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勝者と敗者
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「ああ……この先どうして行けばいいんだ……!」
父上が頭を抱えて嘆いている姿を、私は子供の頃に何度見たかも分からない。自分の幼少期を色に例えると、黒に近い灰色がぴったりである。
親が事業に失敗したことにより、物心ついた頃には我が家はすっかり困窮していた。空腹の辛さもみじめさも、大人になった今でもよく覚えている。
私を孤児院に入れるか否か。夜中に両親がそんな話し合いをしていたことも、私は知っている。察するに、家族全員餓死するか否かのギリギリの選択を迫られていたのだろう。
そんなある日、とうとう父親は家財をすべて売り払うことを決める。今思えば、それが私の人生の分岐点だったのだろう。
売り払うものの中には、私が画用紙に描いた一枚の絵が紛れ込んでいた。それは拾った石炭の欠片を使って描いた、家の台所のスケッチであった。それが偶然にも、質屋を経て美術商に渡ったのである。
「旦那様、この子には間違いなく絵の才能があります! 今から絵を学んで行けば、絶対に将来、素晴らしい絵描きになるに違いありません!」
「とは言いましても……恥ずかしながら、画材を買う余裕はございませんので……」
「ならば、私がご用意いたします。その代わり、この絵を買い取らせていただきたいのですが……いかがでしょうか?」
こうして私は、美術商のおじさんに買い与えられた絵の具を使って、絵を描き始めたのである。
私の絵は大人たちから高く評価され、だんだんと高値で売れるようになっていった。正直、私は自分の作品の何が魅力なのかは分からない。しかし、両親が手を叩いて喜ぶのが嬉しくて、とにかく必死に絵を描き続けた。
やがて父上は、私の絵を売って得た収入を資本金として、新たな事業を立ち上げて成功させた。そしていつからか、我がハーロルド家は豪商と呼ばれるまでになっていたのである。
しかし、その頃になると私は薄々気づいていた。両親は私の絵が“高く売れる”から喜んでるのであり、絵そのものに価値があるとはまったく思っていないのだ……と。つまり他者から評価されなければ、私の絵は価値がないのだ。
私からすれば、絵を描くことは娯楽などではなく、生きるための手段に他ならなかったのである。
そんな折、私はとある絵画のコンクールでユスティアに遭遇する。そこで私は金賞を取り、ユスティアは銀賞であった。
傍から見れば、私の“勝ち”。しかし私は、授賞式後のパーティーで強烈な敗北感を味わうこととなる。
「銀賞だなんて、凄いじゃないかユスティア」
「おうちに帰ったら、お祝いしましょうね」
ユスティアの家族は、みな揃って彼女を褒め称えていた。金賞を取れなかったことを責めるでもなく、ただただ彼女を優しく労っていたのだ。
「……金賞じゃなくて、ごめんなさい」
「何言ってるんだ。よく頑張ったじゃないか」
「描いてて楽しめたならば、それで十分よ」
きっと、あの子の家族は……最下位を取ったとしても、たくさん褒めてるんだろうな。
結果を出さないと褒められない自分とは、まさに大違いである。そしてユスティアが貴族の令嬢だと知って、私はだんだんと苛立ちを募らせ始めていた。
裕福で不自由なく暮らせる貴族様は良いわね。
空腹の限界なんて、知らないくせに。
固くて噛みきれないようなパンなんて、どうせ食べたこともないくせに。
だから私は、ユスティアにわざと意地悪を言ったのだ。コンクール後に彼女が絵を描かなくなったと風の噂で聞いたものの、罪悪感は感じなかった。絵が描けなくなっても、彼女が安定して不自由ない生活を送れることが目に見えていたからだ。
その後、私には年の離れた弟と妹が生まれた。可愛い弟妹に苦しい生活をさせたくなくて、生活が安定してからも私はただただ絵を描き続けた。そしてユスティアに再会するまで、彼女のことなど頭から消え去っていたのだった。
懇親会でユスティアに再会した時、私は彼女の存在をようやく思い出した。しかしオドオドした態度に腹が立ち、わざと無視したのである。
本当に、目障りなのは変わらないわね。
心の中で、そんな悪態をついていたのだった。
+
