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ヌイちゃんを探せ
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バラ園でのお茶会を早々に切り上げて、私とクラーラはウクラーリフのとある福祉施設へと向かった。
ウクラーリフやラフタシュでは、不用品の中で再利用できるものは福祉施設に寄付するというルールになっている。ゴミであっても廃棄処分する前に福祉施設の担当者に相談して、使えるものはそのまま回収してもらうのだ。そして“ヌイちゃん”も、回収されたのだろうと私は踏んだのである。
回収品は大まかな種類ごとに分けられて、どの施設に送るか決まるまでは一時保管場所に置かれる。その保管場所というのが、この福祉施設の倉庫という訳だ。
ちなみに、私が何でこんなことに詳しいのかというと、奉仕活動の一環として福祉施設の手伝いをしていたからだ。こんなところで役に立つとは、夢にも思っていなかった。
「クラーラ様、ヌイちゃんの特徴を教えていただけますか?」
ヌイちゃん探しを手伝ってくれる人々を集めてから、私はクラーラに問うた。
「えっと……毛並みはチョコレートのようなダークブラウンで、お耳の中はピンク色で……抱き抱えるのにぴったりな大きさで……首元には赤いリボンを蝶々結びにしてますの」
「なるほど、ありがとうございます。それでは手分けして搜索に入りましょう!」
「かしこまりました!」
そして私たちは、エプロンと三角巾を着けて“ヌイちゃん”の大捜索に乗り出したのである。
しかしそんな私やクラーラを見て、施設長が青ざめた顔で駆け寄って来たのだった。
「妃殿下……、あとは私たち施設職員の方でお探しいたしますので……」
「あら、人手が多い方が良いでしょうし、お気になさらないでくださいな」
「し、しかし……」
「ふふっ、こういった場でお手伝いすることは家族からも了承済みなので、ご心配には及びませんわ」
正直、似合わぬ派手なドレスを着て夜会に参加するよりも、こういった地道な作業のほうが向いている自覚がある。向き不向きとは、まさにこのことだろう。
「さて。袋にまとめて入れられてはいるけど、サイズ分けされてないから、順番に見ていかないと」
ぬいぐるみだけを数十個の袋に集められてはいるものの、サイズなどは全部バラバラである。それに、ぬいぐるみはクマに限らずサルやウマなど茶色の毛並みの動物が多いため、一つ一つ見ていく必要があるのだった。
「……どうせ腹の中では、ぬいぐるみなんて、って馬鹿にしてるんでしょ?」
隣で作業するクラーラは、私にそう言った。見ると、泣き腫らした目には再び涙が滲んでいたのだった。
「そんなこと、思う訳ないじゃないですか」
「無理しなくていいわよ。ぬいぐるみごときで泣き叫ぶバカ聖女とでも噂してもらって結構よ?」
「だって……ぬいぐるみ、一緒にいるだけで頼もしくって安心できるから、私も大好きですもの」
それは、心からの言葉であった。ぬいぐるみに支えられた身としては、クラーラのことを他人事とは思えなかったのである。
「……貴女」
「っ、クラーラ様、このおリボン、もしかして……!」
「え?」
袋の中から、私は一匹のクマのぬいぐるみを‘‘救出’’した。その子はチョコレート色の毛並みで、首には真っ赤なリボンを巻いていたのだった。
「っ、……ヌイちゃあああんっ!!」
ヌイちゃんを抱きしめるや否や、クラーラは堰を切ったように泣き出したのだった。
「良かった……」
それを見た人々は、自然と拍手していた。そして私もまた、手を叩いていたのである。
「皆様。この度はご協力いただきまして、誠にありがとうございました。無事に……」
「ユスティア妃殿下?」
私が締めの挨拶をしかけたタイミングで、聞き覚えのある声が聞こえてきたのだった。
見ると、倉庫の入口にはキーアスが立っていたのだった。
「妃殿下がいらしているとお聞きして来てみれば……こんなところでそんな格好で、一体どうされたのですか?」
「キーアス様、実は……」
「貴方には関係ないことでしょう!? 干渉して来ないで!」
私が話すより先に、クラーラはキーアスを怒鳴りつけた。そしてヌイちゃんを小脇に隠すように抱えて、彼女は走り去ってしまったのだった。
もしかしたら、子供じみた一面をキーアスに見られて恥ずかしくなったのかもしれない。そんなことを思いながら、私はキーアスに声をかけた。
「とりあえずクラーラ様の大事な“ご家族”が無事に見つかって、安心いたしましたわ」
「妃殿下、あのぬいぐるみ、まさか……?」
「?」
まるで言葉を失ったかのように、キーアスは黙り込んでしまったのだった。
+次は16:22に更新予定。
ついに明かされる、クラーラとキーアスの関係。
そして事情を聞いたリシャルドは何やら思いついたようで……?
