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閑章2 奔走のモブメイド
37 そうだ、秘湯へ行こう! 前編
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皆さんこんにちは!
ヴァイオレッタ様の中に居るモブメイドです。本日もヴァイオレッタ姿のモブメイドがお届けします。
本日はなんと、カインズベリー侯爵家所有のカインズベリー領内にある秘湯へ来ています。ちょうどヴァイオレッタ様の実家であるカインズベリー家へ用事がありまして、その帰りに立ち寄ったという訳なんですねぇ~。
ふふふ、この秘湯。カインズベリー家が持っている果樹園――ブレスフォレストの近くにあるのですが、普段誰も立ち寄らないような場所にあるため、我々カインズベリー家の者くらいしか知らないんですねぇ~。つまり山奥の天然温泉貸切状態! これを利用しない手はない! という訳なのです。
果樹園にはあのアップルタルトの材料としても利用している星林檎の赤い実が陽光を反射させてキラキラと輝いています。ひとつもぎって赤い実を齧ると、少しの酸味のあと、星林檎の自然な甘さが口の中へ広がっていきます。
「今年も豊作ね。ローザ、あなたも食べる?」
「い、いえ。私は遠慮しておきます」
わたしの背後に控える銀髪メイドが一礼します。メイド長であるローザ、こういうところは真面目なんですよね。『せっかく果樹園の近くを通るからブレスフォレストの秘湯へ立ち寄らない?』というわたしからの提案も、最初ローザは猛反対。でも日々激務であるからこそ、疲れを取る事も大事だというわたしの説得に渋々納得してくれた彼女なのです。
護衛のお付と馬車は果樹園の入口に置いた状態で、今一緒に居るのはローザとわたし、そして陰からわたしを守ってくれる第3メイドのブルームの三人。モブメイドであるこの世界線に居るもう一人の〝わたし〟は王宮での仕事がありお留守番。クラウン王子は何やら騎士団の出動要請があったらしく、朝から騎士団の人と現場へと出掛けていったみたいです。
心配している方は少ないかもですが、マーガレット王女は近況報告も兼ねてダブルスパイのピーチが監視中。つまり、今のわたしは誰の目も気にする事なく、温泉で疲れを癒やす事が出来るという訳なんですねぇ、フフフフフ。
「ヴァイオレッタ様、そんなに温泉が楽しみだったのですか? 口から笑みが零れていますよ」
「気の所為ですわよ。さ、日頃激務でローザも疲れているでしょう? ブルームも、秘湯へ入りましょう」
森の奥を抜け、丁度岩場に囲まれた先に湯気がもくもくと出ている場所がわたし達の前へ現れる。これがカインズベリー侯爵家自慢の秘湯、祝福の泉です。
ちゃんと衣服を脱ぐ鍵つきの小屋までちゃんと完備しており、盗難の心配はない。ちなみに、混浴ではあるが、此処には今乙女しかいないので、乙女の時間を堪能しようと思います。
「はぁーーー生き返るわぁ~~~」
「そうですね」
「同意」
ヴァイオレッタ姿のわたしと銀髪メイドのローザ、短髪蒼髪のブルーム3人で温泉へ浸かる。ヴァイオレッタ様の破滅を回避すべく、日々頭も身体もフル回転だったため、温泉の温もりが肌に染みます。
岩場から染みだす天然の聖なる魔力も携えた温泉は、肩こりや腰痛、魔力回復、肉体疲労に効果があるだけでなく、美肌なんかにも効果がある。まぁ、モブメイドと違って、ヴァイオレッタ様のお肌は何もしなくてもつるつるすべすべなんですけどね。
そんな事を考えていると、向かいに座っているブルームの視線を何やら感じて向き直るとすぐに彼女は視線を逸らす。視線の先はわたしの顔ではなく……もう少し下だったような……はっ!?
