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23・番外・王子のつぶやき
しおりを挟む「ジェラール、こんなに頼んでも駄目なのか」
「駄目だ、リュシアン。男らしくない、約束は守れ」
さっきから何度頼んでも、ジェラールは聞く耳を持たない。ソファーで腕を組んで、私の方を見もしない。
「ひと目でもいい。彼女がダンドリュー家に行ってから、もう3週間も会っていないんだ。可哀想だと思わないのか」
「可哀想? それなら慣れない環境で必死にやってる彼女の方が、よっぽど可哀想だろうが」
「……」
もともと兄の親友。自分からみればジェラールは2番目の兄にも等しい。たとえ頭ごなしに叱り飛ばされても逆らえない、王子の自分には数少ない存在だ。
「……彼女はどうしている?」
「昨日も聞かれたな」
ジェラールは振り返って苦笑した。
「ダンスはどうなることかと思ったが、最近は見違えるほど上達した。立ち居振舞いもマリレーヌの直伝、どこへ出しても恥ずかしくない。本当によくやっているよ」
私は何度も頷く。さすがは私のフェリシアだ。
「昨日、デビューの日のドレスが仕上がってきた。なかなか良く似合って、―――襲うなよ」
「まさか。……いや待て、彼女はそんなに綺麗になってるのか!?」
呆れ果てたジェラールが盛大なため息を残して出ていった。まあ、もう10日近くも似たようなやり取りをしているから仕方ないが……。
ああ、私の可愛いフェリシア。
初めて会ったあの日のことは、今でも忘れない。王宮へ来たのは初めてだったらしく不安げな表情だったけれど、話をして驚いた。
社交界で会う令嬢たちは、これ以上ない程美しく着飾り、私に群がってくる。確かに美しいが、言葉の端々に滲む媚びや打算、なかにはあからさまに秋波を送ってくる者もいて、正直辟易していた。
フェリシアには全くそれがない。それでいて一言一句、まさに私の理想通りの答えが返ってくる。私は彼女に今までにないほど好感を持った。
怪我が治ったころを見計らってお茶に招いた。やはり可愛い。可愛すぎる。そして私は決めた。
「父上、先日の縁談はお断りして下さい」
そうだ、私の伴侶は彼女しかいない。
その後もジェラールを掴まえてはフェリシアの話を聞き出し、呆れられつつも迎えた、フェリシアのデビューの日。私は自分が初めて公務に出た時よりも、はるかに落ち着きを欠いていた。
「おまえにも、そんな感情があったのだな……」
兄上にしみじみと言われて憮然とする。しかしすぐに鳴り響いた音楽に、そんな気持ちは吹き飛んだ。
父上、兄上らに続いて大広間へ。長年身に付いた微笑を保ちつつ、さりげなく見渡してフェリシアを探す―――いや、探すまでもなかった。
まるでそこだけが、光り輝くようだった。
彼女の初々しさを強調するような、白を基調としたドレス。艶のある髪は複雑に結い上げられ、細い首となよやかな肩を見せている。
―――目が合った。そのまま何気なくそこに立っているために、必死に自分を抑えなくてはならなかった。
義兄妹としてエスコートするジェラールが、こちらを見て彼女に何か囁いている。分かっているのに、ジェラールに嫉妬してしまいそうだ。
ダンスが始まったが、今日はフェリシアと踊ることは叶わない。まったく、しきたりなんて誰が作ったのか。
それにしても、フェリシアのダンスは本当に美しい。僕の妃候補の噂を聞いて反感を持っていた者達でも、これには文句のつけようもないだろう。
あの手を取って、彼女の細い腰を抱くのは私であるはずなのに。
踊り終えたフェリシアは、ジェラールに連れられてテラスへ出ていった。何も考えられず、引き寄せられるように後を追ってしまい……、危うくフェリシアの努力を水の泡にしてしまうところだった。
間もなく夜会がお開きになろうとする頃、ジェラールが静かに近づいてきた。
「今夜、フェリシアの部屋のバルコニーの窓を開けておく、と父上が言っている。例の道を通れば見咎められずに来られるだろう」
そして私にニヤリと笑って戻っていった。
―――フェリシアに会える!
その後大広間を出るまでどうしていたかなんて、もう覚えていない。
礼装を解き、なるべく目立たない服を選び……、辺りがいくらか静かになるのを待って、私は部屋を忍び出た。
王宮の森を抜ける道は暗いが、迷うことなどない。もうすぐ行くから、待っていてくれ。
この想いをすべて、君に捧げよう。
―――ひと晩中、君を愛してあげる。
大好きだよ、私の可愛いフェリシア。
応援ありがとうございます!
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こんにちはぁ
楽しく読ませて頂きました。
⁽⁽ ◟(∗ ˊωˋ ∗)◞ ⁾⁾
完結になっていますが、このお話はここで終わりですか?
わたし的に、10話を読みながら、これからだぁーって楽しみにしてたのですが…
雪うさぎ様
感想ありがとうございます!
何はともあれ、まずはお詫びを。この感想をいただいてたことに気づくのが遅れましてすみません。
それと、完結設定になっていたことも……。
言い訳ですが、アルファポリスさんは初投稿で、その辺勉強不足でした。今後気をつけますm(*_ _)m
ご指摘下さって感謝します。
もしよろしければ、引き続きお楽しみいただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします(*^^*)
砂月美乃