大聖堂の階段を上って二階のバルコニーに出ると、王都の景色が一望できる。そこは私のお気に入りの場所であり、聖堂が一般開放されているため足繁く通う場所でもあった。
大聖堂のすぐ隣にある中央広場では、芸術祭の閉会式が行われている。壇上では国王陛下が閉会の言葉を述べていた。そして舞台上に用意された席に、ユスティアは王子殿下と隣同士で座っていた。
私はユスティアのことを密かに妬み、バカにしていた。そんな彼女に、私は今回の美術展で完全に“敗北”した。
悔しさに唇を噛み締めていると、背後から足音が聞こえてきたのだった。
「おや、君もここがお気に入りなのかい?」
「貴方はもしかして、ユスティア妃殿下の……」
「はい。兄のシモンと申します」
そう言って、シモンは私に会釈してきたのだった。
「それにしても、よく分かったね」
「……ご兄妹で、雰囲気がそっくりですもの」
「たしかに、どこか抜けてるところは兄妹で似てるかもしれないな」
そう言って、シモンはバルコニーへと歩み出た。そんな彼に、私はこう問いかけた。
「……せっかくの妹君の晴れ舞台なのですから、お近くでご覧になればよろしいのに」
「いや、今日は早く帰る予定だから、ここから見れるだけで十分さ。貴女こそ……芸術祭の主役なのに、どうしてここに?」
「……私は、主役ではありませんわ。今回の美術展での勝者は、あの子ですもの」
遠目で見ても晴れやかな表情をしているユスティアを見ながら、私は呟いた。
ユスティアは得意の風景画ではなく、花束を描いていた。
色とりどりの花は美しくありながらも、か弱さを感じさせない力強い筆致で描かれていた。それは愛する人への想い、そして彼女が内に秘めた芯の強さを、強烈に感じさせるものであった。
観客の投票では、私とユスティアの作品はほぼ同票だったという。そして特別審査員である美術の専門家たちから得られた票が、少しばかり私の方が多かったのだ。しかしそれは、小手先の技術で私が上回ったに過ぎない。それがなければ、どうなっていたか分からないのが事実だ。
そして、ユスティアが愛を伝えたかった相手ーーー王子殿下は、彼女の絵に投票していた。花束に込めた想いは、見事に彼に伝わったのである。
審査員が好きそうな構図で適当に絵を描いて、賞だけ取った自分。
金賞は逃したものの、最愛の人に選ばれたユスティア。
どちらが真の意味で“勝者”なのかは、明白だった。
初めて会った時と同じく、結局私はあの子には勝てないのだ。
「自分は美術に詳しくないから、何をもって勝者と見なすかは分からないけど……とりあえず、ユスティアよりも君を見てくれてる存在はいるんじゃないかな?」
「……え?」
「だって、ほら」
シモンに言われてバルコニーから下に目を向けると、忙しなく辺りを見回している両親と我が家の使用人たちがいた。
「誰にも言わずにここに来たのだろう? みんな心配してるよ」
「金ヅルが居なくなったなら、誰でも焦りますでしょう?」
とは言ったものの、両親もメイドもかなり取り乱しているようだった。その様子は、私が幼少期に家出した時と重なるものであった。
そんな両親たちの様子を窺っていると、見知った顔が何人も父上のところに集まって来たのだった。
「おじさん、ノエミーが居なくなったって本当!?」
「西の大通り沿いは見てきた? まだだったら見てくるわ!」
「とにかく、手分けして探そう!」
生活が苦しかった時にご飯を分けてくれた幼なじみや、お下がりの服を譲ってくれた近所のおばさん。みんな、どこからともなくやって来たのである。
「おや、ずいぶん増えてきたね」
「……国王陛下がお話されてるんだから、ちゃんと聞きなさいよ」
「ふふっ、そんなことよりも、君の安否の方が大事なんだよきっと」
何がおかしいのか、シモンは笑顔でそう言った。
「とりあえず。みんなが本当に君を金ヅルとしか思っていないのか、確かめるのはタダじゃないのかな?」
「……」
「嫌ならば、また行方をくらませば良いだけじゃないか。それでは、失礼」
そう言って、シモンはバルコニーから去って行ったのである。
「ノエミー、どこ?」
「ノエミー、居たら返事して!!」
自分を呼ぶ声が、夕焼け色に染まった市街地に響き渡る。
無様に‘‘負けた’’自分を受け入れてくれる存在が、いるというのか。正直、私はまだ半信半疑であった。
