は誰です?」
「聞こえなかったかい? アンゼリカだよ」
「どこの貴族の女です? だらしない身体に仮面をつけるなんて、きっと不細工な令嬢なのでしょうね?」
ジュナ以外にも貴族の令嬢が次々にこちらへとやって来て、私の容姿に対する悪口をまるで石でも投げつけるかのように、かけて来る。
すると、アダン様がにこやかな笑みを浮かべて口を開いた。
「ああ、いいだろうアンゼリカの身体。こういうだらしない身体に大きな胸を持つ女が俺は大好きでね」
「なっ……!」
「くびれのある女も華奢な女も好きだが、やっぱりこういったアンゼリカのような妖しい魅力のある肉付きの女の方がむしろ健康的でよいと思うんだ。元気な子も産んでくれて長生きしそうだし。揉みがいに抱きがいがある!」
己の趣味もとい性癖を高らかに大きな声で自慢するアダン様。その淫猥な内容も含む言葉を隠す事無くおおっぴらげに放つその様子に、貴族の令嬢達はもはやドン引きしていたのだった。
逆に貴族の男達は、確かにそうだ。とか言いながら私の身体に目線を向ける。
私の両親はつまらなさそうな視線を、ジョージは私の身体に興味があるかのような視線をそれぞれ向けている。
「王太子殿下の趣味があんな感じだったなんて……」
「も、揉みがいに抱きがいって! なんて破廉恥な……」
「私ももっと太った方がいいのかしら……」
そうひそひそと語りながら、貴族令嬢はホールから出ていった。ジュナも顔を真っ赤にさせながら、その場から歩き出した。
「行くわよ、ジョージ様」
「ま、待ってくれジュナ!」
「つまらない! 帰る!」
ジョージはこちらへ向き、なんだか申し訳なさそうに礼をした。
「君の奥方は大変だねえ。あんなに怒らせるつもりはなかったのだけど」
「王太子殿下、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませぬ。ああ、こうなるならジャスミンと婚約破棄しなければよかった……!」
そう後悔するジョージだが、こちらとしてはそんなもの願い下げである。一瞬そんなジョージと目があったが、私はすぐに目線をジョージから床に逸らした。
(いや、こっちだって無理)
結局両親もジュナとジョージと共にそそくさとホールから出ていったのだった。アダン様が近づき、私の隣に立つ。
「良かったね、邪魔者はいなくなった」
「そ、そうですね……」
「ちなみにさっきの話、全部ほんとだから」
そう小声で左耳元でつぶやかれると、私の顔は恥ずかしさの余り一瞬で真っ赤になる。
(アダン様……!)
「さあ、踊ろう」
「はい」
アダン様の手を取って、ダンスが始まる。踊るのは久しぶりなのでちょっと自信がないが、アダン様が優しく時折小声で話しかけてくれながらエスコートしてくれる。
「上手だね」
「きつく仕込まれてきたもので。最近踊ってなかったので自信ないですが」
「いや、そんなの感じないくらい上手だ」
オーケストラの重厚感溢れる音楽に乗せてかろやかにステップとターンを刻む。ターンした時、少しだけ自分の身体全体が軽くなったような気分になった。
(身体が軽い)
オーケストラの演奏が終わり、ダンスが終わる。私はアダン様へドレスの裾を持って深く礼をした。
「送っていくよ」
「えっ、いいんですか?」
「宮廷に入れば貴族達は中には入れない。そこまでは送っていく。何かあったら困るから」
「あ、ありがとうございます」
しばらくして広場へもう一度アダン様が戻って来た。やはり馬に跨る姿は王太子らしく気品があり、美しい。
「もう終わりそうですね、皆さん宮廷へ戻りましょう」
ハイダの号令でまだパレードは途中ではあるが、一足早くに宮廷へと戻る事になった。これは混雑を防ぐためである。
「はい、医薬師長」
「ジャスミンさん。宮廷についたらドレスルームへ」
「はい」
ハイダは私が今晩の舞踏会に出る事はアダン様から聞いて知っているはずなのでドレスルームへというのも、舞踏会への準備の事だろうと理解した。
とりあえず宮廷に戻った後は残っている仕事をさっくりと片付けて、昼食を軽く頂くとハイダと共にドレスルームへと向かった。
「こちらです」
医務室から遠く離れた場所にあるのがドレスルーム、木造りの重厚な扉を開くと、そこには大量のドレスがラックにかけられて並んでいた。
「うわ……」
あまりの量の多さに、私は思わず圧倒されてしまう。するとドレスルームの中にいた中年くらいの女性メイド2人が私の元へと現れ、頭を下げた。
「お化粧と髪型のセットは私共にお任せくださいませ」
「リクエストがあればお気軽に」
「わ、わかりました……」
(特にリクエストは無いかなあ)
ぐるっとドレスルームにあるドレスを見て、目に留まったのは真っ青なドレス。胸元が大きく開いたデザインで空のように青い色の布が美しい。白いレースも細やかで、腰にあるリボンにも細かいレースが付いている。
「じゃあ、ドレスはこれで」
「かしこまりました」
早速ドレスに着替え、化粧と髪型を整えていく。ドレスのサイズはぴったりで、少しだけ余裕があるのは個人的にとても助かる。ハイダも手伝ってくれながら、化粧と髪型のセットが終わった。
「似合っていますよ、ジャスミンさん」
「医薬師長、ありがとうございます」
鏡に映る私の顔。特に目元部分は過去最高に派手にしてもらった。これくらい派手ならすぐにジャスミンだとはバレなさそうだ。
この上から更に仮面をつける。すると自分で言うのもなんだが、妖しい雰囲気が更に増した。
(これなら、いけそうだ)
この姿を見た両親とジュナ、ジョージがはたしてどんな反応をするだろうか、少しだけ気になったが、胸の奥にしまっておく事にする。
