16 / 25
第二章
2-3
しおりを挟む
「今日は話したいことがあったんです」
「なんだい?」
みっともなく泣いたあと、精一杯の強がりでいつも通りのそぶりを見せると、アルもいつも通りに返した。
「国王から聞いてるか分からないですけど、ハナマー家と合同警備って言うのを実施する事になりまして」
「うん、聞いてるよ。カイは副指揮官になったんだよね」
「はい。なのでちょっと忙しくなるみたいで」
「え、もしかしてしばらく会えないとか……?」
分かりやすく、しょんもりとした様子をするアル。
せっかく頑張ろうとしている意思が揺らぎそうで、慌てて心の中で喝を入れる。
「ちょっとの間ですから。手紙も書きますし、全く会えないわけじゃないですよ」
「ほんとに?」
「本当です」
丸い瞳がこちらを見つめると、カイは頭を撫でてやった。
さっきまで自分が撫でられていたのだが、人の頭を撫でるとはこういう気持ちなのか、と思う。
力加減や、撫でる方向を考えながら、頭の形も、髪の質感も全ての感覚を拾うように神経を手のひらに向ける。相手のために、相手を思いやる気持ちだけがそこにはあるのだ。
撫でられるのは心地がいいが、撫でるのもなかなか悪くない。
「さっきのお返し?」
「そうです」
カイはそれだけ言うと、黙って撫で続けた。いささかの沈黙が流れる。けれども、それは不快ではない。むしろ心地が良いまである。
気の済むまで撫でると、手を下ろした。
「12歳の誕生日にお披露目会があるんだけどね」
「知ってますよ。ちゃんと行きますからね」
「うん、そのときカイにエスコートして欲しいの」
「エスコート?」
お披露目会はいわば社交の場でもある。歴代王子がエスコートをしたされたはよくあったらしい。
けれども、自分がエスコートをするとなると、しかも12歳という大切な節目となると、それなりに準備が必要だ。
人並みに女性人気のあるカイは、度々声をかけられるのが苦手でエスコートをしたことがないのはもちろん、社交会すらほとんど参加したことがない。
「俺、作法とか全然だめなんですけど……」
「だろうね。だから一緒に練習しようよって誘おうと思ってたのに」
「あー……いや、できますよ。予定、ちゃんと空けます」
「……いいの?」
「もちろんです」
実際、そんな時間があるかは分からない。
けれども、大切な人の大切な日を望む形で迎えさせてあげるのは、何よりも重要なことだと思うのだ。
後でダリアに予定を調整してもらおう。きっとどこかで帳尻を合わせることにはなるのだが、今はどうでもいい。
「それとね、エスコートしてもらうときは私が選んだ衣装を着て欲しいな」
「お願いごとがいっぱいですね」
「だめかな?」
「いいですよ。でも、お揃いはだめですからね。まだ、婚約者ではないので」
「似たようなものだけどね」
「全然違います」
「でも、まだね」
アルは喜びをハグで表現した。絶対に暑いはずなのに、お構いなしだ。
これぐらいのスキンシップなら問題ない。やっぱりさっきはびっくりしただけなのだ。
「カイはどんな色が似合うかな。髪の毛が茶色だから落ち着いた色味がいいよね。でも、目の色に合わせても……ふふっ、楽しみ」
胸の中で楽しそうに笑うアルに、つられて幸せな気持ちになった。
「……カイ、大好きだよ。カイは私のこと好き?」
顔を胸に埋めながら弱々しい声で愛を囁く。
カイはたまに聞かれるこの質問に答えを出せないでいた。アルも多分本気で返ってくるとは思っていない。
好き、愛おしい、その気持ちは日に日に大きくなるのに、それが恋や愛かは分からない。
分からないからこそ、6年後その時が来るまでは伝えたい。
「アルのこと、とっても大切に思ってます」
「なんだい?」
みっともなく泣いたあと、精一杯の強がりでいつも通りのそぶりを見せると、アルもいつも通りに返した。
「国王から聞いてるか分からないですけど、ハナマー家と合同警備って言うのを実施する事になりまして」
「うん、聞いてるよ。カイは副指揮官になったんだよね」
「はい。なのでちょっと忙しくなるみたいで」
「え、もしかしてしばらく会えないとか……?」
分かりやすく、しょんもりとした様子をするアル。
せっかく頑張ろうとしている意思が揺らぎそうで、慌てて心の中で喝を入れる。
「ちょっとの間ですから。手紙も書きますし、全く会えないわけじゃないですよ」
「ほんとに?」
「本当です」
丸い瞳がこちらを見つめると、カイは頭を撫でてやった。
さっきまで自分が撫でられていたのだが、人の頭を撫でるとはこういう気持ちなのか、と思う。
力加減や、撫でる方向を考えながら、頭の形も、髪の質感も全ての感覚を拾うように神経を手のひらに向ける。相手のために、相手を思いやる気持ちだけがそこにはあるのだ。
撫でられるのは心地がいいが、撫でるのもなかなか悪くない。
「さっきのお返し?」
「そうです」
カイはそれだけ言うと、黙って撫で続けた。いささかの沈黙が流れる。けれども、それは不快ではない。むしろ心地が良いまである。
気の済むまで撫でると、手を下ろした。
「12歳の誕生日にお披露目会があるんだけどね」
「知ってますよ。ちゃんと行きますからね」
「うん、そのときカイにエスコートして欲しいの」
「エスコート?」
お披露目会はいわば社交の場でもある。歴代王子がエスコートをしたされたはよくあったらしい。
けれども、自分がエスコートをするとなると、しかも12歳という大切な節目となると、それなりに準備が必要だ。
人並みに女性人気のあるカイは、度々声をかけられるのが苦手でエスコートをしたことがないのはもちろん、社交会すらほとんど参加したことがない。
「俺、作法とか全然だめなんですけど……」
「だろうね。だから一緒に練習しようよって誘おうと思ってたのに」
「あー……いや、できますよ。予定、ちゃんと空けます」
「……いいの?」
「もちろんです」
実際、そんな時間があるかは分からない。
けれども、大切な人の大切な日を望む形で迎えさせてあげるのは、何よりも重要なことだと思うのだ。
後でダリアに予定を調整してもらおう。きっとどこかで帳尻を合わせることにはなるのだが、今はどうでもいい。
