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♡令嬢、愛を誓う

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 窓から差し込む月明かりに照らされ、波打ったシーツは蒼白く染まっていた。

 白色の壁に、コバルトブルーのベッドの天蓋。夫婦の寝室を彩るのは、寒々しい色ばかりである。真夜中の室内はまるで、深海に迷い込んだような景色となっていた。

 しかし。もう風の冷たい季節だというのに、私は寒いとは全く感じていなかった。

 それはきっと、愛する男に情交の熱を与えられているからだろう。

「は、ぁ……っ、んっ、エドヴァルド様、ぁっ」

「ん……っ、メイベル様っ、」

「ひ、ぁ、んんっ」

 全ての衣服を取り払い、私達は寝台の上で交わっていた。

 胡坐をかいたエドヴァルドの脚の上に座り向かい合わせとなった体勢なので、彼に何も隠すことはできない。下から何度も突き上げられ、それに呼応するように胎内は彼を締め上げる。エドヴァルドは切なげに眉を寄せるものの、動きを止めることはなかった。

「……っ、ああっ」

 秘種を指で押され、私はあられもない声を上げた。彼により快楽を教え込まれたせいで、些細な刺激にすら過敏に反応してしまう。爪で小さな尖りを引っかかれただけで、身体の奥からじわりと蜜が滲んでいくのが分かってたまらなく恥ずかしい。

「メイベル様……っ、もう、……っ、ぐ」

「ひ、ぁ、っ……あああっ!!」

 熱い白濁が、最奥を射抜く。それにより、私は絶頂へと追いやられたのだった。

 腰を緩く揺らしながら、エドヴァルドは私にキスをした。幾度も身体を重ねたことにより、いつの間にか行為で感じるのは痛みではなく、満たされる幸福感だけとなっていた。

 身体的には、もうこれで満足だ。しかし、私達はまだ一つやることが残っていた。

「ん……エドヴァルド様、今日はどこになさいますか?」

 身体の熱が落ち着き始めたところで、私はエドヴァルドに問うた。すると彼は、少し考えてから私の胸元ーーー右鎖骨の下側に吸い付いたのだった。

「ん……っ、」

 肌を吸われる感覚の後に出来上がったのは、一つの鬱血痕。それは彼が私を所有するという印であった。

 毎夜お互いに愛痕を刻むというのが、私達夫婦の習慣となっていた。

 別に、相手の不貞を疑っている訳では無い。近寄って来る異性への威嚇でもない。離れている時でも、身体のどこかで相手を感じていたい。ただそれだけのことである。

「メイベル様は、いかがなさいますか?」

「……そうね」

 エドヴァルドの身体を上から下まで見回してから、私は下腹部の繋がりを絶って彼の脚から一旦降りた。そして、彼の下腹部に顔を埋めたのだった。

「……っ、ん、」

 私が選んだのは、ペニスの根元あたりの場所。そこは自分と彼しか絶対に見ない場所だ。しかし、下穿きを下ろす時は必ず彼が目にする部分でもある。その度に彼が今宵の情事を思い出すであろうことを踏んでの選択だ。我ながら、性格が悪いにも程がある。
 
「……ん、ちょっと意地悪が過ぎたかしら?」

 痕を付けてから、私は少しだけ後悔した。彼の頭の中を自分のことでいっぱいにしたいが、公務に支障が出るのは流石にまずいからだ。

「ふふ、何を今更。……でも、明日の夜は覚悟していてください」

「あら、怖い」

 私の髪に手櫛を通しながら、エドヴァルドは楽しげに言った。

 きっと昼間の我慢を強いた分、明日は夜になったら彼に激しく抱かれるに違い無い。しかし、愛しい男が雄になった姿を想像して、私は密かに期待に胸を躍らせていたのだった。
 
 お詫びとして、射精して柔らかくなった陰茎を口に含んだ。体液塗れとなった竿を舌で拭い、亀頭を半ばまで隠している包皮の隙間もくまなく舌で綺麗にしていく。

 一見、ただの後処理である。しかし、またもや私は悪いことを思いついてしまった。彼への性的なイタズラが無限に思い浮かぶのは、本当に悪い癖である。

「ん……っ、ふ、」

 掃除するふりをして、それとなく包皮を剥いて、先端を露出させる。そしてまとわりついた白濁を舐め取りながら、裏の筋や先端の穴を舌先で突いてみる。それらは全て、エドヴァルドが‘‘好きな場所’’であった。

