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第232話 苦悩
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部屋にとどまっているライザさん。
もしかしたら、ビシェル兄さんと何かあったのかもしれない。
心配になった俺とシルヴィアは、そんなライザさんのもとを訪れることにした。
「あの、ライザさん……ロイスです」
「シルヴィアです」
部屋のドアをノックし、俺たちが来たことを告げる。
なかなか返答がなく、不安が増した――と、
「……入って」
消え入りそうなライザさんの声がした。
「し、失礼します」
おずおずと、ドアを開けて室内へ。広々とした部屋の真ん中に置かれたイスに腰かけるライザさんの姿を発見する。こちらには背を向ける形となっているため、声をかけながらゆっくりと近づく。
「ラ、ライザさん……?」
「ごめんね、心配させちゃって……」
俺とシルヴィアが来たことに気づいて、ライザさんが振り返る。その目から、一筋の涙が――泣いていたのか。
「な、何かあったんですか!?」
慌てて駆け寄るシルヴィア。
そんな彼女の手を取ると、ライザさんは静かに首を横へ振った。
「もう大丈夫よ。気持ちの整理はついたから」
「っ!?」
その言葉を耳にした時、俺はなんとなく察することができた。
ライザさんとビシェル兄さんの関係――それはきっと、俺やシルヴィアのように仕組まれたものであるということ――言ってみれば政略結婚ってことだ。
「ライザさん……」
「あなたたちを見ていたら、私たちもうまくいくかもって思えたんだけどね……やっぱりちょっと難しそうかな」
……なるほど。
そういうことだったのか。
ライザさんが俺たちのところに来た真の目的は――自分たちと似た環境に置かれた俺とシルヴィアの関係を見て、うまくやれるかどうかを調べるためだったのか。
むろん、アインレット家との関係を断ち切るという選択肢もあるだろうが……この反応を見る限り、ライザさんはビシェル兄さんのことを――
「あの人の目に、私は映っていなかったみたいね」
「そ、そんなことは……」
「ない」――と、俺は断言できなかった。
ビシェル兄さんがどんな気持ちで婚約者のライザさんと接していたのか、家を出てからほとんどかかわりのなかった俺には知る由もない。
むしろ、ある意味、俺よりずっと近い立場でビシェル兄さんを見続けていたライザさんだからこそ分かることもあるのだろう。
しばらくの間、お互いに何も言えず沈黙が続く。
――その重苦しい流れを断ち切ったのは、意外にもライザさん自身であった。
「ありがとう、ふたりとも……おかげで元気が出たわ」
「い、いえ、おかげも何も、俺たちはライザさんに――」
「違うわ。ここへふたり揃って来てくれた……それだけで、私の心は救われたから」
そう言って、ライザさんは俺とシルヴィアのふたりを同時に抱きしめる。
「あなたたちはどうか……このままもずっと変わらないふたりでいてね」
俺たちの耳元でそう囁くと、ライザさんは顔を離す。
その表情は、さっきまでとまるで別人ではないかと錯覚するくらい明るく晴れやかなものであった。
「ちょっと行ってくるわね」
最後にそれだけ告げると、ライザさんは部屋を出て行ってしまった。
「ど、どうする、ロイス?」
「どうするもこうするも……たぶん、パーティー会場へ向かったと思うから、俺たちもあとを追おう」
「そ、そうだな」
しばらく呆気に取られていた俺たちだが、ライザさんを追って会場へと戻ることにした。
もしかしたら、ビシェル兄さんと何かあったのかもしれない。
心配になった俺とシルヴィアは、そんなライザさんのもとを訪れることにした。
「あの、ライザさん……ロイスです」
「シルヴィアです」
部屋のドアをノックし、俺たちが来たことを告げる。
なかなか返答がなく、不安が増した――と、
「……入って」
消え入りそうなライザさんの声がした。
「し、失礼します」
おずおずと、ドアを開けて室内へ。広々とした部屋の真ん中に置かれたイスに腰かけるライザさんの姿を発見する。こちらには背を向ける形となっているため、声をかけながらゆっくりと近づく。
「ラ、ライザさん……?」
「ごめんね、心配させちゃって……」
俺とシルヴィアが来たことに気づいて、ライザさんが振り返る。その目から、一筋の涙が――泣いていたのか。
「な、何かあったんですか!?」
慌てて駆け寄るシルヴィア。
そんな彼女の手を取ると、ライザさんは静かに首を横へ振った。
「もう大丈夫よ。気持ちの整理はついたから」
「っ!?」
その言葉を耳にした時、俺はなんとなく察することができた。
ライザさんとビシェル兄さんの関係――それはきっと、俺やシルヴィアのように仕組まれたものであるということ――言ってみれば政略結婚ってことだ。
「ライザさん……」
「あなたたちを見ていたら、私たちもうまくいくかもって思えたんだけどね……やっぱりちょっと難しそうかな」
……なるほど。
そういうことだったのか。
ライザさんが俺たちのところに来た真の目的は――自分たちと似た環境に置かれた俺とシルヴィアの関係を見て、うまくやれるかどうかを調べるためだったのか。
むろん、アインレット家との関係を断ち切るという選択肢もあるだろうが……この反応を見る限り、ライザさんはビシェル兄さんのことを――
「あの人の目に、私は映っていなかったみたいね」
「そ、そんなことは……」
「ない」――と、俺は断言できなかった。
ビシェル兄さんがどんな気持ちで婚約者のライザさんと接していたのか、家を出てからほとんどかかわりのなかった俺には知る由もない。
むしろ、ある意味、俺よりずっと近い立場でビシェル兄さんを見続けていたライザさんだからこそ分かることもあるのだろう。
しばらくの間、お互いに何も言えず沈黙が続く。
――その重苦しい流れを断ち切ったのは、意外にもライザさん自身であった。
「ありがとう、ふたりとも……おかげで元気が出たわ」
「い、いえ、おかげも何も、俺たちはライザさんに――」
「違うわ。ここへふたり揃って来てくれた……それだけで、私の心は救われたから」
そう言って、ライザさんは俺とシルヴィアのふたりを同時に抱きしめる。
「あなたたちはどうか……このままもずっと変わらないふたりでいてね」
俺たちの耳元でそう囁くと、ライザさんは顔を離す。
その表情は、さっきまでとまるで別人ではないかと錯覚するくらい明るく晴れやかなものであった。
「ちょっと行ってくるわね」
最後にそれだけ告げると、ライザさんは部屋を出て行ってしまった。
「ど、どうする、ロイス?」
「どうするもこうするも……たぶん、パーティー会場へ向かったと思うから、俺たちもあとを追おう」
「そ、そうだな」
しばらく呆気に取られていた俺たちだが、ライザさんを追って会場へと戻ることにした。
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