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第6話 月下に舞う鍛冶職人
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「さあ、悪だくみはここまでにしましょう。今日のところはお引き取りください」
丁寧な物腰で語ってはいるが……あれも偽りだろう。
どうせ配下の者につけさせ、それから夜の闇に紛れて殺そうって魂胆だろう。
この場で抵抗するならば容赦なく叩き潰すつもりだ。
もはや俺に退路はないが、これも想定の範囲内だ。
このような状況に陥る可能性はすでに考慮してある。
ヤツらを懐柔し、意のままに操るため――
「そこをどきなさい、この腐れハゲ」
これからの予定をおさらいしていたら、ルチーナがまさかの暴言をガーベルへと投げつけていた。
「だ、誰が腐れハゲだ! まだハゲてはおらんぞ! ちゃんとサイドは存在感を示しているだろうが!」
怒る理由はそこかよ、と心の中でツッコミを入れる。
一方、ルチーナは止まらない。
「あんたはもう終わりよ! 私の新しい主はこちらのレーク・ギャラード様なんだから!」
「貴様! 助けてやった恩を忘れて!」
「どうせ私の作った武器を他国の商人に横流しするつもりだったのでしょう?」
「なぜそれを!?」
マジか。
それが事実だとすれば、騎士団や魔法兵団が黙っちゃいないぞ。
違法な裏闘技場がまかり通っていたのは、ここのリピーターに貴族がいたからだが、他国に手を出していたとなると彼らからの協力も得られなくなる。
何よりも保身を重んじる貴族どもからすれば、国家を裏切るような行為をしたガーベル側につくメリットなんてないからな。
「あんたのデスクを調べれば証拠の書類がわんさか見つかりそうね」
「ぐっ……」
おいおい、もうその辺にしておいてくれ。
これからこいつを利用してひと儲けしようと考えているのに、それを台無しにしかねない発言だぞ。
「こ、殺せ! こいつらをここで始末するんだ! トドメを刺したヤツには褒美もくれてやるぞ!」
案の定、ヤケクソになったガーベルは部下をけしかけて俺たちを襲わせる。
ちっ……いろいろと計画は狂ってしまった。
ヤツらを説得するのは難しそうだし、ここは一旦退いて態勢を立て直すべきか。
ルチーナにもそれを伝えようとしたのだが、
「ゾクゾクしてきますね」
……えっ?
なんか雰囲気変わってない?
君、そんな瞳ギラついてたっけ?
「また正義のために剣を作れる……剣を振れる……ああ……最上の幸福で体が満たされていくのが分かります」
恍惚とした表情で手にした剣をペロッと舐めるルチーナ。
ひょっとして……俺はとんでもないヤツを仲間に引き入れてしまったのでは?
深く追求するよりも先に、ルチーナはすぐ近くに置いてあった剣と斧を手にする。
強い武器と強い武器を掛け合わせたらもっと強くなるというバカの足し算みたいなことを披露するのだが、これが予想外の結果を招いた。
「はああああああああああっ!」
雄々しい雄叫びが夜空に響く。
直後、とんでもない瞬発力であっという間に闘士たちの距離を詰めたルチーナは、手にした武器を器用に振り回しながら蹴散らしていく。
小柄な体格に見合うスピードと、逆に見合わない桁外れのパワーで圧倒。
それに、武器の使い方も豪快だ。
剣が壊れたら今度は鞭。
斧が壊れたら今度はハンマー。
あらゆる武器を使いこなし、自分の身長よりも遥かに大きく、自分の体重よりも遥かに重い相手をバッタバッタとなぎ倒してった。
な、なんて戦闘力だ。
ルチーナ・ティモンズ――彼女は鍛冶職人としてだけではなく、闘士としても一流の腕前とセンスを持っていた。
「バ、バカな!?」
事の重大さにようやく気づいたガーベルだが、時すでに遅し。
周りの屈強な闘士たちはルチーナによってあっという間に戦闘不能状態に追い込まれてしまった。
「観念しなさい。あんたの悪事もこれまでよ」
「ま、まだだ! 闘技場にはまだ大勢の闘士たちがいる! 私がひと声かければこの場へ押し寄せてくるぞ!」
「なら、さっさとそいつらを全員呼びなさいよ。全滅させる手間が省けるから」
「な、何っ!?」
「……今日の私、ワイバーンが束になってかかってきても負ける気がしないんで」
なんというか……ルチーナの正義感が爆発している。
そもそも彼女に自分の正義を貫くよう伝えたのは俺自身なのだが、さすがにここまでの効果があるとは思わなかった。案外乗せられやすい性格らしい。
その後もやってくる闘士を片っ端から蹴散らしていった。
まるで今まで密かに溜まっていた鬱憤をすべてぶちまけるかのように暴れまくる。
それはもう、真っ白な月が悪党たちの血で赤く染まりそうなくらいの勢いで。