「ふ、仕方ありませんね」

「……っ、ひ、あっ」

 エドヴァルドは私をシーツの上に組み敷いた。そして達したことで蕩けきった蜜口に、自身を埋め込んだのだった。

 先程よりも容赦の無い律動が始まり、私はあられもない声を上げた。

 私が意地悪を仕掛けて、彼がお仕置きを与える。それは喧嘩ではなく、夫婦だからできる遊びであった。

「ひ、あ……っ、エドヴァルド様、っ、さっきより……、んんっ」

「……っん、おかわりをご所望かと思いましたが、違いましたか?」

「そうですけど……っ、ああっ」

「そんなに可愛いらしくお強請りされたら、全力で応えるに決まってるでしょう?」

 ガツガツと責め立てられ、正気を手放しそうになる。しかし彼に深く愛されている今、私は間違いなく幸せの絶頂であった。

「……っ、は、エドヴァルド様、私、今……とっても幸せです……っ、ああっ」

「……っ、ぐ、」

 二回続けてのことであるのに、私は呆気なく果てた。彼もまた、私の虐め方をよく知っているのである。

 そして眠気がやってきたと思った時、エドヴァルドはポツリと呟いた。

「貴女を幸せに出来て、私も幸せです。……昔試した、おまじないのお陰でしょうか」

「おまじない……?」

「ええ。飲み物を入れたグラスに指を入れて、グラス側面に人の名前を書いてから飲み干すと、名前を書いた相手が幸せになれる……それを昔、貴女の名前でやってました」

「そのおまじないは覚えてますけど……少し意味が違いますわよ?」

「え……?」

「名前を書いた人が幸せになるんじゃなくて、名前を書いた人を‘‘自分が’’幸せに出来る。だからみんな、自分の名前でやってたんですもの」

 自分自身を幸せにする努力はできるにしても、他人の幸せを願うことができるのは稀有なことだ。子供ながらに、そんなことを思っていたのはよく覚えている。

「そうだったんですね、覚え間違いをしていたようでお恥ずかしい」

「でも、外れてはいませんわ。だって私が幸せなことには変わりありませんもの。それに……」

 不意に、頭の中で点と点が繋がった。私は考えるより先に、口を開いていたのだった。

「私の幸せには貴方が必要だった。だから人生をやり直すため、二人で生まれ変われた……とか?」

 結局、私達が前世の記憶を持って生まれてきた理由は分からないままだ。しかし、私を幸せにするという彼の願いを叶えるために起きたことだと考えたならば、ある程度は納得ができるものであった。

「なんて、考えすぎ……」

「……いいえ。きっとそれに違いありません」

 流石に突拍子もないことを言い過ぎたかと思ったが、意外にもエドヴァルドはその理屈が腑に落ちたようだった。

「生まれ変わってからメイベル様を初めてお見かけしてから私はずっと、貴女の幸せの一端を担いたいと思っていたのですから」

「……エドヴァルド様」

 惹かれ合うように、私達は深く唇をかさねた。すると頭を動かしたことで、ダイヤ型の飾りが三つ連なったイヤリングがしゃらりと音を立てたのだった。

 そしてエドヴァルドの片耳にも、私と同じ耳飾りが光っている。

 婚約した後、彼は私の魔力の半分を譲り受けたいと提案してきたのだ。力を手放すとなれば、自分の負担は格段に減る。だが彼に迷惑をかけたくないため、私は最初、その申し出を断ったのだった。

 しかし、エドヴァルドが引き下がることはなかった。苦しみを分かち合い、共に歩んでいきたいと。彼はそう言ってくれたのである。そして魔力が半減したことにより、私は自らの力を制御できるようになったのである。

「とはいえ、童話のように‘‘幸せに暮らしました’’と言って終わるには、まだ早すぎるでしょう」

 私の頬を撫でながら、彼は耳元で囁いた。

「私はまだ、貴女のことを愛し足らないのですから。メイベル様」

「そうですの?」

「この人生で、貴女としたいことは沢山ありますので」

「ふふ、嬉しい。でも私だって、貴方をもっと愛したいですわ、エドヴァルド様」

 私達のハッピーエンドは、まだ始まったばかり。

 変わらぬ愛を誓うように、私はエドヴァルドともう一度キスをした。

終わり。
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