ため息を吐いて、私はバルコニーを後にした。
+次回はとうとう最終回。22:12更新予定です。
お楽しみに♡
父上が頭を抱えて嘆いている姿を、私は子供の頃に何度見たかも分からない。自分の幼少期を色に例えると、黒に近い灰色がぴったりである。
親が事業に失敗したことにより、物心ついた頃には我が家はすっかり困窮していた。空腹の辛さもみじめさも、大人になった今でもよく覚えている。
私を孤児院に入れるか否か。夜中に両親がそんな話し合いをしていたことも、私は知っている。察するに、家族全員餓死するか否かのギリギリの選択を迫られていたのだろう。
そんなある日、とうとう父親は家財をすべて売り払うことを決める。今思えば、それが私の人生の分岐点だったのだろう。
売り払うものの中には、私が画用紙に描いた一枚の絵が紛れ込んでいた。それは拾った石炭の欠片を使って描いた、家の台所のスケッチであった。それが偶然にも、質屋を経て美術商に渡ったのである。
「旦那様、この子には間違いなく絵の才能があります! 今から絵を学んで行けば、絶対に将来、素晴らしい絵描きになるに違いありません!」
「とは言いましても……恥ずかしながら、画材を買う余裕はございませんので……」
「ならば、私がご用意いたします。その代わり、この絵を買い取らせていただきたいのですが……いかがでしょうか?」
こうして私は、美術商のおじさんに買い与えられた絵の具を使って、絵を描き始めたのである。
私の絵は大人たちから高く評価され、だんだんと高値で売れるようになっていった。正直、私は自分の作品の何が魅力なのかは分からない。しかし、両親が手を叩いて喜ぶのが嬉しくて、とにかく必死に絵を描き続けた。
やがて父上は、私の絵を売って得た収入を資本金として、新たな事業を立ち上げて成功させた。そしていつからか、我がハーロルド家は豪商と呼ばれるまでになっていたのである。
しかし、その頃になると私は薄々気づいていた。両親は私の絵が“高く売れる”から喜んでるのであり、絵そのものに価値があるとはまったく思っていないのだ……と。つまり他者から評価されなければ、私の絵は価値がないのだ。
私からすれば、絵を描くことは娯楽などではなく、生きるための手段に他ならなかったのである。
そんな折、私はとある絵画のコンクールでユスティアに遭遇する。そこで私は金賞を取り、ユスティアは銀賞であった。
傍から見れば、私の“勝ち”。しかし私は、授賞式後のパーティーで強烈な敗北感を味わうこととなる。
「銀賞だなんて、凄いじゃないかユスティア」
「おうちに帰ったら、お祝いしましょうね」
ユスティアの家族は、みな揃って彼女を褒め称えていた。金賞を取れなかったことを責めるでもなく、ただただ彼女を優しく労っていたのだ。
「……金賞じゃなくて、ごめんなさい」
「何言ってるんだ。よく頑張ったじゃないか」
「描いてて楽しめたならば、それで十分よ」
きっと、あの子の家族は……最下位を取ったとしても、たくさん褒めてるんだろうな。
結果を出さないと褒められない自分とは、まさに大違いである。そしてユスティアが貴族の令嬢だと知って、私はだんだんと苛立ちを募らせ始めていた。
裕福で不自由なく暮らせる貴族様は良いわね。
空腹の限界なんて、知らないくせに。
固くて噛みきれないようなパンなんて、どうせ食べたこともないくせに。
だから私は、ユスティアにわざと意地悪を言ったのだ。コンクール後に彼女が絵を描かなくなったと風の噂で聞いたものの、罪悪感は感じなかった。絵が描けなくなっても、彼女が安定して不自由ない生活を送れることが目に見えていたからだ。
その後、私には年の離れた弟と妹が生まれた。可愛い弟妹に苦しい生活をさせたくなくて、生活が安定してからも私はただただ絵を描き続けた。そしてユスティアに再会するまで、彼女のことなど頭から消え去っていたのだった。
懇親会でユスティアに再会した時、私は彼女の存在をようやく思い出した。しかしオドオドした態度に腹が立ち、わざと無視したのである。
本当に、目障りなのは変わらないわね。
心の中で、そんな悪態をついていたのだった。
+
大聖堂の階段を上って二階のバルコニーに出ると、王都の景色が一望できる。そこは私のお気に入りの場所であり、聖堂が一般開放されているため足繁く通う場所でもあった。