そしてわたしは気づく。そうだった。今はモブメイドではなく、ヴァイオレッタ様の姿なのだ。そう、湯船にたわわに実った女神の果実がふたつ、見事に浮かんでいたのだ。これは正真正銘、わたし=ヴァイオレッタ様の果実だった。
「気になるの?」
「(ふるふるふるふる)」
そっと果実に手をあてて、優しく話しかけるわたし。激しく首を横に振るブルーム。わたしもブルームもこんなにたわわに実った果実ではなく、まだまだ小さな蕾。
蕾もいつか華開く。大丈夫、ブルーム。むしろあなたにはあなたの魅力があるってみんな知ってるから。
ええ、気持ちは分かりますとも、モブメイドはヴァイオレッタ様の果実に触れ、何度赤い液体を飛散させて気絶しかけた事か。
お風呂に入る度に気絶してしまっては大変なので、今では耐性がついているのだ。人間変わるものなんですね。
そんなわたしとブルームのやり取りを見ていたローザが笑顔でわたしの横へとやって来て……。
「ヴァイオレッタ様、お疲れでしょう、肩をお揉みします」
「あら、ありがとう、ローザ。気が利くわね」
銀髪メイドの髪から石鹸のいい香りがする。わたしの後ろに廻り込んだローザが肩を揉んでくれる。その様子を見ているブルームの顔はだんだん温泉に沈んでいき、口から出した空気で湯船をブクブクさせている。へぇー、普段陰から見守っていて感情を表に出さないブルーム。意外とあの子、こういうのに慣れてないんだな。可愛いところあるな。
「はぁーローザ。そこよー、気持ちいいわ~。ブルーム、あなたもこっちへ来たら?」
「(ボコボコボコ)」
どうやら恥ずかしくて近づけないようだ。ローザと顔を見合わせるわたし。そして、ゆっくりと頷き、ブルームが居る場所へ移動を開始、ブルームを捕まえようとする。素早く飛び上がるブルーム。着地地点へ待ち構えるローザ。ブルームの身体にわたしが触れようとしたその時、岩場の温泉へ向けて、何かの咆哮が響いたのです。
ヴァイオレッタ様の中に居るモブメイドです。本日もヴァイオレッタ姿のモブメイドがお届けします。
本日はなんと、カインズベリー侯爵家所有のカインズベリー領内にある秘湯へ来ています。ちょうどヴァイオレッタ様の実家であるカインズベリー家へ用事がありまして、その帰りに立ち寄ったという訳なんですねぇ~。
ふふふ、この秘湯。カインズベリー家が持っている果樹園――ブレスフォレストの近くにあるのですが、普段誰も立ち寄らないような場所にあるため、我々カインズベリー家の者くらいしか知らないんですねぇ~。つまり山奥の天然温泉貸切状態! これを利用しない手はない! という訳なのです。
果樹園にはあのアップルタルトの材料としても利用している星林檎の赤い実が陽光を反射させてキラキラと輝いています。ひとつもぎって赤い実を齧ると、少しの酸味のあと、星林檎の自然な甘さが口の中へ広がっていきます。
「今年も豊作ね。ローザ、あなたも食べる?」
「い、いえ。私は遠慮しておきます」
わたしの背後に控える銀髪メイドが一礼します。メイド長であるローザ、こういうところは真面目なんですよね。『せっかく果樹園の近くを通るからブレスフォレストの秘湯へ立ち寄らない?』というわたしからの提案も、最初ローザは猛反対。でも日々激務であるからこそ、疲れを取る事も大事だというわたしの説得に渋々納得してくれた彼女なのです。
護衛のお付と馬車は果樹園の入口に置いた状態で、今一緒に居るのはローザとわたし、そして陰からわたしを守ってくれる第3メイドのブルームの三人。モブメイドであるこの世界線に居るもう一人の〝わたし〟は王宮での仕事がありお留守番。クラウン王子は何やら騎士団の出動要請があったらしく、朝から騎士団の人と現場へと出掛けていったみたいです。
