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第3章 闘技場とハーレム

前夜祭

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「いい……! いいわ……!」

あれから俺は、師匠と修行をほぼ毎日かかさず重ねていた。
今は師匠の魔術を交わしながら、攻撃をすることができるようになっていた。

魔術師の詠唱時間。
そして詠唱時間による魔術の威力の大きさ。
その瞬間に捉えられる隙。

俺は魔術師との闘いの中での「心得」を覚えていった。

今まで対魔術師の訓練をしたことのなかった俺は、この約1ヵ月の間に自分でも思った以上の戦闘能力を鍛えることができていた。
正直魔術闘技祭がどのレベルかわからないが、優勝も狙える気がしていた。

そういえば、一度「今なら魔女様とも張り合えるんじゃないかなぁ?」なんて呟いたけど、
胸のペンダントからは「それは無理ね~」とおちゃらけた声が聞こえただけだった。

「も……もっと! もっときて!!!」

遠くで師匠が叫ぶ。
俺は過去を振り返るのを止めて、もう一度背中から矢を一本取る。

意識を集中させる。

頭から足の先まですべての、魔力を、この矢に、注いでいく。

ヒュン

矢はまっすぐと風を切る。
込められた魔力の分だけ、矢は赤い揺らめきを纏うようになった。
矢の軌道、その一直線上には一本の細い糸のような鋭い赤い線が見えた。

矢はそのまま師匠の胸を射抜いていた。

「あああああん!!」

遠くの師匠からは、謎の喘ぎ声が聞こえた。
ちなみに師匠は分身なので、当て放題である。

「……いいわ……もう、最高よ……分身のはずなのに、ジンジンきちゃう……」

突然、俺の耳元にそんな声が響いた。
いつの間にか、本物の師匠は横に立っていたらしい。

「……合格よ。正直この1ヵ月でここまで成長できるとは思わなかったわ。アタシの指導力の賜物かしらね」
「もちろんです、おねえさま」

俺は師匠との距離の測り方もマスターしていた。

「これでおしまいよ、明日はいよいよ魔術闘技祭ね。今日はゆっくりと休むこと! いいわね!」
「はい!」

「それにしても、最後までアナタの魔力は不思議だったわ……なんなのかしら。アナタの魔力に時々とり付かれそうになっちゃったわ☆ また遊びましょうネ☆」
「あ……はぁ」

師匠は最後の最後まで、あの魔女に似ているな、と思った。



「ただいまー」

もう見慣れたギルバートの玄関の扉を開ける。
あれからというもの、ギルバートの家は平和そのものであった。

ユウリは驚くべきことに、ラルフと魔女調査を手伝っているようだった。
かなり相性が悪いというか、ユウリが一方的にラルフを好きではないのだとばかり思っていた。
そこでユウリにどうしてなのか聞いてみたが「ラルフさんはおにぃのためなら命でも身体でもなんでも張る! という事がわかったから許したの」と言っていた。
一体何があったかはわからないが、それ以上は聞かない方が良いと本能が告げていた、うん。

「……なんだ、この匂い」

リビングの方から、謎の不思議な匂いが漂ってきていた。
まず明らかに焦げ臭い。
そしてわずかながら、薬品のようなツンとする刺激臭を感じた。
どうにも鼻が曲がりそうだ。

「一体何なんだこれは!?」

俺は意を決すると、息をぐっと止めて、リビングの扉を勢いよく開けた。

「あ、おにぃ! おかえり」
「オ……オォ……」

そこには、なんとエプロン姿のラルフとユウリがいた。
ユウリはエプロンが大きすぎるのか膝下まで隠れてしまっている。
ラルフはというと―――明らかにピチピチである。
なんだか、けしからん。

「……じゃなくて! 何やってんだ!」

俺が怒ると、ラルフは左手で頬を掻きはじめる。
ユウリは俺の元へ駆け寄ると、ニッコリとほほ笑んだ。

「明日からはおにぃが頑張るお祭りだからね、ごちそうを作ろうと思ったの! その……頑張ってもらいたくて」
「いや、まァ、そういうことだ……ワリィな……」

俺はしょぼくれた顔のラルフとユウリを見て、大きくため息をついた。
そして目の前に広がるご馳走とは程遠い物体を、いかに調理すればいいのか、思考を巡らせていた。



「明日から……モグモグ……おにぃ、頑張ってね!」
「エル頑張れよ……ングング……オメェならさ……ングング……できるぜ、きっと」

2人は夕飯のトマトスープとパンで口をいっぱいに膨らませていた。
食材を無駄にすることなく、スープにうまく変身させた俺は、もっと褒められても良いんじゃないかと思う。
しかしユウリとラルフが美味しそうに平らげる姿を見ていると、最早どうでも良い気がした。

「そういえばギルバートは?」
「あぁ、あいつなら後で食うだとよ」
「一緒におにぃのためにご馳走作ろうって誘ったんだけどね……」

どうやらその反応からギルバートはその誘いを断ったらしい。
あれからというもの、ギルバートとは22時の儀式以外ほとんど会話をすることはなく、未だに距離を縮められずにいた。

嫌われるための行いをするほどに、本当に嫌われていくだけで、正直お手上げである。
今日も22時にギルバートに会わなければならないのだと思うと、少し心が重たい気さえしていた。
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