悪徳商人の無自覚英雄譚 ~悪行を善行と勘違いされる大商会の御曹司、気づけば世界を救う?~

鈴木竜一

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第18話 父からの呼び出し

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 クレイグの事件が解決して一ヵ月が経った。

 自室で課題に取り組みながら、ふとこれまでの学生生活を振り返ってみる。
 
 入学当初はクラスでも浮いた存在だった俺やコニーだが、今やすっかり打ち解けていた。

 特にコニーはその魅力に気づいた男子たちが殺到。
 しばらくは毎日のように告白をされていたようだが、そのたびに「私のすべてはレーク様のものだから」と言って断ったらしい。

 おかげで男子たちからは多少恨まれたが、最終的には「平民同士で仲良くやってくれ」という答えに落ち着いたらしく、最近は告白の数もめっきり減ったという。

 ようは負け惜しみだ。

 男子だけでなく、最近は女子すら魅了しつつあるその容姿とスタイルに加え、魔法使いとしても優秀なコニーからそこまで想われているとは……俺も罪な男だ。

 しかし、あまり周囲から恨みを買うようなマネは避けたいな。

 彼らは俺にとって大事な金の成る木――もとい、ビジネスパートナーとなる存在。
 今のうちからポイントを稼いでおくべき相手だ。

 卒業後、彼らが独立した際、何か困ったときにうちの商会へ相談し、それを俺以外の誰かが解決してくれる。
俺はただのんびりと解決するのを待ち、報酬だけたんまりいただく。

実に完璧な計画だ。
思わず自画自賛してしまうほどに。

それに向けてルチーナとコニーという頼もしい戦力を引き入れることに成功した。

彼女のたちの俺に対する忠誠心も日に日に増しているようだし、怖くなるくらい順調に進んでいるな。

あとは入学前から計画していた例の作戦を実行できれば文句ない。
すでに学園側の許可は下りているので、ここから準備を進めていこう。

……うん。

着実に夢へと近づいている。
堕落と愉悦に満ちた異世界生活は目前だ。

「レーク様、少しよろしいでしょうか」

 課題の途中ではあるが、ルチーナが部屋のドアをノックしながらそう告げる。
 始める前に「課題が終わるまでは放置しておいてくれ」と頼んでおいたが、それを無視してまで俺の部屋へとやってくる――これは何かあったな。

 ドアを開けると、目の前には小さな紙切れを手にしたルチーナが立っていた。

「それはなんだ?」
「ご当主様からのお手紙が届いております」
「父上から?」

 これもまた珍しいな。
 何かトラブルが発生していたとしても、息子である俺を頼るとは思えない。

 ルチーナから手紙を受け取るとその場で広げてみせた。
 内容は――

「明後日の休みはうちへ戻ってこい、か」
「随分と急なお話ですね」
「あぁ……何かあったのか?」

 学園は五日間通った後、一日だけ休みがある。
 それ以外で休む場合は申請が必要だった。
 
 まあ、貴族として様々な舞台に立たなければいけない生徒も多いので、割と欠席者は多いんだよな。その場合はあとで補習を受けるケースもあるみたいだが。

 ともかく、父上からの呼び出しに応じるため、ルチーナに申請を任せておく。

「コニーさんはどうしますか?」
「えっ? コニー?」
「誘えば喜んでついてくると思いますよ?」
「ふむ……そうだな。ついでに父上へ紹介しておくか」

 卒業して正式に商会の支部を任せてもらうようになったら、彼女は即戦力として大活躍してもらう予定でいる。

 そうなる前に顔合わせを済ませておけばスムーズに事を進められるか。
 
「よし。ではコニーへは俺が明日誘っておく」
「承知しました。くれぐれも誤解のない誘い方でお願いします」
「誤解? なんのことだ?」
「……いえ、なんでもありません」

 えっ?
 何その反応。

 ただ実家に招待して父親に挨拶をさせるだけなのに。
 それをどうやったら誤解するというのか。

 まったく、相変わらず美人だけど変なヤツだな、ルチーナは。

  ◇◇◇

「レーク様の実家でお父様に顔見せとご挨拶!?」

 翌日。
 教室で顔を合わせてすぐに昨日の件を話したらなぜか盛大に驚かれた。
 あと、なぜか周りの生徒たちも騒然としている。

「そうだ。何か問題があったか?」
「い、いえ、その、問題は別にないのですが……あまりにも急なお話だったので……」
「そうか。無理強いはできない。ではまたの機会に――」
「行かないとは言っていません!」

 珍しく大きな声を出したと、コニーは深呼吸をして何やらブツブツと呟きながら「よし!」と気合を入れてこちらへと向き直る。

 ……俺の実家へ行くのにそんな覚悟決める必要ある?

「分かりました。お義父様に認めていただけるよう、頑張ります!」
「うむ。――うん?」

 なんか、最後の方のニュアンスがおかしかったような……まあ、気のせいだろう。

 あと、周りの反応もちょっとおかしい。

「父親に紹介って……もうそこまで進展していたのか」
「う、羨ましい……」
「まあ、舞踏会のベストカップル賞に選ばれたふたりが卒業後にゴールインする確率って九割越えらしいから、時間の問題なんだろうけど」

 なんかいろいろと言われているようだが、そんなことは気にしない。
 頑固一徹を貫く父上が俺を呼び出した理由……面倒なトラブルではないと願うばかりだな。

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