88番目のモブメイド、憧れの悪役令嬢になる ~え、待って! 王子にこんな溺愛されるなんて聞いてない!

とんこつ毬藻

文字の大きさ
37 / 58
閑章2 奔走のモブメイド

37 そうだ、秘湯へ行こう! 前編

しおりを挟む
 皆さんこんにちは! 

 ヴァイオレッタ様の中に居る・・・・モブメイドです。本日もヴァイオレッタ姿のモブメイドがお届けします。

 本日はなんと、カインズベリー侯爵家所有のカインズベリー領内にある秘湯へ来ています。ちょうどヴァイオレッタ様の実家であるカインズベリー家へ用事がありまして、その帰りに立ち寄ったという訳なんですねぇ~。

 ふふふ、この秘湯。カインズベリー家が持っている果樹園――ブレスフォレストの近くにあるのですが、普段誰も立ち寄らないような場所にあるため、我々カインズベリー家の者くらいしか知らないんですねぇ~。つまり山奥の天然温泉貸切状態! これを利用しない手はない! という訳なのです。

 果樹園にはあのアップルタルトの材料としても利用している星林檎ステラアップルの赤い実が陽光を反射させてキラキラと輝いています。ひとつもぎって赤い実をかじると、少しの酸味のあと、星林檎の自然な甘さが口の中へ広がっていきます。

「今年も豊作ね。ローザ、あなたも食べる?」
「い、いえ。私は遠慮しておきます」

 わたしの背後に控える銀髪メイドが一礼します。メイド長であるローザ、こういうところは真面目なんですよね。『せっかく果樹園の近くを通るからブレスフォレストの秘湯へ立ち寄らない?』というわたしからの提案も、最初ローザは猛反対。でも日々激務であるからこそ、疲れを取る事も大事だというわたしの説得に渋々納得してくれた彼女なのです。

 護衛のお付と馬車は果樹園の入口に置いた状態で、今一緒に居るのはローザとわたし、そして陰からわたしを守ってくれる第3メイドのブルームの三人。モブメイドであるこの世界線に居るもう一人の〝わたし〟は王宮での仕事がありお留守番。クラウン王子は何やら騎士団の出動要請があったらしく、朝から騎士団の人と現場へと出掛けていったみたいです。

 心配している方は少ないかもですが、マーガレット王女は近況報告も兼ねてダブルスパイのピーチが監視中。つまり、今のわたしは誰の目も気にする事なく、温泉で疲れを癒やす事が出来るという訳なんですねぇ、フフフフフ。

「ヴァイオレッタ様、そんなに温泉が楽しみだったのですか? 口から笑みが零れていますよ」
「気の所為ですわよ。さ、日頃激務でローザも疲れているでしょう? ブルームも、秘湯へ入りましょう」

 森の奥を抜け、丁度岩場に囲まれた先に湯気がもくもくと出ている場所がわたし達の前へ現れる。これがカインズベリー侯爵家自慢の秘湯、祝福の泉ブレススプリングです。

 ちゃんと衣服を脱ぐ鍵つきの小屋までちゃんと完備しており、盗難の心配はない。ちなみに、混浴ではあるが、此処には今乙女しかいないので、乙女の時間を堪能しようと思います。

「はぁーーー生き返るわぁ~~~」
「そうですね」
「同意」

 ヴァイオレッタ姿のわたしと銀髪メイドのローザ、短髪蒼髪のブルーム3人で温泉へ浸かる。ヴァイオレッタ様の破滅を回避すべく、日々頭も身体もフル回転だったため、温泉の温もりが肌に染みます。

 岩場から染みだす天然の聖なる魔力も携えた温泉は、肩こりや腰痛、魔力回復、肉体疲労に効果があるだけでなく、美肌なんかにも効果がある。まぁ、モブメイドと違って、ヴァイオレッタ様のお肌は何もしなくてもつるつるすべすべなんですけどね。

 そんな事を考えていると、向かいに座っているブルームの視線を何やら感じて向き直るとすぐに彼女は視線を逸らす。視線の先はわたしの顔ではなく……もう少し下だったような……はっ!?

