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残された者達ー妹の物語①
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私はミリオネア・ラーソン。
ラーソン商会の跡継ぎだ。
何でも揃うラーソン商会という謳い文句の通り、扱う品数はとても多い。
食料品、生活必需品から衣料品まで。
街では主に、平民向けに商売を展開している。
中でも姉のアリーナが企画した、すぐ食べられるお惣菜は働く女性達や独身男性の強い味方だ。
売り切れればよし、売り切れなければ従業員や家族の夕食や朝食になるので無駄がない。
朝に仕込めば夕方には売り切れるので、調理人も町で働く前の小遣い稼ぎに日替わりで働いてくれている。
元々ラーソン商会は、姉が後継者になるべきだと思っていた。
真面目で優しくて、発想力が豊かな姉は商品開発に向いているし、記憶力も良いので仕入れも上手い。
私は見た目と愛嬌があるので、渉外と販売が得意だった。
二人で助け合って商会を運営していければ、どちらが継いでも良かったのだけど、母だけは私を後継と決めていた。
そして、この件にだけは母に決定権がある。
創始者が母の曽祖父だからだ。
そんな中、父の弟である叔父のリーマス伯爵からの養女の打診。
侯爵家への縁つなぎとして、花嫁候補として送りたいという野望を叶える為、姉のアリーはこの家を出て行った。
「すぐに戻ってくるでしょう」
何時になく馬鹿にした様子の母の顔は正直見たくなかった。
綺麗な母が、汚れる気がして。
いや、元々そういうところはあったのだけれど。
それでもそんな部分を前面に押し出されたら、見たくなくても見えてしまう。
でも、母の思い描いた、惨めに帰ってくる姉はとうとう見る事はなかった。
一度目の連絡では、侯爵家に嫁入りする事に決定した知らせ。
「まあまあ……侯爵家も物好きなのね」
母が苦々しい顔を、美しい笑顔で覆い隠しながら言う。
父は単純に喜んでいた。
「あいつならやると思っていた」
などと言ってるけど、それは嘘だろ、と心の中で突っ込んだ。
それでも自慢げな父を見るのは嬉しいし、私も姉が受け入れられた事が自分の事の様に嬉しかった。
姉がいなくなった後の商会は、私と婚約したローガンが働く様になってくれたので、リーマス伯爵からの補填がなくても十分、アリーが居る時以上に仕事自体は楽になった。
重い荷物は軽々運べるから、仕入れも多くできるし、ローガンの交友関係も広いから客も増え、愛嬌があるので近所の方々とも良好だ。
二度目の連絡は、サラセニア王国の国王の養女になったという報せ。
「何で……私じゃなくて、娘なの……?」
母は、悔しそうに顔を歪めて手紙を見つめた。
散々、母が憐れんでいた、灰に塗れたような金髪、と暗い色の瞳の色、が王家の色だったらしい。
「それは、書いてあるじゃない。王家の色を受け継いでいたからでしょ」
現実を認めようとしない母に突き付ける。
でも母が言い放った。
「でも王族に選ばれるような容姿じゃないでしょう?」
ああ、やっぱりアリーの言う通り。
母は姉を見下している。
私は冷たい目を向けてしまうのを止められなかった。
「サラセニアでは美人なんでしょうね。母さんが言うほど、アリーは不細工じゃないのよ」
「だとしても美人じゃないでしょう!」
この国の基準では、平均的な感覚では、確かに。
「美人じゃなくても、国によって少しずつ違うじゃない。美女じゃなければ養女にしないって国だったら、なれなかったかもしれないけど。見る目のある国王だったんでしょ。母親だったら喜ぶところじゃないの?」
言い返せば、母親はぐっと詰まった。
母は八方美人だ。
だから「母としての評判」は大事なのである。
商会としても、実娘、実姉が王族へ養女に行ったというのは、良い宣伝になる。
化粧品やら、洗髪料に石鹸など、売るのにも丁度いい。
