88番目のモブメイド、憧れの悪役令嬢になる ~え、待って! 王子にこんな溺愛されるなんて聞いてない!

とんこつ毬藻

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第一幕 モブメイド令嬢誕生編

15 ふたりのモブメイド

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 そして、此処からワタクシの迫力に気圧された者達は、自滅していく。

「あなたはもし、ワタクシが何かの罪を着せられ、お城から追放された時、裏切る? 裏切らない?」
「う、裏切る!? そんな事する筈が!?」

「そう、この間あなた、部屋でワタクシの悪口を言っていなかった? 『あの悪役令嬢、いつか痛い目見るわよって?』」
「だ、誰がそんなこと……」

「そう、じゃあ、あなたは裏切らないのね」
「も……勿論ですわ」

 目が泳いでいますね。10番、脱落。



「あなたはもし、ワタクシが何かの罪を着せられ、お城から追放された時、裏切る? 裏切らない?」
「勿論、あたいは裏切らないぜ! 誓って言えるね」

「そう、じゃあもし、あなたが好意を寄せている55番目のメイド、ウララちゃんとキスしている現場を目撃したなら、どう?」
「……殺す」

「今、何て?」
「あ……しまっ……ヴァイオレッタ様、申し訳ございません」

 はい、33番、不合格。



「ピーチ、あなたはもし、ワタクシが何かの罪を着せられ、お城から追放された時、裏切る? 裏切らない?」
「またまたご冗談を。裏切る訳ないじゃないですかぁ~~」

「そう、あなた確かミュゼファイン王国の伯爵家からわざわざ侯爵家へ来たのよね、それはどうして?」
「あ、それはご主人様へ申し上げた通り、異国との交流を望んだ父上のご意向ですわ」

「へぇ~。その父上は確か、ミュゼファインの王家とも繋がっていたわよね。まさかあなた、ワタクシが王子と親交が深い事を知っていて、国の内部事情を探るため、密偵・・として此処へ来た……なんて事はないわよね?」
「え? ヴァイオレッタ様、何の話をしているのですか?」

「ふふふ、冗談よ。ね、ローザ」
「はい、お嬢様。忠誠深い彼女が密偵な訳ありませんから」

 敢えてワタクシ達の前に座っている41番・・・のメイドではなく、ローザに振るワタクシ。

 彼女の両手が震えているわね。軽く揺さぶりをかけただけだけど、意外と早く炙り出てくれた。当時のモブメイドとしての知識と、グランツ侯爵がメイド達を雇った時の記録から、ある程度の出生や、貴族間の繋がりは把握していたのだ。確証はなかったし、もしかしたら他にも・・・居るのかもしれないけれど、彼女は恐らくマーガレット王女・・・・・・・・と繋がっている。

「で、答えは? あなたは裏切るの? 裏切らないの?」
「……う、裏切りません」

 足元が覚束ない状態で、ピーチは部屋を後にする。生前彼女はこの選抜試験を通過しており、王宮で一緒に仕事をしていた。きっと仕事を熟す中で、王子とヴァイオレッタの動向をマーガレット王女へ報告していたのだろう。

 このままだとグランツ侯爵によって、彼女はきっと屋敷から追放されるだろう。危険因子を一人、排除しただけでも良しとしなければ。ただし、彼女は使える・・・可能性があるため、ただ追放する事はしない。彼女の監視は、信頼出来る第三メイド――ブルームにやって貰おうと思う。

 使えるは使う。あなたはモブでは終わらせない。悪役令嬢はより・・悪役令嬢らしく、うまく立ち回るわ。
 こうしてメイド達は番号順に呼ばれ、いよいよ最後のメイドが入室する事になる。

 黒髪で小柄の目立たないメイドは、小動物のように短い歩幅で部屋の中央へ用意された椅子の前に立ち、恭しく一礼する。
 ワタクシが真っ直ぐ彼女の顔を見つめると、彼女は恥ずかしそうに視線を逸らす。

「88番です! よろしくお願いします!」

 ワタクシとわたし・・・
 二人のわたし・・・による最終面接がいよいよ始まる。

 果たしてわたし・・・はワタクシが知っているわたし・・・なのか。それとも全くの別人なのか。これではっきりする。
 まずはグランツ侯爵が88番目でありながら、最終試験へ残った彼女を称える。そして、王宮メイドとして何故志願するのかを問う。

「グランツ様、ヴァイオレッタ様、ローザ様。見ての通り、わたしは88番目。誰がどう見ても、黒髪のモブメイドです。ですが、ヴァイオレッタ様の傍に仕え、奉仕させていただく事で、わたしも一介のメイドとして、光輝く事が出来る。ヴァイオレッタ様の慶びはわたしの慶び、ヴァイオレッタ様の輝かしい未来を築く事はわたしの幸せなんです」
「ほぅ、そこまでして我が娘を想う理由は、なんだね?」

「知っての通り、わたしはヴァイオレッタ様に拾われました。教会が燃えたあの日、わたしは全てを失い、燃え盛る炎の前でただただ佇んでいた。あのとき、放心状態で涙を流すわたしへ手を差し伸べ、お屋敷に連れて来てくれた御恩。一生忘れません」
「そうであったな」


 あの日、その地の伯爵家に用事があったヴァイオレッタ様は、ローザ、グランツと共にたまたま近くを訪れていた。そして、天上へ昇る黒煙と爆音に導かれ、火事になった教会の前を通りかかったのだ。教会で生き残った子はわたし一人。その様子を見ていたヴァイオレッタ様は、わたしの手を取り、ローザと父グランツ侯爵へ『この子、連れて帰ってもいいかしら?』と言ったのだ。グランツ侯爵は反対したが、ヴァイオレッタ様は頑なだった。あの時、わたし・・・へ見せた彼女の微笑みを、わたし・・・は決して忘れない。

『もう大丈夫よ? あなた名前は?』
『…………』
『言いたくないのなら構わないわ。ワタクシのところへ来なさい』
『……あり……がとう』

 忘れる事のないあの日の記憶。それは〝わたし〟が魂に刻んだ記憶。この過去を知っている眼前のわたし・・・は、やはりわたし・・・であって、他人ではない。

「あなたにひとつ、お尋ねしてもいいかしら?」
「はい、お願いします、ヴァイオレッタ様」

「あなたはもし、ワタクシが何かの罪を着せられ、お城から追放された時、裏切る? 裏切らない?」
「え?」

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