 そしてわたしは気づく。そうだった。今はモブメイドではなく、ヴァイオレッタ様の姿なのだ。そう、湯船にたわわに実った女神の果実がふたつ、見事に浮かんでいたのだ。これは正真正銘、わたし=ヴァイオレッタ様の果実だった。

「気になるの?」
「(ふるふるふるふる)」

 そっと果実に手をあてて、優しく話しかけるわたし。激しく首を横に振るブルーム。わたしもブルームもこんなにたわわに実った果実ではなく、まだまだ小さな蕾。

 蕾もいつか華開く。大丈夫、ブルーム。むしろあなたにはあなたの魅力があるってみんな知ってるから。

 ええ、気持ちは分かりますとも、モブメイドはヴァイオレッタ様の果実に触れ、何度赤い液体を飛散させて気絶しかけた事か。

 お風呂に入る度に気絶してしまっては大変なので、今では耐性がついているのだ。人間変わるものなんですね。

 そんなわたしとブルームのやり取りを見ていたローザが笑顔でわたしの横へとやって来て……。

「ヴァイオレッタ様、お疲れでしょう、肩をお揉みします」
「あら、ありがとう、ローザ。気が利くわね」

 銀髪メイドの髪から石鹸のいい香りがする。わたしの後ろに廻り込んだローザが肩を揉んでくれる。その様子を見ているブルームの顔はだんだん温泉に沈んでいき、口から出した空気で湯船をブクブクさせている。へぇー、普段陰から見守っていて感情を表に出さないブルーム。意外とあの子、こういうのに慣れてないんだな。可愛いところあるな。

「はぁーローザ。そこよー、気持ちいいわ~。ブルーム、あなたもこっちへ来たら?」
「(ボコボコボコ)」

 どうやら恥ずかしくて近づけないようだ。ローザと顔を見合わせるわたし。そして、ゆっくりと頷き、ブルームが居る場所へ移動を開始、ブルームを捕まえようとする。素早く飛び上がるブルーム。着地地点へ待ち構えるローザ。ブルームの身体にわたしが触れようとしたその時、岩場の温泉へ向けて、何かの咆哮が響いたのです。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

王宮追放された没落令嬢は、竜神に聖女へ勝手にジョブチェンジさせられました~なぜか再就職先の辺境で、王太子が溺愛してくるんですが!?~

結田龍
恋愛
「小娘を、ひっ捕らえよ!」 没落令嬢イシュカ・セレーネはランドリック王国の王宮術師団に所属する水術師だが、宰相オズウェン公爵によって、自身の娘・公爵令嬢シャーロットの誘拐罪で王宮追放されてしまう。それはシャーロットとイシュカを敵視する同僚の水術師ヘンリエッタによる、退屈しのぎのための陰湿な嫌がらせだった。 あっという間に王都から追い出されたイシュカだが、なぜか王太子ローク・ランドリックによって助けられ、「今度は俺が君を助けると決めていたんだ」と甘く告げられる。 ロークとは二年前の戦争終結時に野戦病院で出会っていて、そこで聖女だとうわさになっていたイシュカは、彼の体の傷だけではなく心の傷も癒したらしい。そんなイシュカに対し、ロークは甘い微笑みを絶やさない。 あわあわと戸惑うイシュカだが、ロークからの提案で竜神伝説のある辺境の地・カスタリアへ向かう。そこは宰相から実権を取り返すために、ロークが領主として領地経営をしている場所だった。 王宮追放で職を失ったイシュカはロークの領主経営を手伝うが、ひょんなことから少年の姿をした竜神スクルドと出会い、さらには勝手に聖女と認定されてしまったのだった。 毎日更新、ハッピーエンドです。完結まで執筆済み。 恋愛小説大賞にエントリーしました。

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

処理中です...