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魔法と異世界

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「魔法を使える、という事はどういう事ですの?だって貴方達がいた世界にも、魔法は無かったのでしょう?」

理論的な話になると途端にミルティアの勢いが失速して、困った様にメルティアを見る。
メルティアは、リリーアリアの質問に、こくりと頷いた。

「そうです。でも、魔法への憧れはございましたし、先程説明申し上げた漫画やゲームという空想の世界では
魔法はありふれていたのです。ですから、記憶を取り戻した時に、この地でなら魔法が使えると思い、
二人で練習したのです。文献も読み漁りました」

「思い込みの力です!!!」

メルティアの論理的な説明に、見も蓋もない注釈をミルティアが追加した。

「でも、確かに聖女は、わたくしも魔法は使えますし、……そう、最近矢を撃つ時に、魔法の矢を作りましたわね…」

「殿下はその際、矢をイメージしたのでは…ええと想像したのではないですか?」
「ええ、無意識ですが、ええ、そうですわね」

メルティアはにこっと笑いかけた。

「要は、その想像、イメージの力です。より深くその現象を思い浮かべる事で、具現化するのです。
例えばメアとミアは紅茶を淹れる時に、魔法で水を作り出します。汲みに行くのが面倒くさいので…」

途端に生活に密着した魔法の使い方になって、リリーアリアはくふふ、と笑った。
ミアが実践する為に、先程使っていた湯沸し用の入れ物を持ってきて、その上で掌で球体を持つような仕草をした。
見ているとその掌の間の空間に、水が湧き出て丸い球体が出来上がり、ぱっと掌を離すとぽちゃん、と音を立てて
容器の中に水が落ちて、満たされる。

「まあ、見事だわ」
「ですが、魔法には幾つか注意点があります。まず、自然に存在している物でなくてはならない事です。
例えばこのクッキーを生み出す事も、クッキーの材料である小麦を作り出すことも出来ません」

不思議な話では無かった。
もしその様な事が出来れば、皆が魔法で物を作り出す世の中になっていただろう。
リリーアリアはこくりと頷いた。

「それから、魔法は効果が大きいほど精神的な疲労も大きくなります。例えば先程ミアがいれたこの容器、水が
魔力とします。こちらのティーカップが容量の人は、このティーカップの分しか使えません」

メルティアが空になったティーカップに、ポットから水を注ぎながら説明する。

「つまり、魔力の量は人によって違うのね?」
「はい。ええと、筋力と一緒で訓練で増やす事は可能だと思います」

ふむふむ、とリリーアリアは頷いた。

「例えば、その魔法の力が余っている場合、他者に渡す事は可能なのかしら?」

空になったティーカップに、今度はリリーアリアが先程の水が入ったティーカップから水を移し変えた。

「可能かもしれませんが、試した事はない、ですね」
「試した事はありません!」

会話に参加したかったのか、ミルティアが同じ言葉を付け足した。

「そう…では、例えば、一番強い攻撃魔法は何かしら?」

リリーアリアの問いかけに、ミルティアとメルティアは顔を見合わせた。

「うーん……どのゲームを参照にするかよね……」
「テーブルトークの方がシステムしっかりしてるのよね……」
「共通の物はあるかしら?」
「メテオかしら」

二人でこしょこしょと話し合っている間、リリーアリアは隣に座って眉間に皺を寄せているマルグレーテを見た。

「大丈夫?ルーティ」
「は、はい、突然の話で混乱してしまって…わたくしにも魔法が使えれば良いのですが」
「わたくしは、幼い頃から奇跡を行う母を見て育ったので、自然にわたくしにも出来ると思ったのですわね。
魔法の矢が撃てると言われれば、そのままそう思って使っていましたし…本当に、くふふ、思い込みの力なのかも
しれませんわね」

眉が下がったマルグレーテの表情は晴れない。

「ねえ、ルーティ。難しいかもしれないけど、出来ると思って試してみて御覧なさい。わたくしは貴女なら出来ると
そう思いますわ。それに出来ても出来なくても、大事な人には変わりありませんもの」
「有難う存じます…アリア様」

やっと笑顔を見せたマルグレーテにほっとして、前を向くと、ミルティアとメルティアがにこにこと見守っていた。

「話し合いの結果、メテオレインに決まりました!」

ミルティアがドヤッと発表した。
想像がつかないリリーアリアとマルグレーテは首を傾げる。

「それはどういうものですの?」

ミルティアは笑顔で、メルティアの袖を引いて説明を促した。

「隕石です。この世界は空の上に宇宙というものがあって、そこに星があるのですが、小さい星のような、
漂っている隕石と言う石を、地面めがけて雨のように降らせるのです。隕石は空の境界を越える時に炎を纏いますので
広範囲に炎に包まれた巨大な石や岩が降り注ぐのです」

「それは確かに凄まじい魔法だわ」

「ただ、この魔法はどんな話やゲームであっても、序盤で使えるものではないのです。道を究めた老練な魔術師が
その場でただ一度だけ使えるかどうかという魔法なのです」

リリーアリアはティーカップを見ながら考えた。

「それは、魔力の量が少ないと出来ないのね?」

「はい。それもそうですけど、熟練度も必要なのです」

それを聞いて、リリーアリアはにっこりと微笑んだ。

「出来ると思えば出来ますのよ。問題はその準備が出来るかどうかですわ。試したい事が沢山出来ました」

先程まで自分達が言っていた事を言われて、双子はにこにこと微笑んだ。

「さすがです、殿下」
「殿下なら出来ます」

「二人にはとても助けられたわ。わたくしの事は名前で呼んで頂戴ね。好きなように呼んでよろしくてよ」

にっこりと微笑みながら、ちらりと視線を送られて、マルグレーテも頷いた。

「わたくしの事も名前で結構です。ルーティという呼び名だけはアリア様のものですので、それ以外なら」

二人は先程の魔法の話以上に悩み始めた。

「ルー様?」
「駄目よ、大柴が浮かぶもの」

メルティアの意見にミルティアが、よく分からない返事をする。

「マルちゃん?」
「駄目ですわ、ラーメンと焼きそばを思い出すわ」
「うう、食べたい……」

ミルティアの意見に、メルティアが食べ物の名前を出したらしい。
リリーアリアが不思議そうに質問した。

「それは食べ物の名前ですの?」

「はい。小麦から作れる麺類です。いつか作って献上いたします!」
「まあ、何て楽しみなのかしら……」

本当に、心の底から喜びを感じて、リリーアリアは不思議な気持ちになった。

此処へ来るまでは不安と、寂しさで胸が一杯だったのに。

横に居たマルグレーテも、笑いながら同意した。

「今日のケーキも大変美味しゅう御座いましたので、無理もございません」

「あれはミルクレープというのです。薄く焼いた生地にクリームを挟んで何枚も重ねてゆくのです」

ミルティアが褒められて嬉しそうに、身振り手振りを交えて説明を始めた。

「よし!決めましたわ!ルティ様と、リーア様とお呼び致します!わたくし達のこともミアとメアでお願い致します」
「賛成!!」

考え込んでいたメルティアの決定に、ミルティアが両手を挙げて笑顔を向ける。
それを見て、リリーアリアとマルグレーテも楽しそうに笑った。
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