エンドレス   ~終わらせたい、終わらせたくない~

中野拳太郎

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第十章   父と子  一、小和田家

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   春日井から十九号線で多治見に入って来た。所々で車を停め、藪押の足取りを追ってみたが、影を見ることはできなかった。

 西嶋と森川が小和田家に着いたのが午後の三時。丘の上にある一軒家で、二階建ての家、四LDKだ。随分と年期の入った家である。
 駐車場が二台分しかないため、玄関先に停めさせてもらうことにした。二人は、車から降り、門を潜った。庭は手入れの行き届いた和風の佇まいだ。ちゃんと木や草の手入れがなされていた。
 定期的に自分でやっているのか、あるいは業者に頼んで処理しているのか分からなかったが、綺麗に整えられていた。

「明君は家に帰ってきましたか?」

 玄関で出迎えてくれたのが初老の背の低い男で名を昭雄あきおと言った。彩加の父親だ。髪の毛が随分後退している。
   横に申し訳なさそうに立っているのが、少しギスギスとした感のある痩せた女、母親の睦美むつみだ。

 リビングに通され、ソファに腰かけると、ショートカットヘアーの色白の女がお茶を運んできてくれた。目鼻立ちの整った、美形だ。

「小和田彩加さんですね」

「ええ。息子は二階にいますが、呼んできましょうか?」

「はい。お願いします」

 彩加は一旦席を外し、階段を登り、息子に下に降りてくるよう伝えた。動作がキビキビとしており、早い。

「今日は会社の方は、大丈夫だったんですか?」

 彩加が戻ってきてから訊いた。

「こんな状況です。早退をさせてもらいました」

「それは賢明です」

 西嶋は頷きながら言った。

 森川は、西嶋の話しの進め方を横で、黙って訊きながら、彩加を見ていると、しっかりとした芯の通った女性だな、そう思った。きっと離婚をし、一人息子を自分の手で守らないといけない、と。彼女からは、その意思を深く感じられた。ヘアースタイルもベリーショートで、活動的な、実にテキパキとした、自立した女性の印象を受けた。

「最近、別れた夫との交流はありませんでしたか?」

「電話でも申し上げあげましたが、私は離婚してからは、家のことで一度会った切り、それ以降は、会っていません。息子は、月一で会わせていましたが・・・・・・」

 はっきりとした物言い。こんな時でさえ、動揺を感じさせない。

「息子さんは、父親に対して、どのような、えっと、どう思っているのでしょう、か?」

 西嶋は少し喋りづらそうにしていた。

「私は、はっきり言って、もう関わり合いたくないのですが、明の方は・・・・・・やはり血が通っている分、その・・・・・・しょうがないのかな、って思います。裁判所からも、父親との面会は許されておりますし。ほんと、この子には苦労をかけさせてしまって。」

「分かります。一筋縄ではいかない、ですよね」

「はい」

 彩加は頷いた。

「では、息子さんは、父親と会う時にどんなことをしたり、話したりすのでしょうか?」

「詳しいことは訊いていないですが、主に食事に行くとのことです。時には、遊園地にも行ったことがある、だとか」

「そうですか」

 西嶋はお茶を一口啜った。

「じゃ最近では、いつ頃会いましたか?」

「先月の二十日に・・・・・・。あ、来た。明です」

 子供も色白で、母親と違い、少し弱々しい男の子だった。

「ほら、刑事さんに挨拶して」

「小和田明です」

 何事にもビクビクとしたような、そんな男の子だった。

「こんにちは。お母さんから訊いたんだけど。お父さんとは、先月の二十日に会ったのが最後なんだって?」

 西嶋が優しい声で訊くと、明はしっかりと頷いた。

「その時のことを詳しく教えてくれないかな。まず何時に会って、何処に行って、そこで何を話したか、そして、その時のお父さんの様子なんかを教えてくれると、有り難いんだけど」

 ぽつり、ぽつりとではあったが、明は話し出した。弱々しい男の子だな、そう思った。クラスでは溶け込めなさそうなタイプではないのか、と。



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