完結♡聖女の狙いは私の旦那様!?~褒賞に選ばれた美貌の王子は、溺愛執着モードにチェンジしたようです~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中

文字の大きさ
50 / 50

二羽のカワセミ

しおりを挟む
「ユスティア妃殿下にご紹介いただいた絵の具、とっても発色が良くて感激ですわ!」

「あら、それは何よりですわ」

「妃殿下、実は最近私も絵を描き始めたのですが……なかなか上手くいかなくて」

 参加した夜会で、私は女性客たちと歓談をしていた。

 会場入りするや否やたくさんのお客に話しかけられたため、リシャルドとは一旦離れている。近頃は、社交の場でこんな風に夫婦別々に過ごすことも多々あることであった。

 美術展のあと、私は再び絵を描き始めた。ノエミーに勝ちたいとはもう思っていなかったものの、自然と創作意欲が湧いてきたからだ。

 それはきっと、リシャルドが過去の呪縛から解放してくれたからだろう。大切な人の一番になれたという安心感は、私にとってそれほどに大きなものだったのだ。

「妃殿下、お勧めの画材店があればぜひ教えていただきたくて。それと、風景画の構図で少しご相談が……」

「ちょっと貴女、いっぺんに話しすぎよ。少し落ち着きなさいな」

「だ、だって……妃殿下とお話しする機会なんてなかなかないんですもの!」

「ふふっ、そんなに焦らなくて大丈夫よ。今日で話し足りなかったら、お茶会を開催する時にご招待しますわ」

「えええっ、よろしいのですか!?」

「あ、抜け駆けしてずるいじゃない、私も参加したいわ!」

「……貴女たち、はしたないわよ」

「人数が多い方が楽しいですから、今度みんなでお茶会でもしましょうか」

 美術展をきっかけに、私に話しかけてくれる人は格段に増えた。絵を描くことが趣味の令嬢や、私の作品を気に入ってくれたご夫人……理由は様々だが、和気あいあいとみんなで楽しく過ごしている。

「お茶会ってことは……もしかして、妃殿下のアイシングクッキーが……?」

「こら、これ妃殿下を困らせないの!」

「もちろん、ご要望があれば、作ってきますわ」

「わあ、嬉しいです……!」

 絵を再開してからも、私はお菓子作りを辞めた訳ではない。

 モニカやメイベル、そしてクラーラにアイシングクッキーの作り方を教えたため、私の趣味がお菓子作りであることも世間に広まっていた。お茶会で可愛らしいお菓子を振る舞うと、客人は私の期待以上に喜んでくれるのだった。

「大人気じゃないか、ティア」

「リシャルド様」

 歓談に一区切りついたところで、リシャルドがやって来た。私は令嬢たちに挨拶してから、彼と手を組んで歩き出す。

「歓談の邪魔をしてしまったかな?」

「いえ、ちょうどひと段落したところでしたので」

「そっか、なら良かった。……君が楽しそうに過ごしてるのを見てるのもいいけど、やっぱり夫として隣を歩きたくなってしまうから、困ったものだよ」

「あら、それはどうしてですか?」

「せっかく美しく着飾った妻を、見せつけたいと思わない男がいると思うかい?」

 そう言って、リシャルドは微笑んだ。

 今宵の私は、翡翠色のドレスを着ていた。落ち着いた色合いがあるものの生地に透け感があり、差し色としてオレンジ色が散りばめられているため、華やかな一着だ。

 歩くたびに、オレンジ色の裾飾りや胸元のネックレスが揺れる。きっと少し前の自分ならば、恥ずかしさのあまり終始俯いていただろう。

 しかし、今の私が俯くことはない。

 背筋を伸ばして堂々としていなければ、せっかくのドレスが台無しになってしまうからだ。

「そう言っていただけて、光栄ですわ」

 謙遜することなくそう返すと、リシャルドは一層嬉しそうな表情となった。

 私と同じく、リシャルドもまた翡翠色にオレンジ色を効かせた夜会服を着ていた。そして彼の片耳には、私のネックレスと同じ宝石ーーーファイアオパールの耳飾りが煌めいている。

「もしかして、あのお二人の服装……カワセミをイメージにしてらっしゃる?」

 どこからか、そんな声が聞こえてきた。その予想は、ずばり大正解である。

「さすがに、気づかれてしまいましたね」

「ふふ、それもいいじゃないか」

 そんなことを話していると、夜会の主催者がパンパンと手を叩いた。どうやら、今回はここでお開きのようだ。

「……帰ったら、たくさん話したいな。二人きりで」

 客たちが玉座に目を向けたタイミングで、リシャルドはそう耳元で囁いてきた。離れていた時間が長かったこともあり、寂しかったのかもしれない。きっと今夜は、彼から離れられなくなってしまうのだろう。

 しかし、逃げる気は毛頭なかった。リシャルドに愛され、愛すること……愛を確かめ合うことに、愉しさを感じていたからだ。

 美貌の王子とは不釣り合いだ。

 彼に愛されているだなんて、思い上がりも甚だしい。

 もしかしたら、そんな陰口を叩く者も世の中には居るかもしれない。今宵の私の服装を、快く思わない人もいたことだろう。しかし誰に何と言われようと、リシャルドの隣を譲る気はなかった。

 釣り合わないならば、相応の努力をする。その覚悟はできていたからだ。

「はい、喜んで」

 美しく羽ばたく二羽のカワセミを思い描きながら、私はリシャルドに笑い返した。

終わり。

+
「聖女の狙いは私の旦那様!?~」を最後までお読みいただきまして、ありがとうございます。一途(腹黒)執着系の美形ヒーロー、いかがでしたでしょうか?

これまでもアルファポリスで投稿してましたが、本作は過去一の伸び具合でビビり倒しております。リシャルド、モッテモテェ……!

また次回作でもお会いできましたら嬉しいです。

それではお付き合いいただき、ありがとうございました♡
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

処理中です...