その後ドレスルームにて夕食、晩餐会で出された食事の一部をメイドとハイダらと共にこっそりと頂き、ついに舞踏会が行われる場所へと足を運ぶ。
「ジャスミンさん、お気をつけて」
「行ってきます、医薬師長」
舞踏会の会場の手前まで同行してくれたハイダから見送られ、メイド1人と共に扉を開けて会場に入った。
会場の中はまるできらびやかな黄金の光で覆われているかのように、明るくて華やかな空間となっている。
「来たね」
メイドがアダン様を呼びに行き、アダン様がこちらへとやってくる。私は無言のまま、ドレスの裾を持ち上げて令嬢らしく礼をした。
「綺麗だ」
「……こくり」
(声は出さないでおこう)
アダン様が一度私の方から離れ、ホールの中央付近に移動した。オーケストラの演奏が一瞬で切り替わる。いよいよダンスが始まるという訳か。会場には多くの貴族達が華やかな衣装を身にまとい、歓談したり辺りを眺めていたりしている。その中には両親とジュナ、ジョージ様もいた。
(気づいていない)
当然ながら4人とも、私の存在には気が付いていないようだ。すると早速ジュナがアダン様の元へと近づく。一緒に踊ろうと誘っているのだろう。ジョージもジュナについていく。
「王太子殿下。ジュナ・ヨージスと申します。どうか一緒に踊ってくださいませんか」
「すまないが、お断りしたい。君には伴侶がいるそうだし、彼と踊ってくれたまえ」
速攻で断られたジュナ。だが、ジュナも引き下がらない。目と眉ををきっと吊り上げてアダン様へ食らいつくようにして話しかける。
「お願いします! 私、一度だけでもいいですから王太子殿下と踊ってみたいんです!」
「……」
アダン様はジュナを無視している。そんなジュナをジョージはじっと見ているだけで何もしない。するとアダン様は私へと手招きをした。
「踊ろう、アンゼリカ」
アンゼリカは、私の偽名。アダン様の右手を無言で頷きながら、手に取った。
「何よ、その女!」
ジュナがそう不服そうに叫んだ瞬間、ホールにいた貴族の令嬢が、全員こちらに刃のごとく殺気溢れた目線を向けてきた。貴族の男達も興味ありげに目線を向ける。
(殺されそう)
「王太子殿下、その女は誰です?」
「聞こえなかったかい? アンゼリカだよ」
「どこの貴族の女です? だらしない身体に仮面をつけるなんて、きっと不細工な令嬢なのでしょうね?」
ジュナ以外にも貴族の令嬢が次々にこちらへとやって来て、私の容姿に対する悪口をまるで石でも投げつけるかのように、かけて来る。
すると、アダン様がにこやかな笑みを浮かべて口を開いた。
「ああ、いいだろうアンゼリカの身体。こういうだらしない身体に大きな胸を持つ女が俺は大好きでね」
「なっ……!」
「くびれのある女も華奢な女も好きだが、やっぱりこういったアンゼリカのような妖しい魅力のある肉付きの女の方がむしろ健康的でよいと思うんだ。元気な子も産んでくれて長生きしそうだし。揉みがいに抱きがいがある!」
己の趣味もとい性癖を高らかに大きな声で自慢するアダン様。その淫猥な内容も含む言葉を隠す事無くおおっぴらげに放つその様子に、貴族の令嬢達はもはやドン引きしていたのだった。
逆に貴族の男達は、確かにそうだ。とか言いながら私の身体に目線を向ける。
私の両親はつまらなさそうな視線を、ジョージは私の身体に興味があるかのような視線をそれぞれ向けている。
「王太子殿下の趣味があんな感じだったなんて……」
「も、揉みがいに抱きがいって! なんて破廉恥な……」
「私ももっと太った方がいいのかしら……」
そうひそひそと語りながら、貴族令嬢はホールから出ていった。ジュナも顔を真っ赤にさせながら、その場から歩き出した。
「行くわよ、ジョージ様」
「ま、待ってくれジュナ!」
「つまらない! 帰る!」
ジョージはこちらへ向き、なんだか申し訳なさそうに礼をした。
「君の奥方は大変だねえ。あんなに怒らせるつもりはなかったのだけど」
「王太子殿下、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませぬ。ああ、こうなるならジャスミンと婚約破棄しなければよかった……!」
そう後悔するジョージだが、こちらとしてはそんなもの願い下げである。一瞬そんなジョージと目があったが、私はすぐに目線をジョージから床に逸らした。
(いや、こっちだって無理)
結局両親もジュナとジョージと共にそそくさとホールから出ていったのだった。アダン様が近づき、私の隣に立つ。
「良かったね、邪魔者はいなくなった」
「そ、そうですね……」
「ちなみにさっきの話、全部ほんとだから」
そう小声で左耳元でつぶやかれると、私の顔は恥ずかしさの余り一瞬で真っ赤になる。
(アダン様……!)
「さあ、踊ろう」
「はい」
アダン様の手を取って、ダンスが始まる。踊るのは久しぶりなのでちょっと自信がないが、アダン様が優しく時折小声で話しかけてくれながらエスコートしてくれる。
「上手だね」
「きつく仕込まれてきたもので。最近踊ってなかったので自信ないですが」
「いや、そんなの感じないくらい上手だ」
オーケストラの重厚感溢れる音楽に乗せてかろやかにステップとターンを刻む。ターンした時、少しだけ自分の身体全体が軽くなったような気分になった。
(身体が軽い)
オーケストラの演奏が終わり、ダンスが終わる。私はアダン様へドレスの裾を持って深く礼をした。
「送っていくよ」
「えっ、いいんですか?」
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