大聖堂のすぐ隣にある中央広場では、芸術祭の閉会式が行われている。壇上では国王陛下が閉会の言葉を述べていた。そして舞台上に用意された席に、ユスティアは王子殿下と隣同士で座っていた。
私はユスティアのことを密かに妬み、バカにしていた。そんな彼女に、私は今回の美術展で完全に“敗北”した。
悔しさに唇を噛み締めていると、背後から足音が聞こえてきたのだった。
「おや、君もここがお気に入りなのかい?」
「貴方はもしかして、ユスティア妃殿下の……」
「はい。兄のシモンと申します」
そう言って、シモンは私に会釈してきたのだった。
「それにしても、よく分かったね」
「……ご兄妹で、雰囲気がそっくりですもの」
「たしかに、どこか抜けてるところは兄妹で似てるかもしれないな」
そう言って、シモンはバルコニーへと歩み出た。そんな彼に、私はこう問いかけた。
「……せっかくの妹君の晴れ舞台なのですから、お近くでご覧になればよろしいのに」
「いや、今日は早く帰る予定だから、ここから見れるだけで十分さ。貴女こそ……芸術祭の主役なのに、どうしてここに?」
「……私は、主役ではありませんわ。今回の美術展での勝者は、あの子ですもの」
遠目で見ても晴れやかな表情をしているユスティアを見ながら、私は呟いた。
ユスティアは得意の風景画ではなく、花束を描いていた。
色とりどりの花は美しくありながらも、か弱さを感じさせない力強い筆致で描かれていた。それは愛する人への想い、そして彼女が内に秘めた芯の強さを、強烈に感じさせるものであった。
観客の投票では、私とユスティアの作品はほぼ同票だったという。そして特別審査員である美術の専門家たちから得られた票が、少しばかり私の方が多かったのだ。しかしそれは、小手先の技術で私が上回ったに過ぎない。それがなければ、どうなっていたか分からないのが事実だ。
そして、ユスティアが愛を伝えたかった相手ーーー王子殿下は、彼女の絵に投票していた。花束に込めた想いは、見事に彼に伝わったのである。
審査員が好きそうな構図で適当に絵を描いて、賞だけ取った自分。
金賞は逃したものの、最愛の人に選ばれたユスティア。
どちらが真の意味で“勝者”なのかは、明白だった。
初めて会った時と同じく、結局私はあの子には勝てないのだ。
「自分は美術に詳しくないから、何をもって勝者と見なすかは分からないけど……とりあえず、ユスティアよりも君を見てくれてる存在はいるんじゃないかな?」
「……え?」
「だって、ほら」
シモンに言われてバルコニーから下に目を向けると、忙しなく辺りを見回している両親と我が家の使用人たちがいた。
「誰にも言わずにここに来たのだろう? みんな心配してるよ」
「金ヅルが居なくなったなら、誰でも焦りますでしょう?」
とは言ったものの、両親もメイドもかなり取り乱しているようだった。その様子は、私が幼少期に家出した時と重なるものであった。
そんな両親たちの様子を窺っていると、見知った顔が何人も父上のところに集まって来たのだった。
「おじさん、ノエミーが居なくなったって本当!?」
「西の大通り沿いは見てきた? まだだったら見てくるわ!」
「とにかく、手分けして探そう!」
生活が苦しかった時にご飯を分けてくれた幼なじみや、お下がりの服を譲ってくれた近所のおばさん。みんな、どこからともなくやって来たのである。
「おや、ずいぶん増えてきたね」
「……国王陛下がお話されてるんだから、ちゃんと聞きなさいよ」
「ふふっ、そんなことよりも、君の安否の方が大事なんだよきっと」
何がおかしいのか、シモンは笑顔でそう言った。
「とりあえず。みんなが本当に君を金ヅルとしか思っていないのか、確かめるのはタダじゃないのかな?」
「……」
「嫌ならば、また行方をくらませば良いだけじゃないか。それでは、失礼」
そう言って、シモンはバルコニーから去って行ったのである。
「ノエミー、どこ?」
「ノエミー、居たら返事して!!」
自分を呼ぶ声が、夕焼け色に染まった市街地に響き渡る。
無様に‘‘負けた’’自分を受け入れてくれる存在が、いるというのか。正直、私はまだ半信半疑であった。
ため息を吐いて、私はバルコニーを後にした。
+次回はとうとう最終回。22:12更新予定です。
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