心配している方は少ないかもですが、マーガレット王女は近況報告も兼ねてダブルスパイのピーチが監視中。つまり、今のわたしは誰の目も気にする事なく、温泉で疲れを癒やす事が出来るという訳なんですねぇ、フフフフフ。
「ヴァイオレッタ様、そんなに温泉が楽しみだったのですか? 口から笑みが零れていますよ」
「気の所為ですわよ。さ、日頃激務でローザも疲れているでしょう? ブルームも、秘湯へ入りましょう」
森の奥を抜け、丁度岩場に囲まれた先に湯気がもくもくと出ている場所がわたし達の前へ現れる。これがカインズベリー侯爵家自慢の秘湯、祝福の泉です。
ちゃんと衣服を脱ぐ鍵つきの小屋までちゃんと完備しており、盗難の心配はない。ちなみに、混浴ではあるが、此処には今乙女しかいないので、乙女の時間を堪能しようと思います。
「はぁーーー生き返るわぁ~~~」
「そうですね」
「同意」
ヴァイオレッタ姿のわたしと銀髪メイドのローザ、短髪蒼髪のブルーム3人で温泉へ浸かる。ヴァイオレッタ様の破滅を回避すべく、日々頭も身体もフル回転だったため、温泉の温もりが肌に染みます。
岩場から染みだす天然の聖なる魔力も携えた温泉は、肩こりや腰痛、魔力回復、肉体疲労に効果があるだけでなく、美肌なんかにも効果がある。まぁ、モブメイドと違って、ヴァイオレッタ様のお肌は何もしなくてもつるつるすべすべなんですけどね。
そんな事を考えていると、向かいに座っているブルームの視線を何やら感じて向き直るとすぐに彼女は視線を逸らす。視線の先はわたしの顔ではなく……もう少し下だったような……はっ!?
そしてわたしは気づく。そうだった。今はモブメイドではなく、ヴァイオレッタ様の姿なのだ。そう、湯船にたわわに実った女神の果実がふたつ、見事に浮かんでいたのだ。これは正真正銘、わたし=ヴァイオレッタ様の果実だった。
「気になるの?」
「(ふるふるふるふる)」
そっと果実に手をあてて、優しく話しかけるわたし。激しく首を横に振るブルーム。わたしもブルームもこんなにたわわに実った果実ではなく、まだまだ小さな蕾。
蕾もいつか華開く。大丈夫、ブルーム。むしろあなたにはあなたの魅力があるってみんな知ってるから。
ええ、気持ちは分かりますとも、モブメイドはヴァイオレッタ様の果実に触れ、何度赤い液体を飛散させて気絶しかけた事か。
お風呂に入る度に気絶してしまっては大変なので、今では耐性がついているのだ。人間変わるものなんですね。
そんなわたしとブルームのやり取りを見ていたローザが笑顔でわたしの横へとやって来て……。
「ヴァイオレッタ様、お疲れでしょう、肩をお揉みします」
「あら、ありがとう、ローザ。気が利くわね」
銀髪メイドの髪から石鹸のいい香りがする。わたしの後ろに廻り込んだローザが肩を揉んでくれる。その様子を見ているブルームの顔はだんだん温泉に沈んでいき、口から出した空気で湯船をブクブクさせている。へぇー、普段陰から見守っていて感情を表に出さないブルーム。意外とあの子、こういうのに慣れてないんだな。可愛いところあるな。
「はぁーローザ。そこよー、気持ちいいわ~。ブルーム、あなたもこっちへ来たら?」
「(ボコボコボコ)」
どうやら恥ずかしくて近づけないようだ。ローザと顔を見合わせるわたし。そして、ゆっくりと頷き、ブルームが居る場所へ移動を開始、ブルームを捕まえようとする。素早く飛び上がるブルーム。着地地点へ待ち構えるローザ。ブルームの身体にわたしが触れようとしたその時、岩場の温泉へ向けて、何かの咆哮が響いたのです。
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