無属性魔法って地味ですか？ 「派手さがない」と見捨てられた少年は最果ての領地で自由に暮らす

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第２８７話 変わりゆく環境

　学校の建設は順調に進んでいた。
　さらに、ここで思わぬサプライズが起きた。
　アダム村を訪れていたとある商会が、今回の試みを耳にしてぜひともその活動を支援したいと名乗り出てくれたのだ。資金的には困っていないと伝えたら、子どもたちが使えるようにとさまざまな文房具を無償で寄付してくれたのである。

「ありがとうございます！」
「いえいえ。領主としてのあなたの決断に、私たちも感動しました。これはほんの応援の気持ちです」

　これだけでもありがたいし、凄いことだとおもうのだけど……さらに俺を驚かせる事態が待っていた。
　それは――教師として働きたいと志願してやってきた人がいるという点だ。

「初めまして。コリーヌ・マクニコルと申します」

　礼儀正しく頭を下げた若い女性。
　なんでも、きちんとした教員免許を持っているらしいが――って、待てよ。

「マクニコルって……もしかして――」
「はい。領主様が王立学園に体験入学していた際、お世話をさせていただいたアンジェラ・マクニコルの妹です」

　なんと。
　アンジェラ先生の妹さんだったのか。
　彼女曰く、晴れて教員免許を取得でき、学園に勤めようとした時にアンジェラ先生からこのジェロム地方の話を聞かされたという。

　最初は姉の思い出話くらいの感覚で聞いていたのだが、次第にこのジェロム地方に関心を抱くようになり、教師を募集しているという話を耳にして飛びついたという。
　彼女はそのアンジェラ先生に書いてもらった紹介状も持っていた。それには魔力が込められており、俺が無属性魔法のひとつである鑑定魔法で調べたところによると、どうやら本物であると判明。

　うちとしては大歓迎だ。
　ましてや、アンジェラ先生の妹さんというなら安心できる。

「よろしくお願いします。――と言っても、まだ校舎が完成するには少し時間がかかるみたいですけど」
「そうなんですね。ところで、領主様はこれからお出かけですか？」

　首を傾げながら尋ねてくるコリーヌさん。
　それもそのはず。
　今の俺の出で立ちはとても貴族には見えないだろう――何せ、登山用の服装に関連アイテムを装備しているのだから。

「これから何人か連れて山へ向かうつもりなんです。霊峰ガンティアの登頂を目指して」
「あ、あの高い山のてっぺんに行くんですか！？」

　口を半開きにしながら見上げるコリーヌさんの視線の先には、雲を貫く高さを誇る霊峰ガンティアがあった。

「こちらもまだまだ時間はかかりそうですが……領主として、いつまでも未踏としておくわけにはいかないと思って」
「す、凄いですね……ひょっとして、今から向かうのは中継地点とかですか？」
「えぇ。山頂へと続く道へ挑む前にいろいろと補給できる小さな集落をつくる予定でいるんです。今日はその場所を確認しようと思って」
「そ、それ……私も連れて行ってもらえないでしょうか？」

　突然の申し出――だったが、途中から瞳がキラキラと輝き始めていたから、そんなことを言いだすんじゃないかなという予感はあった。

「いいですよ」
「ありがとうございます！　では、早速着替えてまいります！」
「えっ？　着替え？」
「ジェロム地方に霊峰ガンティアがあるというのは以前から知っていまして……そのための準備もバッチリしてきました！」

　それであの大荷物だったのか。
　なんともまあ……賑やかになりそうでよかったよ。