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第55話 

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「じゃあ話すわね。あの子はね、元は伯爵家出身の子だったの。父親である伯爵は相当な女好きで彼女は伯爵とメイドの不義の子の1人だった訳」
「それで、どうなったんですか?」
「生まれてすぐに孤児院へと預けられたわ。ジュリーを産んだ際に母親は出血がひどくて死んでしまった。メイドに身寄りもなく、父親も育てられないと判断したみたいね。孤児院に預けられる時に父親からは養育費が一緒に支払われていたそう」

 ジュリーはまた、生まれつきかなり強力な魔力を持っていたそうだ。伯爵家は代々魔力が豊富な家系としても知られており、数多くの神父やシスターと言った聖職関係の職種に就いた者達を輩出している事でも有名だった、しかしジュリーの母親は庶民の出で魔力はゼロと言ってもいい状態。ジュリーを産むには魔力の差があまりにもありすぎて母体が耐えられなかったというのもあるかもしれないとクララ様は語る。

「孤児院で育ったジュリーはその後、サーカス団に入って様々な国々を周っていたみたい。魔術の勉強もそこで習ったと聞いたわ。昼はサーカス団の一員としてショーを披露し、夜は男達を相手したり、殺し屋的な事もやっていたと本人からは聞いてるわね」
「殺し屋だったんですか?」
「……世直しをモットーに悪人を殺す。サーカス団は表の顔で実際は暗殺者集団だったそうよ。魔法薬にやけに詳しいのはそこから来てる」
「で、どうやっておばあさまの元へ?」
「サーカス団が解散したから。もっと言うとロイナ国での活動中に向こうの国王に暗殺者集団である事がバレてしまったの。ジュリーは何とか命からがらロイナ国を脱出し、私の元へと身を寄せた。グランバスの大魔女相手なら向こうもそうやすやすとは相手してこれないだろうっていう考えだったそうよ」
「それでクララ様の元へ……」

 クララ様の別荘へ訪れたジュリーの身体はぼろぼろの状態だった。クララ様は彼女を保護し、手厚く看病しもてなしたそうだ。ジュリーはそんなクララ様の態度に感銘を受けて、弟子入りを志願したそうだ。

「弟子にしてくださいってね。私、教え子はいても弟子は取った事が無かった。だけど彼女の熱意に負けたわ。だから彼女を弟子にした」

 ジュリーは自身の生まれや境遇について知っている事を全てクララ様に打ち明けたという。その後、クララ様はジュリーの父親を特定し、彼へ挨拶をしたという。

「父親はジュリーがああなっている事を全然知ってはいなかった。だからすべて話したのと同時にあなたの女癖の悪さが引き起こした事では? とつついてみたの。そしたら彼は反省した。その時は奥方を亡くしたばかりで後妻を迎えるかもしれないと言う噂があったようだけど、彼は結局後妻を迎える事は無かった。愛人や不義の子は皆認知してお金を渡したそうよ」
「そうですか……」
「数年前に彼は病気で亡くなった。その時はジュリーと一緒に葬式にも行ったわ。なんせ彼の子供はたくさんいたわよ。20人は軽くいたんじゃないかしら」
「そんなに?!」
「一応は奥方の長男が伯爵家を継いだわ。でもってちゃんと父親の子供も把握した。ジュリーもちゃんと伯爵家出身だと認知されてお墨付きも得たわ」
「そうですか、良かったです」

 ジュリーの話が終わった所で、当の本人が帰って来た。食堂に姿を現したジュリーの服はさっき着ていたものとは違う服になっている。それに彼女の顔もメイクが落ち、髪もぼさぼさの状態だ。

「ただいま戻りました……」
「おかえりなさい、ジュリー、何かあった?」
「聞いてくださいよ! リリーネ子爵がっ、ばっ爆発したんです!」
「え、爆発?」
「そうです! いきなり呻きだしたかと思えば爆発して! もうこっちは肉片と血でびっしょりですよぉ……すみませんもっかいシャワー浴びたいんでちょっと失礼しますぅ……」

