狭間の祈り手 -聖王大陸戦記 Ⅰ-

ムロ☆キング

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三章 枯れ枝の腕

幕間・老人たち

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 螺旋階段を登り、最上階を目指す。手すりや書庫など、いたるところに設置された燭台には良質な輝石が取り付けられ、それらの光が夜の『大書庫』を照らしている。

 人ひとりいない、異界に迷い込んだかのような幻想的な光景も、見慣れてしまえばなんの感情もわいてこない。そんなことよりも、先に待つあのお方の言葉が気になり、不安が胸の中で渦巻いている。

 深く息を吐き、アーチ状の青い扉をくぐる。

「遅かったではないか、ロズマール。なに、そんなに不安に思わずとも良い。貴様をどうにかしようとは思わぬ」

 その場に跪き、首を垂れた。

「なんとも、堅苦しいやつよのぉ。そんなものより手土産のひとつでも持ってくればいいものをな」

「いやいや、礼を示す行為は重要じゃろて。儂はつまらん土産などいらぬ」

 三人の『長老がた』はそれぞれ、大きな輝石の結晶を丸く磨いた大球に胡坐をかき、ふわりと宙に浮いている。応接室には蝋燭の類はなかったが、ぼんやりと明るい。輝石で造られた部屋は、それ自体が光を放っていた。

「畏れ多くもご報告いたします。件の者どもですが、領内の街で宿を取っておるようです。夜通し走らせれば、暗殺者どもが追いつくでしょう」

「よいよい、捨て置け。遠見の術を使い視たのだろうが、そんなこと、とうにわかっておる。あの者たちが探っていた花など、さして問題でもない」

「そうだのぉ。くれてやってもよかったぐらいじゃ。なんなら、抽出した薬もつけての」

「たしか、ディオリオといったか。あの者はなかなか頭が切れるようじゃ。なんら証拠をつかめぬまま、ことを荒立てようとはせぬだろう。それに、目に見える暗殺者どもに注力するはず。あの娘っこを保護したいくらいは、言ってくるだろうがの」

「その娘。ミレーナのことですが、処分いたしますか?」

「処分? よせよせ。心にもないことを言うでない。貴様があの男から託され、約束を果たそうと思うとること、儂らが知らぬと思うてか」

「儂らは何もせぬよ。術もあの女司祭が解いてしもうたが、娘っこの言葉など証言にもならぬ。それに、花なぞもうどうでもよいのじゃ」

「左様。あらかた実験も済んだでな。あの男の才であれば、面白い見聞も聞かれるかと戯れてみたが、期待しすぎたようだしの。秘術士の本分も忘れた塵の如き彼奴も、最後には役に立ったのだ。妹を想う美しき家族愛というものに、褒美をやってもいいじゃろう」

「ああ、しかし口惜しいのぉ。もう少しであの女司祭を手に入れられたものをなぁ。なかなか面白い素材になるだろうに……。良いのか? みすみす逃してやって」

「なに、女神が遺したもうた『災厄の予言』まで猶予はある。それにどうやら『大地の民』も女司祭を気にしているようだ。様子を見てみるのも面白かろう」

「儂としては、暗殺者を容易に屠ったあの騎士らに興味を惹かれるがなぁ。この時代、まだあれ程の使い手がおるとは驚きじゃて……。なんじゃ、ロズマール。まだいたのか。もうよいぞ。下がれ下がれ」

 失礼します、と垂らした首をさらに深く下げ、そのままくるりと向きを変えて退出する。螺旋階段へ向かう途中、息をひとつ吐き、気持ちを落ち着かせた。

 ―――これで、約束は果たせそうですよ。ファレン。

 灯りが点々と続き、先を見通せる明るさがあるにもかかわらず、螺旋階段の続く先には暗い闇がある。そんな錯覚を覚えながら、一歩、また一歩と降りていく。

 ―――『長老がた』に忠誠を誓った私にとって、貴方は愚かしく思う面はありました。それでも義理は通したのです。最期のその前に、ミレーナからの想いも、受け取れたでしょう? 

 花は手向けました。安らかに眠りなさい。わが友よ。
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