「それとね、エスコートしてもらうときは私が選んだ衣装を着て欲しいな」
「お願いごとがいっぱいですね」
「だめかな?」
「いいですよ。でも、お揃いはだめですからね。まだ、婚約者ではないので」
「似たようなものだけどね」
「全然違います」
「でも、まだね」
アルは喜びをハグで表現した。絶対に暑いはずなのに、お構いなしだ。
これぐらいのスキンシップなら問題ない。やっぱりさっきはびっくりしただけなのだ。
「カイはどんな色が似合うかな。髪の毛が茶色だから落ち着いた色味がいいよね。でも、目の色に合わせても……ふふっ、楽しみ」
胸の中で楽しそうに笑うアルに、つられて幸せな気持ちになった。
「……カイ、大好きだよ。カイは私のこと好き?」
顔を胸に埋めながら弱々しい声で愛を囁く。
カイはたまに聞かれるこの質問に答えを出せないでいた。アルも多分本気で返ってくるとは思っていない。
好き、愛おしい、その気持ちは日に日に大きくなるのに、それが恋や愛かは分からない。
分からないからこそ、6年後その時が来るまでは伝えたい。
「アルのこと、とっても大切に思ってます」
0
あなたにおすすめの小説
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
夜が明けなければいいのに(洋風)
万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。
しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。
そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。
長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。
「名誉ある生贄」。
それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。
部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。
黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。
本当は、別れが怖くてたまらない。
けれど、その弱さを見せることができない。
「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」
心にもない言葉を吐き捨てる。
カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。
だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。
「……おめでとうございます、殿下」
恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。
その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。
――おめでとうなんて、言わないでほしかった。
――本当は、行きたくなんてないのに。
和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。
お楽しみいただければ幸いです。
【完結】俺の顔が良いのが悪い
香澄京耶
BL
顔が良すぎて祖国を追い出されたルシエル。
人目を避けて学院で研究に没頭する日々だったが、なぜか“王子様”と呼ばれる後輩ラウェルに懐かれて――。
「僕は、あなたそのものに惚れたんです。」
重くて甘い溺愛攻め × こじらせ美形受
※イラストはAI生成です。
天涯孤独になった少年は、元軍人の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
※2025/11 プロローグを追加しました
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元軍人の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
炎の精霊王の愛に満ちて
陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。
悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。
ミヤは答えた。「俺を、愛して」
小説家になろうにも掲載中です。
パブリック・スクール─薔薇の階級と精の儀式─
不来方しい
BL
教団が営むパブリックスクール・シンヴォーレ学園。孤島にある学園は白い塀で囲まれ、外部からは一切の情報が遮断された世界となっていた。
親元から離された子供は強制的に宗教団の一員とされ、それ相応の教育が施される。
十八歳になる頃、学園では神のお告げを聞く役割である神の御子を決める儀式が行われる。必ずなれるわけでもなく、適正のある生徒が選ばれると予備生として特別な授業と儀式を受けることになり、残念ながらクリスも選ばれてしまった。
神を崇める教団というのは真っ赤な嘘で、予備生に選ばれてしまったクリスは毎月淫猥な儀式に参加しなければならず、すべてを知ったクリスは裏切られた気持ちで絶望の淵に立たされた。
今年から新しく学園へ配属されたリチャードは、クリスの学年の監督官となる。横暴で無愛想、教団の犬かと思いきや、教団の魔の手からなにかとクリスを守ろうする。教団に対する裏切り行為は極刑に値するが、なぜかリチャードは協定を組もうと話を持ちかけてきた。疑問に思うクリスだが、どうしても味方が必要性あるクリスとしては、どんな見返りを求められても承諾するしかなかった。
ナイトとなったリチャードに、クリスは次第に惹かれていき……。
神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる