悪徳商人の無自覚英雄譚 ~悪行を善行と勘違いされる大商会の御曹司、気づけば世界を救う?~

鈴木竜一

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第19話 新しいビジネスの予感

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 休日を利用し、俺はルチーナとコニーを連れて帰省。
 とはいえ、今回は父上による呼び出しなのであまり気乗りはしていない。

 わざわざ俺を呼び出すなんて……厄介ごとでも舞い込んできたか?
 考えられるのは先日起きたクレイグの一件だが、あれはベッカード家がヤツを追放処分したことで決着したはず。

 まったく見当もつかない状況のまま、屋敷に到着してすぐに父上の待つ書斎へと入っていった。

「来たか、我が息子よ」
「いきなり手紙で呼び出しとは、何かありましたか?」
「うむ、実は――と、そちらの子は?」

 父上の視線がコニーを捉える。
 それに気づいた彼女は背筋を伸ばしてから深々と頭を下げた。

「は、はじめまして! 私はレーク様と同じクラスのコニー・ライアルと申しましゅ!」

 最後の最後で噛んだな。
 クラスメイトを連れてきたことに父上は首を傾げていたが、そこに至るまでの経緯を説明すると納得してくれた。

「なるほど。ベッカード家の一件ではこちらにも話が来ている。息子さんによろしくと伝言をもらったくらいだ」

 どうやら俺の知らない間にうちと魔法兵団の上層部であるベッカード家とのつながりが深まっていたようだ。

「もしや、今日の呼び出しはそれを伝えるために?」
「いや、それはあくまでもおまけだ。本題は別にある」

 父上の眼光が鋭くなった。
 あれは商談をする際の目……つまり本気というわけだ。

「ガノスという町は知っているな?」
「当然です。我が国にとっては欠かすことのできない交易都市ですからね」

 この国で商人をやっている者でガノスを知らないなんて言うのはモグリだ。
 それくらい、あの町は重要視されている。
 言ってみれば経済拠点だ。

 規模としても国内トップクラス。

 町中には運河が流れており、そこには外国籍の船もある。
 ここで揃わないなら国内にあるどの町にも置いていないと言われるほど品数が豊富なのはこのためだ。

 あそこで店を出すのは商人にとって夢。

 もっとも、かなりの額の税金を支払わなくてはならないので店を出すにしても相当勇気がいるらしい。

「そのガノスにはすでにうちの商会がいくつか店を出しておるのだが、その一店舗をおまえに任せようと思ってな」
「ほ、本当ですか!?」
「こんなことで嘘はつかんさ。それに……ルチーナからの報告書によれば、例の計画についてようやく学園側からの許可を得られたのだろう?」
「っ!」

 正直、驚いた。
 
 俺の計画を覚えていて、しかもガノスという大都市から協力を得られるよう取りつけてくれたというのか。。
 常に安牌しか切らないような性格の父上にしては随分と思い切った判断だ。

「ほ、本当によろしいのですか?」
「無論だ。ここ最近のおまえの活躍を見て決断した。おまえはいい商人としての資質に溢れているからな。本当は小さな町の商会からスタートさせようかとも思ったが、その必要もないだろう」

 父上は相当俺をかってくれているようだな。

 しかし……悪い話じゃない。

 またしても嬉しい誤算ってヤツだ。
 脅しのネタがなくなってガックリとしていたが、あのガノスに店を構えられるというなら損失分をペイできる。

 それに、俺が学園内で計画しているアレについても追い風となった。

「ガノスはここから遠くない。今から行ってみたらどうだ? いくつかある店の者はみんなおまえのことを知っているし、遅くなれば宿の手配もしてくれるだろう」
「そうですね。せっかくここまで来たのですし、様子を見てきます」
 
 ガノスには幼い頃、父上に連れられて一度だけ行ったことがある。
 もうだいぶ昔の記憶だが、それでも鮮明に覚えていた。

 活気と熱気に溢れた町。
 それが素直な第一印象だったな。

 とはいえ、あくまでも俺が子どもの頃の記憶にすぎない。
 あれから数年経っているのでいろいろ変わっている面もあ牢だろうから、一度この目で見ておくべきだろう。

「ガノスかぁ……私はまだ一度も行ったことがないんだよねぇ」
「私は仕事で何度か」

 もうメイド姿が見慣れているけど、本来ルチーナって鍛冶職人なんだよな。
 まだ穏やかな笑顔が似合う頃の話だ。

 今ではひとりで裏闘技場の闘士たちを全滅させられるくらいたくましくなったけど。

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