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第一幕 モブメイド令嬢誕生編

09 第二王子誕生パーティ 後編 

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 悲鳴と共に会場内にてどよめきが沸き起こり、ワタクシと狼狽えるミランダへと視線が集まっていく。

「ヴァ、ヴァイオレッタ様! ももも、申し訳ございません!」
 
 控えていた侍女が、素早くワタクシのドレスを拭いていく。眼前のミランダは謝るばかり。

「あなた、名前は?」
「ミ、ミランダ・ショーンと申します」

 『あの子、終わったわね』と周囲の女性陣が小声で話し始めている。ワタクシは、主賓席・・・に座っているにアイコンタクトを取り、合図・・に気づいた彼はゆっくりと席を立つ。

「そう、普段のワタクシならば、あなたを此処で一蹴していたところだけれど。今日の主役は彼だから、彼の判断へ委ねる事にしましょう」
「え?」

 笑顔で颯爽と現れたアイゼンがミランダへ手を差し伸べる。

「きっと何かにつまづいたんだろう? 立てるかい?」
「は、はい」

 立ち上がった彼女の手を取ったまま、アイゼンは、ワタクシへと向き直り。

「今日は祝いの席だ。ヴァイオレッタ、僕の顔に免じて、彼女を許してくれるかい?」
「ええ。結構よ。ワタクシも祝辞の興を醒めさせてしまうような行為をする程、浅はかではないわ」

 ワタクシがその場を離れたところで、王子が手を叩く。

「今日は僕のために集まってくれてありがとう。最後は父上が用意してくれた音楽を聴きながら、ダンスを踊る事にしましょう。ミランダ、だったね。よかったら、僕と踊らないかい?」
「え? でも、私は……」

 自身が王子に相応しくないと思っているのだろうか? 逡巡した表情を作る彼女。

「御言葉ですが、ミランダでは、王子に相応しくありませんわ。是非、わたくしめと」
「ええ。そんな簡素なドレスを着た子より、ワタシと踊って下さいまし」

 登場したのはショーン伯爵家の長女と次女。確かにど派手な衣装に身を包んでいるわね。指輪にティアラに腕輪に首飾り。まるで歩く宝石箱。モブメイドの立場から言わせて貰うと、長女と次女のお二人がモブで、主役はミランダよ。

「いや、今日僕と踊るのは彼女だよ。簡素なドレス? 僕は着飾った女性より、内面が美しい女性を好むんでね」
「なんですって!」

「それに……純粋なダイアの原石を見つけ出し、エスコートするのが、王子の役目だ」

 そう言うと王子は掌を翳す。そして、指をパチンと鳴らすと、ミランダの身につけていた海色アクアマリンのドレスを白い結晶のようなものが渦を成して囲んでいく。細かな氷の結晶が、ダイアモンドダストのように煌めき、海色のドレスは雪色の光輝くドレスへと変化していく。皆、突如始まった氷の魔法によるドレスアップショーに魅入っている。

 氷で出来たティアラを彼女の頭へ乗せ、王子は、一歩後ろへと下がり、片膝をつき、彼女へ右手を差し出す。

「僕と踊ってくれますか? ミランダ・ショーン伯爵令嬢」
「はい、喜んで」

 奏でられる音楽の中、各々ダンスを踊る。ミランダがステップを踏む度に、雪の結晶が煌めき、二人の魅力を引き上げる。今日の主役はアイゼンとミランダ。これでミランダに対する周囲の印象も、アイゼン王子への印象も変わっていくだろう。事の一部始終を見ていたある男は、ワタクシと踊りながら、小声で囁く。

「弟に何か吹き込んだのか?」
「いえ? 何も」
「そうか、まぁいい」

 弟の主役振りに、何やらクラウン王子も嬉しそうだ。こうして、ワタクシは破滅エンドへ向かうフラグを一つ回避し、アイゼン王子とミランダ伯爵令嬢。二人の新たな味方をつけたのだった。
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