美醜なんて関係ないけれど、人々の購買意欲をそそるためには幻想だって必要だ。
きっと母は売買とは関係なく、明日には娘が姫になった事を人々に自慢して回るだろう。
そういう人だ。
だから言い訳じみたことを口にする。
「別に、喜んでないわけじゃないのよ」
「そ。悔しがっても、母さんじゃ王族にはなれなかったよ。明るい金髪に緑の目だもん。でもその色、気に入ってるでしょ」
王族になれない色。
でも今まで自慢してきた貴族の色だ。
幾ら悔しがっても、それは変えられない。
母は、力なく、そうね、と言っただけだった。
そしてもう一人、アリーの人生に変化が訪れたことを納得出来ない人間が一人。
「アリーはまだ戻ってこないのか」
伯爵家に養女に行ってからというもの、毎日のようにマックスが店に顔を出す。
「だーかーらー!前にも説明したでしょ。一週間で侯爵家に行くって。最低あと三日以上戻らないの!」
毎日同じやり取りをさせられる。
こいつは馬鹿か。
三歩で忘れる鳥頭か。
とはいえ、あと三日が二日になり、一日になり。
それでも戻ってこない事にマックスは不貞腐れた。
「おい、戻ってくるんじゃないのかよ」
「戻ってこないって事はうまくいってるのよ。あんたには関係ないでしょ」
「平民の癖に貴族に対して不敬だぞ」
こういう時だけ貴族を持ち出すのやめてくんない?
ツケにしてる支払い全部取り立てても良いんだけど。
「そういう事は支払い全部綺麗にしてから言ってよね」
「………はぁ、可愛げがねぇな」
お前にくれてやる可愛げなんかない。
私が不機嫌な顔をしていると、ローガンがのしのしと近づいてきた。
「ミリー、どうした」
「そこの男、仕事の邪魔だから追い払ってくれる?」
ローガンは熊の様に大きく、隆々とした筋肉の持ち主で。
マックスもそれなりに良い体格はしているが、力では明らかに敵いそうにないのを見て、何も言わずにそそくさと店を後にした。
もう来なくていい。
逃げ出したマックスを見送って、ローガンは大きな肩を竦めると仕事に戻って行く。
ラーソン商会の跡継ぎだ。
何でも揃うラーソン商会という謳い文句の通り、扱う品数はとても多い。
食料品、生活必需品から衣料品まで。
街では主に、平民向けに商売を展開している。
中でも姉のアリーナが企画した、すぐ食べられるお惣菜は働く女性達や独身男性の強い味方だ。
売り切れればよし、売り切れなければ従業員や家族の夕食や朝食になるので無駄がない。
朝に仕込めば夕方には売り切れるので、調理人も町で働く前の小遣い稼ぎに日替わりで働いてくれている。
元々ラーソン商会は、姉が後継者になるべきだと思っていた。
真面目で優しくて、発想力が豊かな姉は商品開発に向いているし、記憶力も良いので仕入れも上手い。
私は見た目と愛嬌があるので、渉外と販売が得意だった。
二人で助け合って商会を運営していければ、どちらが継いでも良かったのだけど、母だけは私を後継と決めていた。
そして、この件にだけは母に決定権がある。
創始者が母の曽祖父だからだ。
そんな中、父の弟である叔父のリーマス伯爵からの養女の打診。
侯爵家への縁つなぎとして、花嫁候補として送りたいという野望を叶える為、姉のアリーはこの家を出て行った。
「すぐに戻ってくるでしょう」
何時になく馬鹿にした様子の母の顔は正直見たくなかった。
綺麗な母が、汚れる気がして。
いや、元々そういうところはあったのだけれど。
それでもそんな部分を前面に押し出されたら、見たくなくても見えてしまう。
でも、母の思い描いた、惨めに帰ってくる姉はとうとう見る事はなかった。
一度目の連絡では、侯爵家に嫁入りする事に決定した知らせ。
「まあまあ……侯爵家も物好きなのね」
母が苦々しい顔を、美しい笑顔で覆い隠しながら言う。
父は単純に喜んでいた。
「あいつならやると思っていた」
などと言ってるけど、それは嘘だろ、と心の中で突っ込んだ。
