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「え?」
「ママに貰ったの。ママが昔使ってたフルート」
言うとぬいぐるみの背中から楽器ケースが現れた。
「うっわー、何それ? そんなんあるんだ?」
まさにミニチュアダックスフントのサイズ感がフルートケースとしてジャストサイズだから。
女の子だなあ、と感心してしまう。
「あ、じゃあさ、じゃあさ。リビングにピアノあるから、えな、ピアノ弾いてアンサンブルしない?」
「はいいい?」突然の涼の無茶ぶりに思わず変な声が出る。
「恵那ピアノ弾けるの?」
「いや、まあ弾けるっちゃー弾けるけど。楽譜ないとまともには弾けない」
「弾いて弾いてー! 合奏、したい!」
キリエまでそう言って目をキラキラさせて。
可愛いコにそんな期待されて、黙っていられる恵那ではない。
「しょーがねーな、惚れんなよー?」
ちょっとナめてたのは否めない。
さすがに高校に入ってからはたまにしか弾いていなかったけれど、中学まではちゃんとレッスンも受けていたから、まあテキトーに流せばいいか、と。
そんな考えが、リビングにどーんと置かれているグランドピアノを見て、とりあえず固まった。
「え? ピアノって、グランド?」
しかも燦然と煌めくロゴはSteinway & Sons。
そんなもの、舞台くらいでしか弾いたことはない。ちなみに家にあるのは電子ピアノだ。
「ん。僕も中学までは一応習ってたよー。おかあさんが弾くし、香ちゃんも習ってる」
忙しいらしい涼の母の姿は既になく、リビングには誰もいない。
「えっと……グランドピアノなんか、俺当分弾いてないぞ?」
「でも合唱の伴奏とかもやってたんでしょ?」
「そりゃ、まあ……くっそ、指、動くかな」
軽く手を振って、指を組んで手首を回す。
鍵盤の蓋を開けて、軽く音を鳴らしてみた。
「お、気持ちいいな」
鍵盤の重さが心地良い。このピアノが飾りではないのがわかる、ちゃんと手入れされて弾き込まれている状態。
参ったな、と思いながらも椅子の高さを調整して座ると、鍵盤にそっと指を置いた。
中学時代最後のピアノ発表会で弾いたドビュッシーのアラベスクを、思い出して弾いてみる。
完全にあやふやなので、ところどころアヤしいが、とりあえず指のウォーミングアップ的に。
「えな、すごおい。めっちゃ綺麗」
「いや、俺さすがにコレでドヤれるほど神経太くねーわ。涼も習ってたならわかるだろ、今のがちょーテキトーなのは!」
俺様恵那でも、さすがに曖昧な記憶で弾いていた今の演奏では強気には出れない。
「んーん、僕ピアノ、練習サボりまくってたから超へたっぴだもん。ブルグミュラーが限界」
「キリもピアノは苦手なのー。鍵盤重くて、そんなに綺麗な音、鳴らせないもん。恵那、すごおい」
自己採点では完全に三十点レベルな演奏ではあったが、どうやらこの美少女二人にはウけたらしく、恵那の自信がムクムクと大きくなる。
むふ、と鼻を高くすると。
「キリちゃん、三年ってことはゆずの“友”とかは?」
「あ、合唱やるから楽譜あるよ」
「んじゃ、フルートでメロディー吹きなよ。俺、伴奏してやる」
中学校の卒業式で伴奏した合唱曲。どこの中学もこの曲ならやっているだろうと恵那が提案した。
真面目にハノンなんてコンクールや発表会前にしかしないで、とにかく耳コピで気に入ったJポップばかりを弾いていた恵那だから、こっちなら恐らくもっとカッコ良く弾けるだろう。
楽譜を見たら編曲こそ違っていたが、キーが同じだったからどうとでもなる。
「んじゃ、行くよ」
そう言って、恵那とキリエが二人で目を見合わせながら演奏したアンサンブルは、初めて会った二人とは思えない程息が合っていて。
涼も中学時代に合唱した曲だったから、低音のハモを歌って合わせて。
三人で演奏したその曲は、とにかく楽しくて。
終わった瞬間三人で拍手していた。
「すっごい、めっちゃ楽しい」
キリエが言うと「ねー、楽しいねー」と涼も一緒になって手を繋いできゃぴきゃぴしていて。
どこからどう見ても姉妹でしかない。
「キリちゃんさー、いつまでこっちいんの?」
可愛い二人を見ていると自然と目が細くなる。恵那が訊くと、
「冬休み中はいるよー。日曜日まで、かな」というキリエの返事を聞いて、ニヤリと嗤った。
涼は知っている、恵那がこの顔をした時は必ず何かを企んでいるということを。
