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第一幕 モブメイド令嬢誕生編

08 第二王子誕生パーティ 前編

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「「「アイゼン・アルヴァート様、お誕生日、おめでとうございます!」」」

 クイーンズヴァレー王国、有力貴族のご令嬢、ご令息が集う中、アイゼン第二王子の誕生パーティが始まった。

 尚、この世界では齢十六歳で成人を迎えるため、毎年一月には〝成人の儀〟という一般国民へ向けたお披露目イベントも控えている。この場は王家と親交の深い貴族達が集う身内のパーティのようなもの。

 アイゼン王子の前へ代わる代わる貴族の者達が挨拶へ訪れている。

 ワタクシは中央のテーブルへ並んだケーキをお皿いっぱいへ取り、一人、王宮の味とやらを堪能しようと思っていたのだけれど……。

「まぁ、流石ヴァイオレッタ様! そんなにお食べになられるのにどうやったらその美しい体型を保てるのですか?」
「私達にも是非、その秘訣をご教授願います」

 はい、気がつけば、令嬢達に取り囲まれていたわ。そう、ワタクシは侯爵令嬢であり、第一王子の許嫁。しかも、悪役令嬢として絶対敵に回してはいけないと言われている人物なの。侯爵家より下位にあたる伯爵や男爵の令嬢は、ここぞとばかりにワタクシへ媚びを売ろうと寄って来るという訳ね。
 
 それにしても、取り囲む者はみんな、美男美女ばかり。どうやったらこんなに整った顔になるのか、ワタクシの中のモブメイドがご教授願いたいと言っているわ。適当に会話をしつつ、お皿に置いたケーキを堪能したいのだけれど……駄目ね、食す機会が全くない。

「こらこらお嬢さん達、俺の許嫁を困らせないでくれ」

「嗚呼、クラウン王子様。ご機嫌麗しゅうございます」
「ぽっ。大変失礼致しましたわ」

 ワタクシを取り囲んでいた者達が散り散りとなり、王子が目の前に現れる。クラウンも一通り有力貴族の者達との挨拶を終え、こちらへやって来たらしい。

「助かりましたわ」

 微笑んだ王子は暫くワタクシの顔とテーブルの上の皿を交互に見た後、誰にも聞こえない程度の声で、ワタクシの耳元で囁く。

「そんなに食べるとお腹に溜まるぞ、ヴァイオレッタ」
「ふふふ。何、殺されたいの? クラウン」

 引き攣った笑顔を無理矢理作り、王子の耳元に囁き返すワタクシ。腹黒王子がまさか淑女にそんな台詞を吐いているなんて、周囲の女性陣は想像もしないでしょうね。ワタクシがそう思っていると、遠くから何やら視線を感じる。入口付近に立っているあのメイド? いや、それはないだろう。部屋の端で一人、食事をお皿へ盛っている銀髪銀眼の女性。彼女からの視線のようだ。身につけている衣装は、ワンピース型の簡素な海色アクアマリンのドレス。

 いや、モブメイドからすれば彼女は間違いなくダイアの原石。ただし、沢山令嬢が居るこの場ではきっと馴染めないのだろう。

 ショーン伯爵家の三女――ミランダ・ショーン。ローザからの情報によると、長女と次女とは母親が違うらしく、いつも悪い役回りばかり背負っているのだという。見ると、今もショーン伯爵家の長女と次女が、アイゼンの隣をキープしている。

(成程、そういう事だったのね)

 生前のヴァイオレッタ様は伯爵家の内部事情までは把握していなかったのであろう。同じ歴史を辿るならば、この後、ミランダはヴァイオレッタ様のドレスへジュースを零すのだ。怒ったヴァイオレッタ様が『あなた程度の娘、表舞台に立つ事すら許されないわ』と一蹴した事で、彼女は表舞台へ立つ事が出来なくなってしまったんだそう。

 誕生パーティも終盤となり、そろそろ余興の時間だ。
 さて、メイド情報網で生前仕入れた話だと、ワタクシが中央のテーブルへ飲物を取に行った時、事件が起きた筈。周囲へ警戒をしつつ、ワタクシが飲物を取りに向かうと、丁度ミランダが飲物を取り、離れるタイミングだった。

 そして、ワタクシとすれ違う直前、ワタクシは確かに視たのだ。ショーン伯爵家の次女が素早く回り込み、彼女の脚を引っ掛ける瞬間を。ジュースはワタクシのワインレッドのドレスへと振りかかる。地面へ落ちたグラスが割れ、近くに居た令嬢が悲鳴をあげたのだった。
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