お楽しみに♡
ウクラーリフやラフタシュでは、不用品の中で再利用できるものは福祉施設に寄付するというルールになっている。ゴミであっても廃棄処分する前に福祉施設の担当者に相談して、使えるものはそのまま回収してもらうのだ。そして“ヌイちゃん”も、回収されたのだろうと私は踏んだのである。
回収品は大まかな種類ごとに分けられて、どの施設に送るか決まるまでは一時保管場所に置かれる。その保管場所というのが、この福祉施設の倉庫という訳だ。
ちなみに、私が何でこんなことに詳しいのかというと、奉仕活動の一環として福祉施設の手伝いをしていたからだ。こんなところで役に立つとは、夢にも思っていなかった。
「クラーラ様、ヌイちゃんの特徴を教えていただけますか?」
ヌイちゃん探しを手伝ってくれる人々を集めてから、私はクラーラに問うた。
「えっと……毛並みはチョコレートのようなダークブラウンで、お耳の中はピンク色で……抱き抱えるのにぴったりな大きさで……首元には赤いリボンを蝶々結びにしてますの」
「なるほど、ありがとうございます。それでは手分けして搜索に入りましょう!」
「かしこまりました!」
そして私たちは、エプロンと三角巾を着けて“ヌイちゃん”の大捜索に乗り出したのである。
しかしそんな私やクラーラを見て、施設長が青ざめた顔で駆け寄って来たのだった。
「妃殿下……、あとは私たち施設職員の方でお探しいたしますので……」
「あら、人手が多い方が良いでしょうし、お気になさらないでくださいな」
「し、しかし……」
「ふふっ、こういった場でお手伝いすることは家族からも了承済みなので、ご心配には及びませんわ」
正直、似合わぬ派手なドレスを着て夜会に参加するよりも、こういった地道な作業のほうが向いている自覚がある。向き不向きとは、まさにこのことだろう。
「さて。袋にまとめて入れられてはいるけど、サイズ分けされてないから、順番に見ていかないと」
ぬいぐるみだけを数十個の袋に集められてはいるものの、サイズなどは全部バラバラである。それに、ぬいぐるみはクマに限らずサルやウマなど茶色の毛並みの動物が多いため、一つ一つ見ていく必要があるのだった。
「……どうせ腹の中では、ぬいぐるみなんて、って馬鹿にしてるんでしょ?」
隣で作業するクラーラは、私にそう言った。見ると、泣き腫らした目には再び涙が滲んでいたのだった。
「そんなこと、思う訳ないじゃないですか」
「無理しなくていいわよ。ぬいぐるみごときで泣き叫ぶバカ聖女とでも噂してもらって結構よ?」
「だって……ぬいぐるみ、一緒にいるだけで頼もしくって安心できるから、私も大好きですもの」
それは、心からの言葉であった。ぬいぐるみに支えられた身としては、クラーラのことを他人事とは思えなかったのである。
「……貴女」
「っ、クラーラ様、このおリボン、もしかして……!」
「え?」
袋の中から、私は一匹のクマのぬいぐるみを‘‘救出’’した。その子はチョコレート色の毛並みで、首には真っ赤なリボンを巻いていたのだった。
「っ、……ヌイちゃあああんっ!!」
ヌイちゃんを抱きしめるや否や、クラーラは堰を切ったように泣き出したのだった。
「良かった……」
それを見た人々は、自然と拍手していた。そして私もまた、手を叩いていたのである。
「皆様。この度はご協力いただきまして、誠にありがとうございました。無事に……」
「ユスティア妃殿下?」
私が締めの挨拶をしかけたタイミングで、聞き覚えのある声が聞こえてきたのだった。
見ると、倉庫の入口にはキーアスが立っていたのだった。
「妃殿下がいらしているとお聞きして来てみれば……こんなところでそんな格好で、一体どうされたのですか?」
「キーアス様、実は……」
「貴方には関係ないことでしょう!? 干渉して来ないで!」
私が話すより先に、クラーラはキーアスを怒鳴りつけた。そしてヌイちゃんを小脇に隠すように抱えて、彼女は走り去ってしまったのだった。
もしかしたら、子供じみた一面をキーアスに見られて恥ずかしくなったのかもしれない。そんなことを思いながら、私はキーアスに声をかけた。
「とりあえずクラーラ様の大事な“ご家族”が無事に見つかって、安心いたしましたわ」
「妃殿下、あのぬいぐるみ、まさか……?」
「?」
まるで言葉を失ったかのように、キーアスは黙り込んでしまったのだった。
+次は16:22に更新予定。
ついに明かされる、クラーラとキーアスの関係。
そして事情を聞いたリシャルドは何やら思いついたようで……?
お楽しみに♡
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