 ジュリーは今にも泣きだしそうな目でそそくさとシャワールームへと向かっていった。それにしてもリリーネ子爵がいきなり爆発したとは一体どういう事なのか。

「いきなり爆発したってどういう事……?」
「俺も気になる……」
「とりあえずジュリーが戻ってくるのを待ちましょう。彼女あんな感じだから問い詰めるのはかわいそうかもしれないけど」

 しばらくしてシャワーを浴びて別の服に着替えたジュリーが戻って来た。髪も束ねてメイクもし直している。

「すみませんお待たせしました……」
「いえいえ、大丈夫?」
「全然大丈夫じゃないですう……トラウマですよあんなの」
「あなたがトラウマと言うならよっぽどなんでしょうね……具体的に何があったか聞いてもいいかしら?」
「あっはい。あのですね。私は自白剤を持って地下牢の区画内にある尋問部屋まで行ったんです。そしたらリリーネ子爵が尋問を受けていました」
「それでどうなったのかしら?」

 ジュリー曰くリリーネ子爵は黙秘を貫いていた。調査結果からは彼が私の両親だけでなく祖父母も手にかけた証拠が見つかった為、その分も尋問にかけられていたが、彼は黙秘を続けるのみだったという。
 ちなみに事件以外の話についてはソヴィと妻の安否を気に掛ける言葉こそあったが、逆を言えばそれだけだったという。

「それでですね。係の人に言われて私は自白剤をリリーネ子爵に飲ませたんです。彼はすぐに私が飲まそうとしている薬が自白剤だと気づいて抵抗したんですが、兵を増員して数人がかりで取り押さえて飲ませました。そしたらマリーナ様の両親と祖父母を殺した事を打ち明けたんです」
「なぜ殺したかについては言わなかった?」
「言いました。信じがたい事にイリアス様からの命令だと。それにマリーナ様を地下牢に入れたのもイリアス様からの命令だったと語りました。その事を自白した瞬間彼の全身に魔法陣みたいな黒い光が浮かび上がって、彼の身体が爆発四散しました……」
「……」
「わかったわ。彼が爆発した理由。多分イリアス様からの口封じでしょうね。バラしたら死という呪いでしょう」
「あーー……なるほど。確かにあの黒い魔法陣みたいな模様、ロイナ国でちょくちょく見るデザインのようなそんな気がしました……」
「あの、他にリリーネ子爵は何か言ってましたか?」

 私はジュリーにそう尋ねる。彼が自身のした事へ対して何か反省していれば、とわずかながらに希望を抱いてしまったからだ。

「マリーナさんへ対してですか?」
「……はい。どうでしたか?」
(何も、無いだろう。でも……)
「申し訳ないとだけは言ってました。イリアス様からの命令だから仕方ないと……」
「……教えていただきありがとうございます」

 申し訳ない。イリアス様からの命令だから仕方ない。彼はイリアス様の捨て駒だった。その事実を知った瞬間彼へ少しだけ同情の気持ちが湧いた。
 勿論私の両親祖父母を殺し、私を忌み子として扱い地下牢へと入れた彼の行いは許せない。だが、彼はイリアス様に命令され、それに従っていただけだったのだ。

(本当の敵は、イリアス様……)
「マリーナの本当の敵は、イリアス様なんだな?」
「クリス様……」
「リリーネ子爵は、イリアス様の捨て駒だったんだ。ていうか、リリーネ子爵がだいぶ前からイリアス様と通じているなんて知らなかった……」

 クリス様はうつむきながら、握りこぶしを震わせながらそうつぶやいたのだった。

「そうね、ロイナ国こそ敵。だから、今回の戦争で決着をつけるべきなのが良くわかったわ」
「おばあさま……」
「……マリーナ。これからイリアス様は必ずあなたを狙うでしょう。気を付けておきなさい」
「はい」

 私は強く返事をする。私の本当の敵はイリアス様。彼に屈する事は無い。


 
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