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第238話 記憶喪失
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「私の名前は……一体どこから来て……」
山猫の獣人族たちが暮らすルトア村近くで保護された少女は、自身に関する記憶のすべてを失っていた。
ただ、断片的に残っているものもあるらしく、それによってかろうじて「フィーネ」という名前だけは思い出せた。
「そうか。フィーネというんだね」
「は、はい……たぶん、それが私の名前です」
どうやらその名前も、自分の名前だと胸を張って言えるわけではないらしい。
「弱ったな……彼女の身元がハッキリしない以上、もと暮らしていた場所へ送り届けるのも難しい」
「そうだな。――フィーネ。自分が暮らしていた場所に、何か心当たりはないか?」
「そ、それは……」
シルヴィアからの問いかけに対し、俯いて黙ってしまったフィーネ。どうやら、手がかりはここまでか。
俺はフィーネから直接情報を聞きだすことをあきらめ、ディランさんや彼女を見つけた山猫の獣人族たちに詳しい当時の状況を聞くことにした。その際、このジェロム地方の地図を用いて、発見した正確な場所を示してもらう。
「あの子を保護した場所は大体この辺りだな」
ディランさんが指さしたのは森の東側であった。
さらに詳しい話を聞くと、彼女はその辺りに流れている小川に沿うよう歩いていたという。
「……川をたどれば、いずれは人のいる場所に出ると思っていたのかな」
足取りを追っていくと、フィーネは何かから逃げるようにこのジェロム地方へと行き着き、人のいる場所を求めて川を進んでいたのではないかと推測できた。
では、その小川を彼女が歩いてきた方向とは逆に追ってみると、
「っ! 海に出るな……」
近くにこれといって大きな町があるわけではなく、進んでいるうちに海へと出た。この進路上のどこかで何者かに襲われ、こちらへと逃げてきたって可能性は考えられるが……今の状況で分かるのはここまでか。
こうなったら――現地に出向くしかないだろう。
「ディランさん、俺たちは一度アダム村へ戻って準備をしてきます」
「準備? 何のだ?」
「彼女が歩いてきた道を進んで行こうと思います。もしかしたら、彼女の身元が分かるヒントがあるかもしれませんし」
フィーネの服装から、生まれはかなりの良家であることがうかがえる。だとすれば、彼女の実家では今頃大騒ぎになっているだろうからな。
「しかし……あの様子だと、かなりの距離を歩いてきたと思うが」
「そのために、マックを連れて来ます。あと、どれだけ遠く離れていても、転移魔法陣さえあれば一瞬で戻ってこられますし」
「そういえばそうだった。……まったく、おまえの無属性魔法とやらは本当に便利だな」
ちょっと呆れたように語るディランさん。
まあ、この万能さあってこその無属性魔法だしね。
俺とシルヴィアは一度アダム村へと戻り、旅支度を整えた。
今回は長距離移動もあるかもしれないので、愛羊のマックにも同行してもらう。
「頼むぞ、マック」
「メェ~」
マックもヤル気十分だな。
最後に、お互いに念のため武器を携帯し、準備は完了。
再び転移魔法陣を使ってルトア村へと向かい、そこからフィーネの正体を探るため、彼女が歩いてきた道を進んで行くことにした。
山猫の獣人族たちが暮らすルトア村近くで保護された少女は、自身に関する記憶のすべてを失っていた。
ただ、断片的に残っているものもあるらしく、それによってかろうじて「フィーネ」という名前だけは思い出せた。
「そうか。フィーネというんだね」
「は、はい……たぶん、それが私の名前です」
どうやらその名前も、自分の名前だと胸を張って言えるわけではないらしい。
「弱ったな……彼女の身元がハッキリしない以上、もと暮らしていた場所へ送り届けるのも難しい」
「そうだな。――フィーネ。自分が暮らしていた場所に、何か心当たりはないか?」
「そ、それは……」
シルヴィアからの問いかけに対し、俯いて黙ってしまったフィーネ。どうやら、手がかりはここまでか。
俺はフィーネから直接情報を聞きだすことをあきらめ、ディランさんや彼女を見つけた山猫の獣人族たちに詳しい当時の状況を聞くことにした。その際、このジェロム地方の地図を用いて、発見した正確な場所を示してもらう。
「あの子を保護した場所は大体この辺りだな」
ディランさんが指さしたのは森の東側であった。
さらに詳しい話を聞くと、彼女はその辺りに流れている小川に沿うよう歩いていたという。
「……川をたどれば、いずれは人のいる場所に出ると思っていたのかな」
足取りを追っていくと、フィーネは何かから逃げるようにこのジェロム地方へと行き着き、人のいる場所を求めて川を進んでいたのではないかと推測できた。
では、その小川を彼女が歩いてきた方向とは逆に追ってみると、
「っ! 海に出るな……」
近くにこれといって大きな町があるわけではなく、進んでいるうちに海へと出た。この進路上のどこかで何者かに襲われ、こちらへと逃げてきたって可能性は考えられるが……今の状況で分かるのはここまでか。
こうなったら――現地に出向くしかないだろう。
「ディランさん、俺たちは一度アダム村へ戻って準備をしてきます」
「準備? 何のだ?」
「彼女が歩いてきた道を進んで行こうと思います。もしかしたら、彼女の身元が分かるヒントがあるかもしれませんし」
フィーネの服装から、生まれはかなりの良家であることがうかがえる。だとすれば、彼女の実家では今頃大騒ぎになっているだろうからな。
「しかし……あの様子だと、かなりの距離を歩いてきたと思うが」
「そのために、マックを連れて来ます。あと、どれだけ遠く離れていても、転移魔法陣さえあれば一瞬で戻ってこられますし」
「そういえばそうだった。……まったく、おまえの無属性魔法とやらは本当に便利だな」
ちょっと呆れたように語るディランさん。
まあ、この万能さあってこその無属性魔法だしね。
俺とシルヴィアは一度アダム村へと戻り、旅支度を整えた。
今回は長距離移動もあるかもしれないので、愛羊のマックにも同行してもらう。
「頼むぞ、マック」
「メェ~」
マックもヤル気十分だな。
最後に、お互いに念のため武器を携帯し、準備は完了。
再び転移魔法陣を使ってルトア村へと向かい、そこからフィーネの正体を探るため、彼女が歩いてきた道を進んで行くことにした。
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