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魔族暗躍編

100.もう一つの戦い

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 凄まじい爆音と共に、勇者君がシリウス君にぶっ飛ばされていた。
 速すぎてほとんど見えなかったが、恐らく勇者君がシリウス君からカウンターでも受けたのだろう。

 二人の令嬢はぶっ飛ばされた勇者君を見て口をあんぐりと開けて呆然としていた。
 お高く止まっていた二人のこんな顔が見られるなんて流石はシリウス君、いつも面白いことを起こしてくれるね。

「ル、ルーク様!? ッご無事でしたか……。こちらも早く終わらせた方がよさそうですね、アニエス」
「そうですね。すぐに片付けてしまいましょう、リゼット」

 二人はそう言うと武器を構えた。
 アニエスさんはベーシックな長剣、リゼットさんは弓だ。

 二人共中々の技量だが、特に警戒すべきはリゼットさんの方だな。
 リゼットさんは保有魔力が高いことから、ただの弓師ではなく魔弓師だと思われる。しかも身のこなしから近接戦闘もそつなくこなせそうだ。
 アニエスさんの方も相当な気力を纏ってはいるが……せいぜい闘気に注意するくらいだろう。

「よし、僕が二人を引きつけるからクリステルさんは後方支援をお願い。特にあの弓使いに注意しておいてくれると助かる」
「承知しましたわ! 任せてくださいまし『細氷ダイヤモンドダスト』」

 クリステルさんの魔術により闘技場の気温が下がり、細かな氷の結晶が舞い踊る。
 これで彼女は詠唱無しで中級までの氷魔術を自在に行使することができる。
 フィールド支配系の魔術が得意な彼女は最高の支援役だ。

 僕は魔術を妨害するためにクリステルさんに攻撃を始めるリゼットさんにチャクラムを一つ放ち牽制しつつ、アニエスさんの長剣を手甲に装着したチャクラムで迎撃する。

 僕の闘気『螺旋駆動スクリュードライバー』で高速回転する鋸状のチャクラムと長剣がぶつかると、甲高い音を立てて長剣が跳ね上げられた。
 驚愕に顔を染めるアニエスさん、その僅かな隙を見逃さず胴に渾身の蹴りを放つ。

「グッ! なんですか、その手甲は!?」

 ……常時展開型の障壁魔術……か。
 後ろに飛び退いていたにしても、僕の手応えと与えられたダメージに大分乖離があった。
 蹴りを食らったアニエスさんの隙を突くようクリステルさんの『氷槍アイシクルジャベリン』が襲いかかるも、何のダメージも受けていないようで俊敏に魔術を回避されてしまった。

「中々強固な障壁だね……っ!」

 息をつかせぬようアニエスさんへ一足飛びで肉薄し、連撃を仕掛ける。それと同時にクリステルさんは氷の槍を次々と空中に発現させ、リゼットさんへ解き放った。

「貴女の相手はわたくしですわ!」
「小癪な……!」

 クリステルさんの氷魔術に対しリゼットさんは有利な炎魔術を纏わせた矢で迎撃するも、全てを捌き切れずに身体に傷を負い始めていた。

 アニエスさんは僕たちに圧されている戦況に顔をしかめ、急激に気力を練り上げ始めた。

「……闘気『龍鱗薔薇ドラグローズ』!!」

 アニエスさんは解き放った気力を長剣に纏わせ、一思いに打ち払った。
 それを先ほどと同じくチャクラムで跳ね上げようとした瞬間、長剣に無数の切れ目が生じ、剣全体が鞭のように柔軟にしなった。

「何ッ!?」
「ハァッ!!」

 先程とは比べ物にならない剣速で、撓る剣が目前に迫る。
 即座にバックステップを踏むもそのまま剣が伸び、上手く回避できず手甲で受け止める羽目になってしまった。
 威力も先程より跳ね上がっており、受け止めた腕が痺れる。

「ふふ、『龍鱗薔薇ドラグローズ』から簡単に逃げられるとは思わないことですね!」

 剣が龍の鱗、薔薇の花弁のように分離し、鞭のようにビュンビュンと振るわれている。これが彼女の闘気『龍鱗薔薇ドラグローズ』か……!