それでも自慢げな父を見るのは嬉しいし、私も姉が受け入れられた事が自分の事の様に嬉しかった。
姉がいなくなった後の商会は、私と婚約したローガンが働く様になってくれたので、リーマス伯爵からの補填がなくても十分、アリーが居る時以上に仕事自体は楽になった。
重い荷物は軽々運べるから、仕入れも多くできるし、ローガンの交友関係も広いから客も増え、愛嬌があるので近所の方々とも良好だ。
二度目の連絡は、サラセニア王国の国王の養女になったという報せ。
「何で……私じゃなくて、娘なの……?」
母は、悔しそうに顔を歪めて手紙を見つめた。
散々、母が憐れんでいた、灰に塗れたような金髪、と暗い色の瞳の色、が王家の色だったらしい。
「それは、書いてあるじゃない。王家の色を受け継いでいたからでしょ」
現実を認めようとしない母に突き付ける。
でも母が言い放った。
「でも王族に選ばれるような容姿じゃないでしょう?」
ああ、やっぱりアリーの言う通り。
母は姉を見下している。
私は冷たい目を向けてしまうのを止められなかった。
「サラセニアでは美人なんでしょうね。母さんが言うほど、アリーは不細工じゃないのよ」
「だとしても美人じゃないでしょう!」
この国の基準では、平均的な感覚では、確かに。
「美人じゃなくても、国によって少しずつ違うじゃない。美女じゃなければ養女にしないって国だったら、なれなかったかもしれないけど。見る目のある国王だったんでしょ。母親だったら喜ぶところじゃないの?」
言い返せば、母親はぐっと詰まった。
母は八方美人だ。
だから「母としての評判」は大事なのである。
商会としても、実娘、実姉が王族へ養女に行ったというのは、良い宣伝になる。
化粧品やら、洗髪料に石鹸など、売るのにも丁度いい。
美醜なんて関係ないけれど、人々の購買意欲をそそるためには幻想だって必要だ。
きっと母は売買とは関係なく、明日には娘が姫になった事を人々に自慢して回るだろう。
そういう人だ。
だから言い訳じみたことを口にする。
「別に、喜んでないわけじゃないのよ」
「そ。悔しがっても、母さんじゃ王族にはなれなかったよ。明るい金髪に緑の目だもん。でもその色、気に入ってるでしょ」
王族になれない色。
でも今まで自慢してきた貴族の色だ。
幾ら悔しがっても、それは変えられない。
母は、力なく、そうね、と言っただけだった。
そしてもう一人、アリーの人生に変化が訪れたことを納得出来ない人間が一人。
「アリーはまだ戻ってこないのか」
伯爵家に養女に行ってからというもの、毎日のようにマックスが店に顔を出す。
「だーかーらー!前にも説明したでしょ。一週間で侯爵家に行くって。最低あと三日以上戻らないの!」
毎日同じやり取りをさせられる。
こいつは馬鹿か。
三歩で忘れる鳥頭か。
とはいえ、あと三日が二日になり、一日になり。
それでも戻ってこない事にマックスは不貞腐れた。
「おい、戻ってくるんじゃないのかよ」
「戻ってこないって事はうまくいってるのよ。あんたには関係ないでしょ」
「平民の癖に貴族に対して不敬だぞ」
こういう時だけ貴族を持ち出すのやめてくんない?
ツケにしてる支払い全部取り立てても良いんだけど。
「そういう事は支払い全部綺麗にしてから言ってよね」
「………はぁ、可愛げがねぇな」
お前にくれてやる可愛げなんかない。
私が不機嫌な顔をしていると、ローガンがのしのしと近づいてきた。
「ミリー、どうした」
「そこの男、仕事の邪魔だから追い払ってくれる?」
ローガンは熊の様に大きく、隆々とした筋肉の持ち主で。
マックスもそれなりに良い体格はしているが、力では明らかに敵いそうにないのを見て、何も言わずにそそくさと店を後にした。
もう来なくていい。
逃げ出したマックスを見送って、ローガンは大きな肩を竦めると仕事に戻って行く。
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