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あたたかな時間

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「でね、ヨアンナってば宝石の名前にもとっても詳しいの!!」

「それは凄いな、とっても物知りなんだね」

「い、いえ……本を読むことが多かっただけで」

「読書が好きなのか、それは良いことだ」

 夕食は、意外にも和やかに進んでいった。テレサの家族は皆、気高さはあれど優しい人々ばかりだったのである。

 家では一人で食事をとるのが常だったので、賑やかな食事は何だか新鮮だった。

「そう言えば、ヨアンナはどこの貴族学校に行ってたの? 私とお兄様は西の貴族学校だったけど。学区的に東?」

 この国では、貴族の子女は一年間貴族学校に通うのが通例だ。そこで貴族としてのしきたりや、教養を学ぶのだ。

 しかし、当然ながら私は通っていなかった。

「その……家の方針で通っていなくて。一応家庭教師を付けて勉強はしてましたが」

「え」

 テレサもヘンリクも、ぎょっと目を見開いた。その表情がそっくりで、二人が兄妹であるのだなと改めて感じた。

 気まずくなり、私は一口大にちぎったパン片手に俯いてしまった。すると、テレサが、思いもよらぬことを言ったのだった。

「学校通ってないのにそんな頭良いなんて、凄すぎない? 私もお兄様も学校通っても全然身に付いてないのに」

「そうだな、大したもんだ」

「お前は少しは否定しろ、ヘンリク」

 呆れたように、国王様は溜息をついた。そして私の方を向いたのだった。

「うちの娘も息子も学業面ではからっきしでね。君の真面目さを分けて欲しいくらいだ。是非、これからも仲良くしてやって欲しい」

「酷い、お父様!!」

「こらこら、テレサ。折角の可愛い顔が台無しじゃないか」

 テレサはむくれたように頬を膨らました。それをヘンリクか優しく窘める。きっと、これが彼らの日常なのだろう。

 自分の兄と口をきいたのなんて、いつが最後かも分からない。私にとって目の前の仲睦まじい兄妹は、眩しい存在であった。

「ヨアンナ、明後日の舞踏会も参加するの?」

「はい、その予定ですわ」

「嬉しい!! 見かけたらまた声かけるから!!」

「こらこら、テレサ。ヨアンナ嬢が困ってるだろう」

「は、はは……」

 そんなこんなで、無事ロイヤルファミリーとの食事は終了した。

 そして夕食を終えた後、テレサは馬車の前まで見送りに来てくれたのだった。

「今日はありがとう。とっても楽しかったわ。はい、これ。プレゼント」

 手渡されたのは、一粒ダイヤの輝くプラチナのイヤリングだった。

「そんな……!! こんな高価なもの、頂けませんわ!!」

「友達になった印よ。次の舞踏会に付けてきて頂戴、約束ね?」

「え、あ、テレサ様!?」

 私がイヤリングを返すより先に、テレサは私を馬車に押し込めた。

「じゃあね、おやすみなさい!!」

 馬車が動き始めたところで、テレサは笑顔で私に手を振ったのだった。

 ふっとため息を吐いてから馬車の中で私は、手の中のイヤリングを見つめた。月明かりに照らされて、ダイヤは白く煌めいている。

 少し強引だけど、純粋で何だか憎めない不思議な子。

 テレサに対してそんな感情を抱きつつ、明後日の舞踏会を楽しみに思い始めている自分がいた。
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