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ニ、何処に連れていかれるのか
しおりを挟むホンダの黒色のステップワゴンの前で立ち止まり、ワイヤレスで鍵を解除したところで、腕を掴まれた。
「久しぶりだな」
「ハッ」
思いの外ビクついた。
「声を立てるな」
背中に鋭いもので突き付けられているのが分かった。
「後ろを見るな。黙って車に乗れ」
言われたとおりに運転席に乗った。背後にいた男が素早く、助手席の方に廻り、乗り込んできた。そして、ナイフを首に突き付けてきた。
「や、藪押さん、ですね?」
声が震えてきた。
「覚えていてくれたか」
藪押が助手席に座った。何ともいえない威圧感を感じた。
「少し話しがしたいから、ここから車を出してくれないか」
そして、ナイフを喉元に向けてきた。
「頼む、殺さないでくれ」
手も、足も震えて、うまく対応がとれない。自分でも情けない、とは思ったが、今はそれどころじゃない。
「殺しはしないさ。それより、早く車を出してくれ」
藪押は、ゆっくりとナイフを仕舞った。
「携帯は切っておいてくれないか。面倒なことに、なりかねない」
坂戸は電源を切ろうと携帯に手をやると、着信が二件入っていた。素早く確認する。
彩加からだった。
時間まで確認する余裕はなかったので、何時にかかってきたのかは分からないが、五時まで仕事をしていることは知っているので、ついさっきだろう。
仕方がない。今は藪押に従うしかない。坂戸は携帯の電源を切った。
「これから進路を南にとって、百五十五号線から十五号線に入ってもらおうか。そして、中央本線の潤堂寺駅に向かってくれ。
そこに、かつて存在した旅館がある。現在は心霊スポットとして知られているあの陽炎旅館だ。開業一九二八年で、閉業が二千三年。知っているだろ。そこで話しがしたい」
坂戸は、藪押を見た。
あの目。人を萎縮させる目、ナイフのように鋭く尖った目が、こちらを睨むように見ている。そんな相手が自分の助手席に座っているのだ。ゆうことに従うしかない。
坂戸はエンジンをかけ、ハンドルに手をかけた。これから自分はどうなるのか・・・・・・。
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