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第三幕(最終章)真実追究編

39 真実への道筋

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 運命の社交界から数ヶ月が経った――

 ワタクシと王子があの後、現場へ戻った時には、貴族達は解散。宿泊予定だった有力貴族達も安全なところへ避難、証拠は既に回収され、現場検証も終わった後だった。

 王子とワタクシは、殺害しようとしたであろう騎士団員を探し出し、捕まえようとしたのだが、その時衝撃の事実を知る事となる。

 その騎士団員は初めから存在しなかったのだ・・・・・・・・・

 騎士団フレイアも、他の騎士団員も、犯人らしき騎士団員の存在を知らなかったのだ。これでワタクシ達は確信する。むしろ暗殺者からワタクシを守ったのなら、称賛されるべき事案。それをむしろ正体を隠したとなると、その人物こそが真犯人であり、騎士団員へ化けた偽物の可能性も指摘されるのだ。

 あのとき怪しいと感じたマーガレット王女は、そのまま国へと帰っていった。そして、彼女が扮していた王宮のモブメイドも姿を消した。

(暗殺が失敗し、王子ともう交渉する必要がなくなったという事?)

 でも、暗礁に乗り上げたかに見えた事件だったが、少しずつ分かって来た事があった。今日もワタクシは、真実へ辿り着くため、王宮敷地内のとある場所へと出向いている。

「ヴァイオレッタ様、今日もお調べ物ですか?」
「ええローザ、ちょっと奥に籠もるわね」
「畏まりした。あとで紅茶をお持ち致します」
「感謝するわ」

 王宮の敷地内にある王立図書館。ここには世界中から集められた文芸書から歴史書、魔法の事が記された魔導書から御伽話と言われる子供向けに書かれた本まで、ありとあらゆる本が揃っているのだ。

 図書館へ行くきっかけとなったのは、ワタクシを助けた彼――ジルバート・シリウスだった。

 社交界の日、彼がワタクシを守るために投げた銀刀。その銀刀の柄についていた蛇の飾りには見覚えがあったのだ。

 あれは、ブラックシリウス帝国の紋様だった。かつて、英雄クロスロードとの戦い敗れたマリウス帝国。領地の半分を奪われ、解体したかに見えた帝国。その跡地に出来たのがブラックシリウス国だ。

 クイーンズヴァレー国とミュゼファイン国は親交があるが、ブラックシリウス帝国は独立国家として、独自の発展を遂げ、他国と一切の貿易を禁止している。かつての歴史を振り返ってみても、クイーンズヴァレーは常に敵視されている可能性があるのだ。

 そして、現帝国の王の名前が、スレイヴ・カオス・シリウス。ジルバート・シリウスという名前と銀刀の紋様で確信した。ジルバートはブラックシリウス帝国の皇族関係者であると。
 
「あった、この本だわ……」

 この日は王子を通じ、王立図書館奥にある、関係者以外立ち入り禁止のフロアへと入っていた。ここには悪魔召喚や、禁術とされる高位魔法の魔導書、表に出ていない歴史が記された書など、普通では読む事の出来ない本が多数眠っているのだ。

『セイブザクイーンの真実~英雄クロスロードと聖女ミネルバ』

 ジルバートが一体何をしようとしているのか? なぜ犯人はワタクシの命を狙うのか? マーガレット王女はただ王子を寝取って自国の地位を高めたかっただけなのか? あのときジルバートは物事を断片でしか捉えていないようでは、真実には辿り着けないと言った。この本は真実へ一歩近づくための手掛かりになる気がしたのだ。

 そこに記されていた真実。英雄クロスロードはやはり悪魔と契約し、魔物を召喚していたらしい。英雄ひとりの力では、魔物全てを倒す事は不可能だった。そこで聖女ミネルバが共に立ち上がったのだ。

「この女神像……どこかで……」

 聖女が銀色の女神像に祈りを捧げると、英雄の持つ女神の聖剣ミューズセイバーが輝きを増し、地に蔓延る魔物を浄化したのだそう。そして、英雄クロスロードは皇帝ヘルズバーンを打ち破った。

 表向きには英雄と皇帝の話しか描かれていない物語。その背景には聖女の存在があった。聖女と言えば、クイーンズヴァレー国西、セイヴサイド領にある神殿。あそこにはミレイ令嬢という聖女が今も存在しており、先日の社交界にも領主であるホワイト侯爵と参加されていた。

『聖女の力は認められし血継へと受け継がれていく。いつの世も、悪魔は闇に紛れ、背後に潜んでいるもの。だが、聖女の力がある限り、悪魔が再び世に蔓延る事はないだろう』

 禁書はこの言葉で締め括られていた。

 もしかして、過去カインズベリー侯爵家が滅んだ背景にも、悪魔が絡んでいるのだろうか? しかし、聖女が邪魔なら聖女を抹殺すればいいだけの話。社交界の場には次期聖女とされるミレイ令嬢も居たのだから。

(真実へ近づいた気がしたんだけど、余計複雑になって来た気がするわね)

 ワタクシの中のモブメイドはもう頭の中が飽和状態でこれ以上考えられないらしい。これ以上考えても先に進まなそうだったので、ここは一旦禁書庫を出よう。禁書庫を出るとローザが紅茶とケーキを用意して待ち構えていた。

「そろそろかと思い、準備しておきました」
「流石ね、ローザ」

 持つべきものは有能なメイドである。やはり、考え事をする時は、甘い物に限る。甘味成分が飽和した頭をゆっくりと溶かしていく。


 ――はぅうううう~モブメイドはぁああああ~~このまま甘味の海に流れて溶けていきますぅううう(byモブメイド)

 そのときだった。何かの映像が脳内に浮かぶ。誰かと食卓を囲む光景。誰かの手作りパイを子供達みんなで食べている。一瞬映った女性の優しそうな笑顔。そして、みんなで祈りを捧げている映像。祈りを捧げている先には銀色の女神像――

「ぅうっ!」
「ヴァイオレッタ様、ヴァイオレッタ様!」

 手に持っていた紅茶のカップが床へと落ち、椅子から崩れ落ちるようにして、ワタクシはそのまま気を失うのだった――
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