「ママに貰ったの。ママが昔使ってたフルート」
言うとぬいぐるみの背中から楽器ケースが現れた。
「うっわー、何それ? そんなんあるんだ?」
まさにミニチュアダックスフントのサイズ感がフルートケースとしてジャストサイズだから。
女の子だなあ、と感心してしまう。
「あ、じゃあさ、じゃあさ。リビングにピアノあるから、えな、ピアノ弾いてアンサンブルしない?」
「はいいい?」突然の涼の無茶ぶりに思わず変な声が出る。
「恵那ピアノ弾けるの?」
「いや、まあ弾けるっちゃー弾けるけど。楽譜ないとまともには弾けない」
「弾いて弾いてー! 合奏、したい!」
キリエまでそう言って目をキラキラさせて。
可愛いコにそんな期待されて、黙っていられる恵那ではない。
「しょーがねーな、惚れんなよー?」
ちょっとナめてたのは否めない。
さすがに高校に入ってからはたまにしか弾いていなかったけれど、中学まではちゃんとレッスンも受けていたから、まあテキトーに流せばいいか、と。
そんな考えが、リビングにどーんと置かれているグランドピアノを見て、とりあえず固まった。
「え? ピアノって、グランド?」
しかも燦然と煌めくロゴはSteinway & Sons。
そんなもの、舞台くらいでしか弾いたことはない。ちなみに家にあるのは電子ピアノだ。
「ん。僕も中学までは一応習ってたよー。おかあさんが弾くし、香ちゃんも習ってる」
忙しいらしい涼の母の姿は既になく、リビングには誰もいない。
「えっと……グランドピアノなんか、俺当分弾いてないぞ?」
「でも合唱の伴奏とかもやってたんでしょ?」
「そりゃ、まあ……くっそ、指、動くかな」
軽く手を振って、指を組んで手首を回す。
鍵盤の蓋を開けて、軽く音を鳴らしてみた。
「お、気持ちいいな」
鍵盤の重さが心地良い。このピアノが飾りではないのがわかる、ちゃんと手入れされて弾き込まれている状態。
参ったな、と思いながらも椅子の高さを調整して座ると、鍵盤にそっと指を置いた。
中学時代最後のピアノ発表会で弾いたドビュッシーのアラベスクを、思い出して弾いてみる。
完全にあやふやなので、ところどころアヤしいが、とりあえず指のウォーミングアップ的に。
「えな、すごおい。めっちゃ綺麗」
「いや、俺さすがにコレでドヤれるほど神経太くねーわ。涼も習ってたならわかるだろ、今のがちょーテキトーなのは!」
俺様恵那でも、さすがに曖昧な記憶で弾いていた今の演奏では強気には出れない。
「んーん、僕ピアノ、練習サボりまくってたから超へたっぴだもん。ブルグミュラーが限界」
「キリもピアノは苦手なのー。鍵盤重くて、そんなに綺麗な音、鳴らせないもん。恵那、すごおい」
自己採点では完全に三十点レベルな演奏ではあったが、どうやらこの美少女二人にはウけたらしく、恵那の自信がムクムクと大きくなる。
むふ、と鼻を高くすると。
「キリちゃん、三年ってことはゆずの“友”とかは?」
「あ、合唱やるから楽譜あるよ」
「んじゃ、フルートでメロディー吹きなよ。俺、伴奏してやる」
中学校の卒業式で伴奏した合唱曲。どこの中学もこの曲ならやっているだろうと恵那が提案した。
真面目にハノンなんてコンクールや発表会前にしかしないで、とにかく耳コピで気に入ったJポップばかりを弾いていた恵那だから、こっちなら恐らくもっとカッコ良く弾けるだろう。
楽譜を見たら編曲こそ違っていたが、キーが同じだったからどうとでもなる。
「んじゃ、行くよ」
そう言って、恵那とキリエが二人で目を見合わせながら演奏したアンサンブルは、初めて会った二人とは思えない程息が合っていて。
涼も中学時代に合唱した曲だったから、低音のハモを歌って合わせて。
三人で演奏したその曲は、とにかく楽しくて。
終わった瞬間三人で拍手していた。
「すっごい、めっちゃ楽しい」
キリエが言うと「ねー、楽しいねー」と涼も一緒になって手を繋いできゃぴきゃぴしていて。
どこからどう見ても姉妹でしかない。
「キリちゃんさー、いつまでこっちいんの?」
可愛い二人を見ていると自然と目が細くなる。恵那が訊くと、
「冬休み中はいるよー。日曜日まで、かな」というキリエの返事を聞いて、ニヤリと嗤った。
涼は知っている、恵那がこの顔をした時は必ず何かを企んでいるということを。
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