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第219話 兄ビシェルからの手紙
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「ただいま~」
「おかえりなさいませ」
屋敷に戻ると、いつも通りテスラさんとエイーダがお出迎えをしてくれた――のだが、どうも様子がおかしい。なんだか、ふたりとも元気がないように見える。
「ど、どうかしたの?」
「その……こちらを」
なんだか気まずそうにテスラさんが差し出したのは一通の手紙だった。
誰からだろう、と送り主を確認した直後――俺は固まった。
「えっ? ビシェル兄さんから……?」
キャロライン姉さんの結婚式以降、顔すら合わせていないビシェル兄さんからの手紙だった。
その内容は、うちで開催されるパーティーへの招待状であった。
「パーティーの招待状……どうして今頃になって……」
俺と同じくらい、シルヴィアも動揺していた。
このジェロム地方へ移り住む前――実家にいた頃は、何かと俺を目の敵にしていたというのに、なぜパーティーへ招待したのか。
最初は疑問に感じていたが、手紙を読み進めているうちにその理由がハッキリした。
「あっ、兄さん出世したんだ」
魔法兵団に所属しているビシェル兄さんは、新たに分団長として部隊を持つことになったらしい。長きに渡って魔法兵団の重鎮として君臨してきたアインレット家の長兄としては順調な道をたどっていると言って過言ではない。
――ただ、ビシェル兄さんにはいろいろと疑惑がある。
それは、この霊峰ガンティアで行われていた魔鉱石の違法採掘。
これを指示していたのは、騎士団の人間で、兄さんとも親交があるフランコさんであった。兄さんが直接関与していた決定的な証拠は出てこなかったが、これをきっかけに騎士団や魔法兵団の中でビシェル兄さんの評価が変わりつつあった。
そんな中での分団長就任……あまり考えたくはないが、父上の威光が影響しているのかもしれないな。
この件については、シルヴィアの兄であるマーシャルさんも目を光らせていた。
実は、年齢が近いということで、ビシェル兄さんはマーシャルさんをライバル視している節がある。先に分団を任されたのも、マーシャルさんの方だったし。
しかし、だからと言ってまったく無視をするのもどうかという気持ちがあった――キャロライン姉さんの件があるからだ。
キャロライン姉さんもビシェル兄さんと同じく、実家にいる時は何かと俺に嫌味を言ってきたが、結婚と妊娠を経験して考えがガラッと変わり、結婚式の際に俺へ謝罪をしてくれた。
本人は俺にしてきた仕打ちをひどく後悔しており、本当に深く反省していたことが分かった。実際、テレイザさんから近況を聞くと、今も夫婦、そして子どもと仲良く平和に暮らしているという。
ビシェル兄さんにも、そうした心境の変化があったのではないか。
何かをきっかけに心を入れ替えた――それこそ、分団長就任という責任ある立場になったことで、考えを改めたのかもしれない。
「そうだといいのですが……」
俺やシルヴィアと同じくらいビシェル兄さんを昔から見続けてきているメイドのテスラさんは、俺の推察に対して懐疑的な考えのようだ。
……まあ、俺も全面的にこの考えが正しいとは思わない。
違法採掘とか、事実ならやっていることはキャロライン姉さんの比ではないからな。
「それで……パーティーへは出席するのか?」
不安げに尋ねてくるシルヴィア。
ここまでの話し合いから、パーティーへ参加するのはためらわれるというのが普通の流れなんだろうけど、
「行くよ」
俺はそう判断した。
「ほ、本当に行かれるのですか?」
「今回のパーティーが兄さんの分団長就任を祝うものなら、魔法兵団のお偉いさんたちも顔を出すはず。そんな大事な場面で、変なマネはしないだろう」
とはいえ、用心する必要はある。
パーティー開始まで、あと二週間。
それまでに情報を集めておくとしよう。
「おかえりなさいませ」
屋敷に戻ると、いつも通りテスラさんとエイーダがお出迎えをしてくれた――のだが、どうも様子がおかしい。なんだか、ふたりとも元気がないように見える。
「ど、どうかしたの?」
「その……こちらを」
なんだか気まずそうにテスラさんが差し出したのは一通の手紙だった。
誰からだろう、と送り主を確認した直後――俺は固まった。
「えっ? ビシェル兄さんから……?」
キャロライン姉さんの結婚式以降、顔すら合わせていないビシェル兄さんからの手紙だった。
その内容は、うちで開催されるパーティーへの招待状であった。
「パーティーの招待状……どうして今頃になって……」
俺と同じくらい、シルヴィアも動揺していた。
このジェロム地方へ移り住む前――実家にいた頃は、何かと俺を目の敵にしていたというのに、なぜパーティーへ招待したのか。
最初は疑問に感じていたが、手紙を読み進めているうちにその理由がハッキリした。
「あっ、兄さん出世したんだ」
魔法兵団に所属しているビシェル兄さんは、新たに分団長として部隊を持つことになったらしい。長きに渡って魔法兵団の重鎮として君臨してきたアインレット家の長兄としては順調な道をたどっていると言って過言ではない。
――ただ、ビシェル兄さんにはいろいろと疑惑がある。
それは、この霊峰ガンティアで行われていた魔鉱石の違法採掘。
これを指示していたのは、騎士団の人間で、兄さんとも親交があるフランコさんであった。兄さんが直接関与していた決定的な証拠は出てこなかったが、これをきっかけに騎士団や魔法兵団の中でビシェル兄さんの評価が変わりつつあった。
そんな中での分団長就任……あまり考えたくはないが、父上の威光が影響しているのかもしれないな。
この件については、シルヴィアの兄であるマーシャルさんも目を光らせていた。
実は、年齢が近いということで、ビシェル兄さんはマーシャルさんをライバル視している節がある。先に分団を任されたのも、マーシャルさんの方だったし。
しかし、だからと言ってまったく無視をするのもどうかという気持ちがあった――キャロライン姉さんの件があるからだ。
キャロライン姉さんもビシェル兄さんと同じく、実家にいる時は何かと俺に嫌味を言ってきたが、結婚と妊娠を経験して考えがガラッと変わり、結婚式の際に俺へ謝罪をしてくれた。
本人は俺にしてきた仕打ちをひどく後悔しており、本当に深く反省していたことが分かった。実際、テレイザさんから近況を聞くと、今も夫婦、そして子どもと仲良く平和に暮らしているという。
ビシェル兄さんにも、そうした心境の変化があったのではないか。
何かをきっかけに心を入れ替えた――それこそ、分団長就任という責任ある立場になったことで、考えを改めたのかもしれない。
「そうだといいのですが……」
俺やシルヴィアと同じくらいビシェル兄さんを昔から見続けてきているメイドのテスラさんは、俺の推察に対して懐疑的な考えのようだ。
……まあ、俺も全面的にこの考えが正しいとは思わない。
違法採掘とか、事実ならやっていることはキャロライン姉さんの比ではないからな。
「それで……パーティーへは出席するのか?」
不安げに尋ねてくるシルヴィア。
ここまでの話し合いから、パーティーへ参加するのはためらわれるというのが普通の流れなんだろうけど、
「行くよ」
俺はそう判断した。
「ほ、本当に行かれるのですか?」
「今回のパーティーが兄さんの分団長就任を祝うものなら、魔法兵団のお偉いさんたちも顔を出すはず。そんな大事な場面で、変なマネはしないだろう」
とはいえ、用心する必要はある。
パーティー開始まで、あと二週間。
それまでに情報を集めておくとしよう。
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