俺も一応剣術で援護はしているが、正直必要なさそうだな。
ついには闘士が誰ひとりとしていなくなってしまった。
「お、おのれ……これでは明日の試合が組めないじゃないか!」
この期に及んでまだ言うか。
もういろいろと手遅れなんだよ。
「もう裏闘技場は終わりだと分からないの? あんたがこれから気にしなくちゃいけないのは自分が横たわる棺桶の寝心地だけで十分よ」
「ひいっ!?」
ついにルチーナの持つ正義の矛先がガーベルへと向けられた。
相手が武器を持っていないということもあってか、ルチーナ自身も素手で挑んでいく。
それでもあっという間に組み伏せてしまうが……かなり強引な力技だ。
人体から絶対に聞こえてきてはいけない音がするし。
あと、棺桶の寝心地を気にしておけと言った割には半殺し程度で済ませていた。
無益な殺生を好まないというのも彼女なりの正義なのだろう。
「ふぅ……まあ、こんなところで許しましょうか」
全員をぶちのめしてようやく落ち着いたのか、ほっこりした笑みを浮かべる。
一方、俺はというとげっそりしていた。
せっかくこいつらをうまく利用し、学園入学前にひと儲けするはずだったのに……落胆していると、ルチーナの視線がこちらへと向けられていることに気づく。
褒めてくれと言わんばかりに瞳を輝かせているが、正直、大損害なので褒めたくないんだよなぁ。
それでも、長期的に考えたらここでルチーナのご機嫌を損ねるのは得策と呼べない。
彼女はこれから俺のためにバリバリ働いてもらわなくちゃいけないんだし、モチベーションを下げるような発言は避けるべきだろう。
ならば、俺の取るべき行動はひとつ。
「よくやったぞ、ルチーナ」
「悪は滅んで当然ですから! それに、ヤツらはレーク様に危害を加えようとしていましたし!」
待ってましたとばかりに言い放すルチーナ。
しかし、ここまで正義感が強く、そして俺に対する忠誠心の高いことには驚かされた。
……俺が思いっきり悪寄りの人間だとバレたらまずいんじゃないか?
ま、まあ、それはうまいこと誤魔化せばいい。
ギャラード家に代々伝わる話術《トーク力》で乗り切ってみせる。
逆に信じている間は適当な理由でもこちらの要望をしっかりと実行してくれそうな安心感がある。
新しいビジネスチャンスを逃す形となってしまったが、それ以上に得る物はあった。
ルチーナが当初の計画以上に早く俺を慕ってくれるようになったのは嬉しい誤算だ。
おかげで次のステップへ前進できる。
こうして、俺は専属秘書兼社畜第一号の確保に成功したのだった。
丁寧な物腰で語ってはいるが……あれも偽りだろう。
どうせ配下の者につけさせ、それから夜の闇に紛れて殺そうって魂胆だろう。
この場で抵抗するならば容赦なく叩き潰すつもりだ。
もはや俺に退路はないが、これも想定の範囲内だ。
このような状況に陥る可能性はすでに考慮してある。
ヤツらを懐柔し、意のままに操るため――
「そこをどきなさい、この腐れハゲ」
これからの予定をおさらいしていたら、ルチーナがまさかの暴言をガーベルへと投げつけていた。
「だ、誰が腐れハゲだ! まだハゲてはおらんぞ! ちゃんとサイドは存在感を示しているだろうが!」
怒る理由はそこかよ、と心の中でツッコミを入れる。
一方、ルチーナは止まらない。
「あんたはもう終わりよ! 私の新しい主はこちらのレーク・ギャラード様なんだから!」
「貴様! 助けてやった恩を忘れて!」
「どうせ私の作った武器を他国の商人に横流しするつもりだったのでしょう?」
「なぜそれを!?」
マジか。
それが事実だとすれば、騎士団や魔法兵団が黙っちゃいないぞ。
違法な裏闘技場がまかり通っていたのは、ここのリピーターに貴族がいたからだが、他国に手を出していたとなると彼らからの協力も得られなくなる。
何よりも保身を重んじる貴族どもからすれば、国家を裏切るような行為をしたガーベル側につくメリットなんてないからな。
「あんたのデスクを調べれば証拠の書類がわんさか見つかりそうね」
「ぐっ……」
おいおい、もうその辺にしておいてくれ。
これからこいつを利用してひと儲けしようと考えているのに、それを台無しにしかねない発言だぞ。
「こ、殺せ! こいつらをここで始末するんだ! トドメを刺したヤツには褒美もくれてやるぞ!」
案の定、ヤケクソになったガーベルは部下をけしかけて俺たちを襲わせる。
ちっ……いろいろと計画は狂ってしまった。
ヤツらを説得するのは難しそうだし、ここは一旦退いて態勢を立て直すべきか。
ルチーナにもそれを伝えようとしたのだが、
「ゾクゾクしてきますね」
……えっ?
なんか雰囲気変わってない?
君、そんな瞳ギラついてたっけ?
