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第233話 姉妹
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会場へ戻った俺たち――だが、そこから特にこれといったトラブルもなく、パーティーは自然な流れのまま終了となった。
ライザさんは何もしなかったのだろうか。
そんな疑問が浮かんだものの、終了後すぐに父上とビシェル兄さんが慌てた様子で書斎へと入っていく姿を目撃。あとを追おうとしたが、「たとえ家族であっても近づけるな」と命じているらしく、俺たちですら行動の詳細は掴めなかった。
しかし……裏を返せば、ライザさんが強烈なカウンターをビシェル兄さんに食らわせ、その対応に追われているとも捉えられる。
俺のこの読みはどうも正解らしく、書斎から漏れ聞こえる会話の中に何度か彼女の名前が出てきていた。
一体、何を言ったんだろう。
婚約破棄を突きつけたのかな。
ふたりのあの慌てようを見る限り、その説が濃厚だ。
一階に戻ってくると、帰り支度をしているキャロライン姉さんたちと出くわす。
「あれ? 姉さんたちはもう帰るんですか?」
「えぇ」
「実は明日、私が王国議会に出席する予定なんだ」
ジルベールさんが王国議会に……と言っても、話を聞いたら領地運営に関する定期報告らしい。
「シルヴィアさん、ちょっといいかしら」
見送ろうとする俺たちに、キャロライン姉さんはそう告げた。
名前を呼ばれたシルヴィアは、少し緊張した面持ちで姉さんの前へと出る。
「もし、ロイスとの間に赤ちゃんができて、何か困ったことが起きたらなんでも私に相談して頂戴」
「キャ、キャロライン義姉様……」
シルヴィアの肩を優しく抱くキャロライン姉さんは、実に優しげな表情をしていた。
……俺がまだこちら側にいる時は、あんな表情したことなかったな。
常に富と名声を求めるって感じだったけど、本当に結婚と出産を通して人が変わったみたいだ。もちろん、これは嫁ぎ先であるヴィンクス家の人たちによる影響も大きいのだろうが。
「いやぁ……美しい光景だぁ……」
そのヴィンクス家の現当主であるジルベールさんは、抱き合うシルヴィアとキャロライン姉さんを見て瞳を潤ませていた。
こういうタイプの人は、うちにいなかったからなぁ。
母上はまともだったけど、ちょっと違うし。
シルヴィアとしても、他が全員兄という環境の中で育ったため、キャロライン姉さんのようなタイプとはこれまで接したことがなかったのだろう。
マーシャルさんはとても素晴らしい人だけど、こちらもやっぱりタイプが違う。
さらに言えば、キャロライン姉さんにとっても義理とはいえ妹という存在はこれが初めて。しかも、まともに付き合いを持ったのは自分の結婚式からであり、まだ数ヶ月しか経っていないのだ。
それを踏まえると、ふたりの関係はようやく姉妹らしさを見せてきたとも言えた。
キャロライン姉さんとジルベールさんを見送った後、俺たちはテスラさんとともに今日泊まる部屋へとやってきた。
「そういえば、母上は?」
「今は自室にいらっしゃいます。今日はお疲れのようですね」
「ならば、挨拶は明日の朝にした方がよさそうかな?」
「それがよろしいかと」
シルヴィアの質問にそう返すテスラさん。
母上としても、心労がたまっているのだろうな。
この辺についても、姉さんと相談しながらなんとか解決策を見出さないといけない。
こうして、多少の波乱はあったものの、兄さんの分団長就任パーティーは幕を閉じる。
――ただ、これはこの後に始まる新たな混乱の火種にしか過ぎなかったのだった。
ライザさんは何もしなかったのだろうか。
そんな疑問が浮かんだものの、終了後すぐに父上とビシェル兄さんが慌てた様子で書斎へと入っていく姿を目撃。あとを追おうとしたが、「たとえ家族であっても近づけるな」と命じているらしく、俺たちですら行動の詳細は掴めなかった。
しかし……裏を返せば、ライザさんが強烈なカウンターをビシェル兄さんに食らわせ、その対応に追われているとも捉えられる。
俺のこの読みはどうも正解らしく、書斎から漏れ聞こえる会話の中に何度か彼女の名前が出てきていた。
一体、何を言ったんだろう。
婚約破棄を突きつけたのかな。
ふたりのあの慌てようを見る限り、その説が濃厚だ。
一階に戻ってくると、帰り支度をしているキャロライン姉さんたちと出くわす。
「あれ? 姉さんたちはもう帰るんですか?」
「えぇ」
「実は明日、私が王国議会に出席する予定なんだ」
ジルベールさんが王国議会に……と言っても、話を聞いたら領地運営に関する定期報告らしい。
「シルヴィアさん、ちょっといいかしら」
見送ろうとする俺たちに、キャロライン姉さんはそう告げた。
名前を呼ばれたシルヴィアは、少し緊張した面持ちで姉さんの前へと出る。
「もし、ロイスとの間に赤ちゃんができて、何か困ったことが起きたらなんでも私に相談して頂戴」
「キャ、キャロライン義姉様……」
シルヴィアの肩を優しく抱くキャロライン姉さんは、実に優しげな表情をしていた。
……俺がまだこちら側にいる時は、あんな表情したことなかったな。
常に富と名声を求めるって感じだったけど、本当に結婚と出産を通して人が変わったみたいだ。もちろん、これは嫁ぎ先であるヴィンクス家の人たちによる影響も大きいのだろうが。
「いやぁ……美しい光景だぁ……」
そのヴィンクス家の現当主であるジルベールさんは、抱き合うシルヴィアとキャロライン姉さんを見て瞳を潤ませていた。
こういうタイプの人は、うちにいなかったからなぁ。
母上はまともだったけど、ちょっと違うし。
シルヴィアとしても、他が全員兄という環境の中で育ったため、キャロライン姉さんのようなタイプとはこれまで接したことがなかったのだろう。
マーシャルさんはとても素晴らしい人だけど、こちらもやっぱりタイプが違う。
さらに言えば、キャロライン姉さんにとっても義理とはいえ妹という存在はこれが初めて。しかも、まともに付き合いを持ったのは自分の結婚式からであり、まだ数ヶ月しか経っていないのだ。
それを踏まえると、ふたりの関係はようやく姉妹らしさを見せてきたとも言えた。
キャロライン姉さんとジルベールさんを見送った後、俺たちはテスラさんとともに今日泊まる部屋へとやってきた。
「そういえば、母上は?」
「今は自室にいらっしゃいます。今日はお疲れのようですね」
「ならば、挨拶は明日の朝にした方がよさそうかな?」
「それがよろしいかと」
シルヴィアの質問にそう返すテスラさん。
母上としても、心労がたまっているのだろうな。
この辺についても、姉さんと相談しながらなんとか解決策を見出さないといけない。
こうして、多少の波乱はあったものの、兄さんの分団長就任パーティーは幕を閉じる。
――ただ、これはこの後に始まる新たな混乱の火種にしか過ぎなかったのだった。
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