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第92話
しおりを挟む結局、俺の服ばかり買って自分の物は何一つ買おうとしない彼。
あまりにも申し訳ない。
少し休憩するためにカフェに入って、アイスコーヒーを飲みほっと一息吐く。
「凪さんは欲しい物ないの?」
「特に思いつかないな。」
「……本当に俺のしか買わないつもり?」
「それで俺は満足だよ」
俺は全く納得がいってないけれど。
「……凪さん。ここ出たらトイレ行きます」
「え、大丈夫?今行ってくる?」
「ううん、大丈夫。」
トイレに行くと見せかけて、凪さんに何かプレゼントを買いたい。
怒られるかな。勝手にどこかに行くなって言われるかもしれないけれど、何かお返しをしたい。
「真樹、真剣な顔してる。どうかした?トイレ本当に大丈夫?」
「大丈夫!」
つい昨日、粗相をしたばかり。
またトイレの心配をされているのは、恥ずかしさと情けなさに襲われてたまらないが、プレゼントを買うっていうミッションを遂行するためなので、勘違いされても今は良いとしよう。そう自分に言い聞かせる。
暫くしてコーヒーを飲み終え、凪さんと店を出た。
近くのトイレまでは少し距離がある。
「凪さんはゆっくり見ていてください!後で連絡するので、それで合致しましょう!」
「真樹が迷子になりそうで怖い」
「……俺もう成人してるから。さすがに迷子にならないし、なっても電話します。泣き喚いて迷子センターに行ったりしません。」
「美人の真顔って迫力あるね」
「今真面目に言っているので。じゃあトイレ行ってきます!」
少し急ぎ足でトイレの方に向かう……と見せかけてシックなお店に入った。
ここなら凪さんに似合う物も売っているはずだと思って。
色々物色していると店員さんが声を掛けてくれる。
プレゼントで、凪さんのイメージを伝えると、店員さんが選んで出してくれた商品に釘付けになった。
スタイリッシュでお洒落な万年筆。
凪さんがこれを使ってスラスラ文字を書いている姿は容易に想像できた。
値段は一万円ちょっと。
彼が俺に買ってくれた服の総額に比べればどうって事ない。
メッセージカードを書きますか?と聞かれて、大きく頷いた。
まだ時間はある。遅いって連絡が来たらお腹が痛くてって伝えよう。
用意してくれた紙とペンで日頃の感謝を伝えるメッセージを書いた。
「……よし。」
書き終わり、店員さんに預けてお金を払い、少しの間待つ。
スマートフォンに凪さんから「大丈夫?」とメッセージが入って申し訳ないけれど、メッセージを開かずに、店員さんからラッピングされた品物を貰ってルンルン気分で店から出た。
店を出てから凪さんのメッセージを見る。
「大丈夫です」と返事をして、凪さんがいるだろう方向に足を向ける。
「あれ、堂山!」
「……三森」
久しぶりに見る顔。
最後に会ったのは、発情期を起こした女性を介抱した日だ。
「あれ、何か雰囲気変わった?」
三森の後ろには、大学時代に見た事のある顔が三人。
「ていうか仕事の相手がお前じゃなくなってつまらないんだけど。」
「部署異動して……」
「そうなんだ」
早く凪さんのところに行きたい。
心臓の動きが速くなる。
オメガになったとバレるのが怖い。
バレる前に、早く、早く。
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