「また正義のために剣を作れる……剣を振れる……ああ……最上の幸福で体が満たされていくのが分かります」
恍惚とした表情で手にした剣をペロッと舐めるルチーナ。
ひょっとして……俺はとんでもないヤツを仲間に引き入れてしまったのでは?
深く追求するよりも先に、ルチーナはすぐ近くに置いてあった剣と斧を手にする。
強い武器と強い武器を掛け合わせたらもっと強くなるというバカの足し算みたいなことを披露するのだが、これが予想外の結果を招いた。
「はああああああああああっ!」
雄々しい雄叫びが夜空に響く。
直後、とんでもない瞬発力であっという間に闘士たちの距離を詰めたルチーナは、手にした武器を器用に振り回しながら蹴散らしていく。
小柄な体格に見合うスピードと、逆に見合わない桁外れのパワーで圧倒。
それに、武器の使い方も豪快だ。
剣が壊れたら今度は鞭。
斧が壊れたら今度はハンマー。
あらゆる武器を使いこなし、自分の身長よりも遥かに大きく、自分の体重よりも遥かに重い相手をバッタバッタとなぎ倒してった。
な、なんて戦闘力だ。
ルチーナ・ティモンズ――彼女は鍛冶職人としてだけではなく、闘士としても一流の腕前とセンスを持っていた。
「バ、バカな!?」
事の重大さにようやく気づいたガーベルだが、時すでに遅し。
周りの屈強な闘士たちはルチーナによってあっという間に戦闘不能状態に追い込まれてしまった。
「観念しなさい。あんたの悪事もこれまでよ」
「ま、まだだ! 闘技場にはまだ大勢の闘士たちがいる! 私がひと声かければこの場へ押し寄せてくるぞ!」
「なら、さっさとそいつらを全員呼びなさいよ。全滅させる手間が省けるから」
「な、何っ!?」
「……今日の私、ワイバーンが束になってかかってきても負ける気がしないんで」
なんというか……ルチーナの正義感が爆発している。
そもそも彼女に自分の正義を貫くよう伝えたのは俺自身なのだが、さすがにここまでの効果があるとは思わなかった。案外乗せられやすい性格らしい。
その後もやってくる闘士を片っ端から蹴散らしていった。
まるで今まで密かに溜まっていた鬱憤をすべてぶちまけるかのように暴れまくる。
それはもう、真っ白な月が悪党たちの血で赤く染まりそうなくらいの勢いで。
俺も一応剣術で援護はしているが、正直必要なさそうだな。
ついには闘士が誰ひとりとしていなくなってしまった。
「お、おのれ……これでは明日の試合が組めないじゃないか!」
この期に及んでまだ言うか。
もういろいろと手遅れなんだよ。
「もう裏闘技場は終わりだと分からないの? あんたがこれから気にしなくちゃいけないのは自分が横たわる棺桶の寝心地だけで十分よ」
「ひいっ!?」
ついにルチーナの持つ正義の矛先がガーベルへと向けられた。
相手が武器を持っていないということもあってか、ルチーナ自身も素手で挑んでいく。
それでもあっという間に組み伏せてしまうが……かなり強引な力技だ。
人体から絶対に聞こえてきてはいけない音がするし。
あと、棺桶の寝心地を気にしておけと言った割には半殺し程度で済ませていた。
無益な殺生を好まないというのも彼女なりの正義なのだろう。
「ふぅ……まあ、こんなところで許しましょうか」
全員をぶちのめしてようやく落ち着いたのか、ほっこりした笑みを浮かべる。
一方、俺はというとげっそりしていた。
せっかくこいつらをうまく利用し、学園入学前にひと儲けするはずだったのに……落胆していると、ルチーナの視線がこちらへと向けられていることに気づく。
褒めてくれと言わんばかりに瞳を輝かせているが、正直、大損害なので褒めたくないんだよなぁ。
それでも、長期的に考えたらここでルチーナのご機嫌を損ねるのは得策と呼べない。
彼女はこれから俺のためにバリバリ働いてもらわなくちゃいけないんだし、モチベーションを下げるような発言は避けるべきだろう。
ならば、俺の取るべき行動はひとつ。
「よくやったぞ、ルチーナ」
「悪は滅んで当然ですから! それに、ヤツらはレーク様に危害を加えようとしていましたし!」
待ってましたとばかりに言い放すルチーナ。
しかし、ここまで正義感が強く、そして俺に対する忠誠心の高いことには驚かされた。
……俺が思いっきり悪寄りの人間だとバレたらまずいんじゃないか?
ま、まあ、それはうまいこと誤魔化せばいい。
ギャラード家に代々伝わる話術《トーク力》で乗り切ってみせる。
逆に信じている間は適当な理由でもこちらの要望をしっかりと実行してくれそうな安心感がある。
新しいビジネスチャンスを逃す形となってしまったが、それ以上に得る物はあった。
ルチーナが当初の計画以上に早く俺を慕ってくれるようになったのは嬉しい誤算だ。
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