婚約者を妹に奪われ、家出して薬師になった令嬢は王太子から溺愛される。

二位関りをん

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第64話 到着と潜入※

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 ジュナの遺体に顔を合わせてから数時間後。夕方前に隣国の宮廷に到着する事が出来た。到着するや否やエレーナ姫が出迎えアダン様に飛びかかるようにして、歓迎する。

「お待ちしておりましたわーー!」
「え、エレーナ姫……」
「王太子殿下! どうぞごゆっくり!」

 本来は宮廷に泊まる予定だったが、宮廷近くの公爵家が所有する屋敷にて泊まる事が決まった。これはアダン様の提案によるものだ。

「だって、また夜伽したいとか夜這いされたらかなわないもん」

 というアダン様の言葉だった。
 屋敷に到着し、荷物を部屋に置くと私はアダン様に呼ばれて彼の部屋に入る。

「今から、調査に入ろう。今日貴族同士の集まりがあるみたいだから変装して潜入してみるか」
「はい」 
「名前は俺がアレンで、ジャスミンがローザネアね」
「了解致しました」
 
 という事で私達は他国から来た子爵家夫婦として変装し潜入する事になった。私もアダン様もスパイ担当の従者もオールバックだったり髪を結ってみたりといつもとは違う髪型をしている。屋敷からは馬車は使わず歩いて宮廷のダンスホールに入る。そこには様々な国から到来した貴族達で溢れかえっていた。

(うわ、うわうわ……)

 と、心の中で驚いていると、アダン様が手を差し伸べエスコートをしてくれた。

「ローザネア、大丈夫かい?」
「は、はい。あなた」
「それにしても、沢山の人だね」

 ここで、アダン様はある貴族の男性達に向かって歩き出した。

「こんばんは」
「やあ、こんばんは!」

 アダン様が爽やかにかつ慎重に挨拶をすると、相手は陽気に挨拶を返してくれた。

「ねえ、質問があるんだけどいいかな?」
「なんだい?」
「この国の姫君はどのような方なんだ? 噂とか聞く?」
「良く噂を聞くのはエレーナ姫だな。色んな貴族と関係を持っているって聞いたぞ」
(やはり)
「貴族の名前は?」
「ライトマン公爵と、グレースバッケン伯爵は特に親しい仲らしいな」
「成る程。教えてくれてありがとう」
「いや、どういたしまして。他の貴族にも聞いてみたら?」
「ああ、そうするよ」

 すると、エレーナ姫が男性と共にダンスホールに入って来た。口を閉ざしたやや無愛想で硬い表情を浮かべている男性はがっしりとした筋骨隆々の長身で、若い男性だ。アダン様と同い年くらいか。

「あれがグレースバッケン伯爵よ」
「あの方と婚約すると聞いたら、隣国の王太子殿下と婚約だなんて」
「まあ、いいじゃない。グレースバッケン伯爵にアタックするチャンスが出来たのだから」

 ひそひそと、噂話があちらこちらから湧いてくるので、すかさず耳でキャッチして、聞き漏らさないようにする。
 それにしても、グレースバッケン伯爵は年に似合わぬ落ち着きを見せている。

(軍人みたいな見た目だけど、どうなのかな)
「えと、あなた、少々いいですか?」
「なんだい?」
「グレースバッケン伯爵ってどんな方だと……思います?」
「ぱっと見軍人ぽく見えるけど……君は?」
「私も同じ考えです」 

 すると、2人はこちらへと向かって歩いてくる。しかし目線は私達を捉えてはいない。

「あ」

 エレーナ姫とぶつかってしまった。すぐさま申し訳ないと謝罪するが、扇子を落として苛立った彼女に靴で小さく蹴られてしまう。

「どんくさい真似しないでくれる?」
「す、すみません……」

 すると、見兼ねたグレースバッケン伯爵が大丈夫かと問いかけて来た。

「大丈夫です」
「そうか、すまない」
「ちょっと! さっさと行くわよ!」

 エレーナ姫が口を尖らせ、グレースバッケン伯爵に苛立ちが収まらない声をかけた。2人は私達の近くにあった水の入ったグラスをそれぞれ持ち去り、ダンスホールから揃って出ていく。

「ジャスミン、追おう」

 そう小さく呟いたアダン様の声は低い。ああ、さっきのエレーナ姫の蹴りに対して怒っているなと思いつつ2人を追いかけていく。すると2人は人気の無い廊下を歩いて部屋に入っていった。

(入ったな)

 壁に耳を当てて、部屋の中の様子へ耳を凝らす。

「あら、こんばんは。先に来てたのね!」
「ライトマン公爵。こんばんは」
「ああ、先に来てゆっくりと過ごしていました。ああいう集まりは苦手なもので」
「いいんじゃない? さあ、ここでゆっくりしていきましょう?」

 部屋の中ではライトマン公爵が既に待機していたようだ。

「いましたね」
「そうだね」

 ライトマン公爵の声は、落ち着きがあり私達よりも幾分年上に感じる。その後、聞こえてくる会話音は少なくなった。

(なんだろう)

 すると徐々に、女性の喘ぎ声やミシミシ家具か何かが軋む音が聞こえて来た。

(やはり)

 アダン様と目を合わせる。この後どうするか、彼にアイコンタクトを取る。

「突撃しようか」
「……はい」
「もっと、声が大きくなったら……」
「そうですね」
「君はここにいて。従者を連れて来るから。すぐに戻る」

 そう言い残し、アダン様は速歩きで去っていった。その間もエレーナ姫の喘ぎ声にみしみしギシギシという音が聞こえてくる。

(激しいな……)

 すると複数の靴音がかつかつとやや荒々しく響いて来た。
 そこにはアダン様と、この国の国王……エレーナ姫の父親が歩いてきている。

「ここか」
「左様でございます」

 エレーナ姫の父親が勢いよく、部屋の扉を開いた。
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