 得意げに笑うアニエスさんは追撃をしかけてくる。

 風を切る音と共に迫りくる剣。
 剣の軌道を予測し、到達地点に手を翳す。

「『螺旋駆動スクリュードライバー』」

 剣の到達と同時に闘気を発動させ、回転力場を生み出す。
 鞭状に撓る剣は回転力をモロに受け、攻撃を容易に逸らすことができた。

「なぁッ!?」

 驚愕するアニエスさんへ、チャクラムを放つ。高速回転するチャクラムは彼女の胴体へ直撃した。
 アニエスさんは身体を逸しチャクラムを往なすも、障壁を貫通した斬撃は彼女に浅からぬ傷を与えた。

「アニエスッ!?」
「ウグゥッ……! こ、この私が……!」

 肩口が斬り裂かれ床版を血で濡らすアニエスさんの顔には憤激の色が漲っている。
 一方リゼットさんは僕らに牽制しつつ、アニエスさんへ近づいていた。

「アニエス、使いましょう! これ以上は勇者様の顔に泥を塗ることになるわ!」
「しかし、あれはこのような所で……」
「負けるよりはマシよ! 私も一緒に使うから、早くなさい!」
「……分かりました。ルーク様、お借りします」

 嫌な予感がし追撃しようとした瞬間、リゼットさんは特大の炎魔術を地面に放ち、爆発を起こした。

「クッ……!?」

 爆風を躱して前を向くと、二人は左手を前に掲げていた。

「「我は願う、聖なる力の代行を『神聖円環セイクリッドリンク』」」

 二人の指に輝く指輪から異質な魔力の奔流が溢れ出し、光の柱を象る。

「シオンさん、気をつけてくださいまし! これは勇者様の魔力ですわ!」

 後方のクリステルさんから注意の声が聞こえる。この異質な魔力は勇者君の魔力か、凄まじい威圧感だ。

「さて、すぐに片付けてしまいましょう!」

 アニエスさんは目にも留まらぬ速さで地を蹴り、闘気で強化した剣を振るう。
 速い、速いのだが……シリウス君との模擬戦で素早い攻撃に目が慣れているお陰でなんとか往なすことができる。
 しかもこの動きに自身の技量がついてきていないようだ。恐らく、この魔導具を使用した戦闘の経験が少ないのだろう。
 『螺旋駆動スクリュードライバー』だけでは威力を受け流しきれないため身体が軋みはじめているが、シリウス君の猛攻を受けている時に比べれば全然マシだ。

「驚いたな……こんなにも身体能力が向上するとは。凄い魔導具だね」
「クッ!! これでも、届かないというの!?」
「僕らはもっと凄い規格外と戦ってたから……彼がいなかったら捌けなかったかもね」

 思わず苦笑いを漏らす僕を見て、アニエスさんは唇を噛んでいた。

「このッ……! リゼット、支援は!?」
「ちょっと待ってッ! あと少しだから!」

 クリステルさんは苦戦しつつもなんとかリゼットさんを引きつけてくれているようだ。
 威力の上がった魔弓に対し、上手く手数で対処してくれている。

 焦り始めたのか、アニエスさんの攻撃はドンドン大振りになり、隙が見え始めた。
 周囲にはちょうどよく、勇者君の容赦ない攻撃により破片が大量に転がっている。

 アニエスさんの攻撃を受け流し、気力を一気に開放する。

「『螺旋駆動スクリュードライバー』!!」

 闘気を発動させ、大量の破片に回転力を作用させる。

「『流星群メテオストリーム』!!」

 警戒して後ろへ下がるアニエスさんへ、大量の破片を射出。

「ゴフッ……!」

 流星の如く殺到する弾丸をほとんど捌けず、アニエスさんは鈍い音を立てて吹っ飛んでいった。

 そのまま破片をコントロールし、リゼットさんを強襲する。

「『炎障壁フレイムバリア』……キャッ!?」

 リゼットさんは障壁魔術により攻撃を防ぐも、『流星群メテオストリーム』と『氷槍アイシクルジャベリン』を同時には防げず吹き飛ばされた。

 確かな手応えを感じた……と思ったのだが、ふらつきつつもすぐに体勢を整える二人。
 二人の身体からは、白く輝く異質な魔力が立ちのぼっていた。
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